突然、俺と潤の前に現れた彼は坪倉と名乗った。

彼は、最近業界を騒がせる新進気鋭のインテリアデザイナーで、ネットで彼の手掛けた物件を見て興味が湧いたため、この物件をリノベーションする際に、彼にデザインをお願いできないかと連絡をとっていたのだ。

電話で話した時は、かなりフランクで好感の持てる人物のようだったので、下見をしたいという彼に場所を教えていた。




「凄くいい物件ですね、ここに目をつけられたのは流石です」

お世辞にも聞こえる言葉だが、彼が言うと嫌みなく聞こえる…

「俺…建築は専門ではないので詳しくは分からないけど…彼は凄く優秀な建築士なんですよ」

潤が無邪気に俺のフォローをしてくれる。




坪倉さんは潤を見つめると…

「失礼ですが…」

潤が俺を見つめてくるので…

「私の友人です…」

「松本潤っていいます」

何も感じていないらしい潤は、ニッコリ笑って愛想よく挨拶をする。

もちろん…

潤は友人などではなく恋人なのだが…

初対面の人物に本当の事を話す必要はないと判断し、友人と紹介したのだった。

「ああ…お友達…」




何となくだが…

彼は、“お友達”と言う事を信じてはいなかった。

「櫻井さんのこの物件ですが…是非ともデザインさせていただけたらと思います」

彼は熱を込めて…

いや…

潤を見つめながら…そう言った…




潤は、リノベーションが具体的に話が進んだと思ったらしく、嬉しそうに…

「ホントに?坪倉さんがインテリアをデザインしてくれるの?」

「いや…えっと…坪倉さん…正式契約したわけではないので、まだ中を見ることは出来ませんけど…」

「是非ともお願いいたします」




坪倉さん程の売れっ子で、引く手あまたのデザイナーが、自身からこれほどまでにアピールするなんて…

なぜ?

潤がいるから?

ついつい勘ぐってしまう…




坪倉さんには、また後日連絡をするからと伝えると帰って行った。

2人でマンションに戻り、潤が坪倉さんの手掛けた物件を見たいと言うのでネットを見せると…

「凄い!素敵だね、絶対に彼にデザインしてもらおうよ」

潤は、すっかり彼のデザインが気に入ったようだった。




彼が潤に気があるような素振りを見せたように思えたのは…

きっと気のせいに違いない…

そう思い込む事にした。




今日もベッドの中で甘えてくる潤を愛おしく思い…

ギュと抱きしめると…




「何?どうしたの?」

ちょっとした俺の心の揺れを感じ取る事の出来る潤は、鋭く俺の異変を感じたらしい…

「潤…愛してるよ…」

「ふふっ…今更どうしたの?」

「いや…なんでもない」

「ホントに?」

「うん…ねえ潤…ずっと俺と一緒に…いてくれる?」

潤は、俺の頬に触れ…そっとキスすると…

「俺ね…それしか考えたことないよ…俺の人生には…翔くんしかいないから…」




これは間違いなく潤の本音だと思った…




愛おしかった…




ただただ…




潤の事が愛おしかった…








つづく









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