北九州市小倉を舞台に繰り広げられる大人の恋愛物語をつむぎます。
古典調で書いてますが、よりよく多くの方に読んでいただけるように、現代様式でも掲載していきたいと思います😊✨
ドキドキを共有できますように
この物語はフィクションです。
登場人物などは全て架空の人物です。
第二帖 白き影
その日より、小倉の君の心は、いと不思議なるものとなりぬ。
街に白き車の姿を見れば、知らず足を止め、乗り手の面影を探したまふ。
「かの君にあらずや」
と思へど、似たる装束の人は多く、容易には見定められず。
かくて幾日か過ぎし頃、またあの低き車の音、耳に届きたり。
女君の振り向けば、まさしく先の日の男君なり。
高瀬の君もまた、女君の姿に気づきたるらしく、黒き眼鏡を外して、穏やかに微笑みたまふ。
「先日も、こちらでお見かけしましたね」
その声は、女君の思ひ描きしよりも、はるかに柔らかなりけり。
「覚えていらしたのですか」
「ええ。よく覚えております」
その一言に、女君の胸は、春の花の一時に開くがごとく明るくなりぬ。
かの君も、われを見ていたまひける。
そのことのみで、帰り道の空さへ、常とは異なる色に見えたりけり。
現代版∶
第二帖 白き影
それからというもの、小倉の君は街で白バイを見かけるたびに、つい足を止めるようになった。
同じような白い車体。同じような制服。
けれど、あの日の男であるかどうかは、容易にはわからない。
ある午後、再びあの低いエンジン音を聞いた。
道の向こう側に、見覚えのある姿があった。
高瀬の君である。
女は、偶然を装って歩みを緩めた。
男も気づいたらしかった。
サングラスを外したその顔は、意外なほど穏やかであった。
「この前も、こちらを通られませんでしたか」
先に言葉を発したのは男である。
女は驚いて、思わず笑った。
「覚えていらしたんですか」
「ええ。よく覚えています」
それ以上のことは言わなかった。
だが、女は胸の奥に、小さな灯がともるのを感じた。
あの人も、私を見ていたのだ。
それだけで、その日の小倉の空は、少し違って見えた。
