初読の方は、第1章からどうぞ♪↓

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  3-13



 曰く、『彼女』はまるで人形のような容姿であり、真紅の色に染まった瞳を持つ者である。

 曰く、『彼女』はその細い腕の一振りで小さな街をも焼き尽くすと。

 曰く、『彼女』は『最大司教【アーク】』によって、稀代の『司教【ビショップ】』となったと。


 ……私が『教会【エクレシア】』にいた頃から、この目の前に立つ女性の噂は耳にしていた。当時『火の司教【フレア】』は先代の老人が亡くなって以来、十年以上も空席だった。

 『宣教師【ミッショナリー】』の中にも『火』の使い手は何人かいたが、どれも先代には遠く及ばず、どうしようもない状態が続いていた頃の話である。


 『司教』は『教会』のなかでも最も権力を持つ五人を指す。四大元素になぞらえた、『地【ガイア】』、『風【シルフィア】』、『水【アクア】』、『火【フレア】』の四司教。そして、『教会』全体の統率と絶対的権限を持つ、『最大司教【アークビショップ】』。

 これらの五人は各々の属性分野でもっとも強いとされる人物である。故に、その選定は厳しく、すべての『司教』の合意の許でしか選出されない。この仕組みも相まって、『火の司教』の後任は決まることはなかった。


 しかし、私が『教会』を去った後、『火の司教』に遂に後継者が現れる。

「お互いに名乗りましょう。名前も知らない相手とだなんて、踊りたくないものね。―― 私はエメリア。エメリア=ローレンス。お察しの通り、『火の司教』よ」

 そう、目の前にいる、この少女。エメリア=ローレンス。

「……なんで、『司教』がここにいるの?」

 稀代の炎使いと言われ、ただ純粋に『火』を操る能力に秀でた人物。

「あら、菖蒲[あやめ]からは聞いてないのかしら?私がこの『舞踏会』の主催者よ」

 少女の視線は、私の背後に立つ『蛇』へと向けられる。

「……申し訳ありません。柊様。詳細はお伝えしませんでした」

 漆黒の髪を垂らして、『蛇』は深く頭を下げた。あくまで、事務的に。

「どうして……」

 純粋な、疑問。何故『宣教師』から私を救ってくれた『蛇』が、『火の司教』と結びついているのか。

「簡単よ。……菖蒲は私が決めた『免罪者【アクワイト】』だもの」


 ……『免罪者』。

 本来、『教会』は能力を持つものを『洗礼【サルベーション】』するのが目的となっている。しかし、『司教』のみ、特定の能力者に対して『洗礼』を行わずに『教会』から保護できる権限を持っていた。

 これは例えば『宣教師』の親族に対する保護処置であったり、その能力の排除による悪影響が大きい場合のみ、『司教』の判断により発動する。

 こうして『免罪者』となれば、『教会』の脅威からは免れる。ただし、それを認めた『司教』――ここでは目の前の少女だ―― の指示には服従しなければならない。そんな一面もある。

 つまり、『宣教師』とは戦えても、ここでは敵。そういうことだ。


「……まだ、名乗ってなかったよね。私は柊 冴[ひいらぎ さえ]。あなたたちの言う通り、『水の司教』は私。もう、昔の事だけど」

 大体は分かった。『宣教師』の間で戦いを行う時は、名乗りを行うのも常識だ。

「ええ、名は確かに聞いたわ。では、始めて良いかしら?………菖蒲、『水の司教』に痛み止めを」

 かしこまりました、と一礼して、『蛇』が私の側へと歩み寄る。

「柊様、そのような御身体では『水』さえまともに扱えない状況であることは存じております。故に、私めの『力』で痛み止めをさせて頂きます」

 そう言って、『蛇』は自身の手を私の目の前に掲げた。

 『蛇』の手の指先からは、乳白色の『牙』が一本ずつ光っている。

「―― 私の能力は『毒』の生成でございます。ご安心ください、痛みはすぐになくなります故」

 そして、そのうち人差し指と中指に生えた二本を、私の首筋に―― 突き刺す。

 皮膚を突き破って異物が侵入する感触。何かが注ぎ込まれ、身体に行きわたっていくような。

「……ありがとう」

 ―――― 再び、この感覚が戻ってくる。

 


「―――― 剣舞はお好きかしら?」

 そう言ってエメリアは右手を軽く振る。

 その右手から先に炎が生まれ、まとわりつき、一筋の形を成す。『司教』の力による武器形成。

「―― 我が『フレア』の称号の許に破壊せん――」

 それは火を象ったとも言われる、ツヴァイヘンダー(両手剣)の派生形。

「―― 『炎剣【フランベルジュ】』」

 高密度で錬られた火が、緩やかに波打ちながら揺らめく剣。煌びやかなゴシック調のドレスに身を包んだ少女が持つには明らかに不釣り合いな代物を、エメリアは悠々と片手で携える。その輝きに照らされた金髪は透き通るような光を放ち、火と同じ色の瞳が楽しそうにこちらを見つめる。


「あいにく、剣は苦手なのよね」

 私の身体から枷が外れていく。ゆっくりと、私は右手を上げる。

「―― 我が『アクア』の称号の許に調整せん――」

 エメリアのように、私は水自体を生み出すことはできない。……けれど、水なんて探せばどこにでもある。

「―― 『水神ノ槍【ポセイドン】』」

 それは神の名を冠る槍。地下にも流れるそれは、時に大地を揺るがすため、ポセイドンは大地の神としての一面も持つ。

 ――地響きと共に大広間の床を突き破って現れる『水』。掲げた右手の上に『水』は集い、凝縮され、やがて一振りの槍の形を象る。

 

「ポセイドンの三叉槍。良いじゃない、まずは合格ってところかしら?菖蒲、下がりなさい」

 エメリアが『炎剣』を一振りする。熱は容赦なく大広間の温度を押し上げる。踵の高いヒールで優雅に歩みながら、彼女は宣言する。『蛇』は言われたとおりに大広間から出ていく。

「……じゃぁ、踊りましょう?」


 ……一般的に、剣と槍の戦いであれば、それは間合いの勝負になる。剣の間合いは槍よりも短いが、懐に入ってしまえば槍の持つ長さはかえって欠点となるからだ。

 だから、間合いの外から攻撃する。突き出した『槍』から、高圧の水流がエメリアを襲う。

「良い判断だわ」

 エメリアは『炎剣』でそれを受けず、ふわりと空中へと舞い上がる。……足元の空気を急激に温めることでできる上昇気流による浮遊。

「……逃がさないよ」

 『槍』を引き戻し、手元へと『水』が返る。伸縮する槍だと思ってもらえばわかりやすいだろう。最速で戻ってきた『水』を空中に漂う少女へと向ける。

「間合いが遠いと当たりにくくてよ?」

 『火の司教』はこともなげに、火の操作のみで空中を自在に動く。『槍』は何もない空間を突いたが、最速で戻ってきた『水』はエメリアに隙を与えない。もともと槍と言うのは隙の少ない武器でもある。ジリ貧だが、相手を近づけさせるよりかはずっといい。


「逃げ回るのも楽しいけれど、槍には不利ね。こちらからも行かせてくださる?」

 エメリアの背後が爆発する。自らによって生み出した爆風で、少女は弾丸のように迫ってきた。

 私はその軌道に『槍』を合わせる。槍に向かう突進は、明らかに無謀なように思えた。

「―― 『火』よ」

 『水神ノ槍』の三叉になっている部分へと、『炎剣』が迷わず振り下ろされる。錬られた水は瞬時に蒸発し、槍はその姿を失っていくが。

「気体が扱えないと思った?」

 『水』はその姿を液体から気体へと変え、およそ千倍の体積へと急速に膨らむ。それが刹那に起こる。

 ―――― 爆風。蒸気で視界は白く染められる。


「……喰らい尽くせ、『白彪[はくひょう]』」

 蒸気を『氷』に。大広間全体の『水』を一気に固体とし、殺傷能力を格段に上げる。出来上がった『雹』が大広間を暴れまわり、精緻な細工のなされた壁、柱、絨毯の敷き詰められた床を削り取る。


 『白彪』を再び『槍』へと戻す。『毒』で痛み止めをしているとはいえ、背中は『水』の多用に対して、じわりと熱を帯び始めていた。

「―― 驚きましたわ。『炎剣』を止めるどころか、反撃してくるなんてね」

 しかし、『火の司教』は何事もなかったかのようにふわりと床に降りてくる。『炎剣』は、未だ濃密に波状の大剣の形を保っていた。

「『火の司教』の割には、意外と防御もできるみたいね」

 『槍』を再び構えながら言う。『四大元素』の中でも、最も防御が苦手な部類に入るのが『火』だったはずだ。

「あら、光栄ですわね。使い方でどうにでもなるものでしてよ?そういう貴女こそ、なかなか攻撃が様になっててよ?とても引退した身とは思えませんわ」

「……それはどうも」

 正直なところ、先程の攻防で有効打を与えられなかったのは想定外だった。頭の中で、次の思考を巡らせる。


「……それでは、こちらの攻撃と行きましょう」

 エメリアが再び斬撃の姿勢を取る。フランべルジュを両手に構え、駆け足と共に、

「――――!」

 『火の司教』が生み出す爆発。その風に押され、有無も言わぬ間に加速。先程の突進よりも数段早い移動に、『槍』の反応が一瞬遅れる。

「甘いですわ」

 軌道に合わせた『槍』にその華奢な体を貫かれる寸前に、エメリアは『火』によって急減速する。『炎剣』を『槍』の柄へと振り下ろし、敢えて水蒸気による爆風を生む。………超高温の。

「――― 『焼けなさい』」

 一旦後手に回った対応は、さらに後手を生む。私が水蒸気のコントロールをする前に、熱波は容赦なく私の身体を『焼いた』。

「ッ!!!」

 爆発によって二人はそれぞれ反対方向へと吹き飛ばされる。エメリアは『火』による爆風で再びその体を宙に浮かせた。

「――― 『ミズチ』ッ!」

 私はどうにか『水』を引き寄せ、大広間を飾る大理石の壁にぶつかる前に『ミズチ』を形成する。膨大な『水』の緩衝剤は、しっかりと私を受け止めた。

「どうかしら?少しは効きまして?」

 おそらく、今の私の身体と顔はあまりにも高温の水蒸気に焼かれ、ただれているのかもしれない。手足も、あまり感覚がないような気もする。


 ………だけど。


「私も甘く見られたかな」

 まだ、『蛇』の痛み止めが効果を示している。

 『ミズチ』に包まれた腕、足、胴体、そして顔。すべての箇所で、急速に怪我が回復していく。

 『水の司教』の最大の武器は、

「とんでもない回復力ですのね……流石は『水の司教』、といったところかしら?」

 エメリアは驚きの色を隠さない。そんな彼女を見つつ、私は『ミズチ』を纏める。

「余り時間もないから、手短にお願いね?」


 ……早く帰ろう。釈君に心配はさせられないから。





ーーーーーー3-14に続くーーーーーー




こんばんわ、りっぷうです。 

なんとか3月以内に書き終えました(焦)

ちなみに今23時54分ですwww


さて、ようやく3章も佳境です。

柊さんも頑張ります。エメリア様も舞います。


次回もなるべく!4月中には出しますので!φ(。。;)



それでは今回も読者の皆様に感謝をば。


りっぷうでした。








初読の方は第1章よりどうぞ♪↓

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  3-12



 マンションの前に立っていたのは、色褪せさえ見えない黒いスーツを完璧に着こなした男だった。俺の前で、恭しいお辞儀をしてくる。

「お待ちしておりました、釈識様」

「どなたさま?そこ、通りたいんですけど」

 悠然と微笑みを返してくる男。胸に当てた右手には白い手袋がはめられていた。真夏だというのに、暑苦しい奴。

「貴方様に『蛇』様より招待状を預かっております故、届けに参りました」

 そういって男はスーツの裏から一通の厚紙で作られた招待状を取り出す。

 二つ折りにされた高級な厚紙には、こう記されていた。


「 釈 識 様


 貴方様を舞踏会にお誘いしたく、この招待状をお送りします。

 これはほんの出来心ですが、貴方様にその力があるのなら。


                              『蛇』     」


 読み終わったのを見計らった男が、腕の時計を見ながら付け加える。

「ちなみに、舞踏会は本日の五時より行われます。あと十分、と言ったところでしょうか」

 

 ――― 俺はその言葉を待たずして、駆けだしていた。

 招待状を届けた男は、最後に俺の背中にこう残す。

「御武運を」



    #   #   #



 ゲームセンターの扉はまだ午後五時にもならないというのに、早々に閉まっていた。

「あれ、今日は開いてないのかよ……今日こそ店長倒すつもりだったのによ」

 一人の大学生が、そう呟いて去っていった。



    #   #   #



 ……釈君には何も言わずに出てきてしまった。

 今回は『蛇』という女性に会いに行くだけだ。襲撃から三日経つが、『教会』の追撃はそんなに早くは来ないことを私は知っている。

 万が一追撃に会ったとしても、それは私の運が悪いだけの事だ。釈君にまた助けてもらい、彼に『教会』の矛先が向くことだけは避けなければいけない。

 それに、あまり『蛇』のことを知られない方が良いだろう。彼女には、上手くは表せないが、そうさせる何かを持っていた。どこかひっそりと生きているような、何かを隠しているような、そんな雰囲気。


 『招待状』に描かれた地図をもとに、私は日が傾きかけた炎天下の中を歩く。

 釈君に会ってからというものの、随分と長い日々が過ぎたように思えるが、未だに七月も終わっていない。蒸し暑い熱気を含んだアスファルトが私の背中にじっとりと汗を浮かばせる。

 釈君の家がある市街地から地下鉄に乗り、二駅先で降りた後、見慣れない高級住宅街に出る。地図ではこの高級住宅街のある区画が指し示されていた。


「……ここ、だよね?」

 私は方向音痴ではない。しかし、たどり着いた場所は、

「いくらなんでも広すぎなんじゃ……」

 大邸宅だった。門扉は大きな鉄格子でできており、車が余裕ですれ違えるほどの道が敷地の中へと続く。道の終わりはロータリーになっていて、邸宅の正面で乗客を降ろせる形式だ。道の両側には、良く手入れされた芝生が青々と生えている。

「ようこそおいでなさいました」

「ひやっ!?」

 気が付かないうちに門の横から守衛らしき人物が一人出てきていた。

 茶色の守衛服を乱れもなく着た男は、緩やかに私へとお辞儀をした後、鉄の門の前へと私を案内する。

「お話はお嬢様から伺っております。どうぞ、中へ」

 巨大な閂を開き、重厚な門扉を男は片手で押し開ける。

「あ、ありがとうございます」

「いえ。これが務めですので。玄関に使用人が控えていますので、これからの事はそちらにお尋ねください」

「はい。分かりました」

 敷地の中に足を踏み入れる。石畳で出来た道は、アスファルトよりも硬質な靴音を立てた。

「では、門を閉めさせていただきます。ご出発の際は、再びお開け致します。なにぶん、防犯も大変でございまして」

 私は頷いて、男に背を向けて巨大な屋敷へと歩き出す。

 後ろではゆっくりと門扉が閉められ、再び閂が掛け直される音がした。

 

 鉄格子の門にしっかりと鍵をかけた後、守衛の男は彼女の背中にこう呟いた。

「御武運を」



    #   #   #



 普段、全くと言っていいほど開かないケータイを開き、大して人数のいない電話帳から一人の電話番号を呼び出す。

 ケータイのコールはこんなに遅かっただろうか。

 一回。

 二回。

 三回。

 四回。

 ――― 五回目のコールは途中で遮られる。


「――― もしもーし?」

 向こうから、ちょっと楽しそうな声で通話が繋がる。

「もしもし、襲さん?」

「もー、さん、は要らないってばー」

 おどける声には申し訳ないが、今は事が事だ。

「ごめん、至急来てほしいんだけど」

「へ?何用?」

「ちょっと今は話せない。急いでいるんだ」

「う、うん、って、ドコに行けばいいの?」

「生徒会長の、三間坂さんの家。有名だからわかるだろ?」

「………何があったの?」

「悪い、頼んだ!」


 ………『蛇』、というのは日本に古来より住み着いていた動物らしい。過去の古い文献にも、大蛇など神格化された蛇は度々登場してくる。

 そして、その姿を蛇に見立てられ、蛇を指す隠語としても呼ばれた花がある。


 ―――― その花の名前は、『菖蒲[あやめ]』と言う。



    #   #   #



 邸宅の前にいた妙齢の執事の男に連れられて、目を見張るようなエントランスを横切り、磨き上げられた木製のドアを持つ部屋へと案内される。

「お嬢様がお待ちになっておられます。さぁ、どうぞ」

 執事によってあけられたドアをくぐると、そこは応接間のような空間だった。

 ………そして、そこは『蛇』がいた。


「お待ちしておりました、柊様」

 この前の制服とは違い、淡い紫色に染められたドレスを身に纏っている。漆黒にも見える髪を腰のあたりまで垂らし佇んでいた彼女は、ゆっくりとこちらに一礼をする。

 ――― 同性ながらにその美しさに見とれてしまうほどだった。髪と同じく漆黒の瞳が、不思議そうにこちらを見つめてこなければ、私はしばし動かなかっただろう。

「あ、こ、こちらこそ、お招きいただいて……」

 焦って発した言葉はしどろもどろだ。

「いえ、無理なお願いをしたのはこちらですので。―― あれ以来、体調はいかがですか?」

 『蛇』が穏やかに微笑む。着物も似合うんだろうな、ふと思ってしまった。

「あ、はい、大丈夫です。あの時は、本当に……」

「いいのです。たまたま通りがかっただけでしたから。私としても、貴女が助かって本当に良かった」

「でも、私は何のお礼も……」

「問題ありませんよ。こうして、『舞踏会』にお越しくださっただけで十分すぎるほどです」

 彼女が微笑むので、つられて私も微笑んだ。


 しばらくして、応接間の扉がコンコンとノックされる。

「どうぞ」

「失礼します」

 入ってきたのは、先程案内してくれた執事とはまた異なる執事だった。こちらはまだ若く見える。

「……お嬢様、『舞踏会』の準備が整っております」

「分かりました。すぐに向かうと伝えておいて」

「かしこまりました」

 

「……では、私達も向かいましょう」

 優雅にその髪をなびかせ、彼女は言った。

「あのー……今更ですけど、服装はこれでいいんですか……?」

 白いワイシャツに、古ぼけたジーンズ。今の私にとって最大限の格好(釈君の家でいつも着ているスウェットの上下よりかは)だが、目の前の麗人と比べるとあまりにもみすぼらしい。

「ええ、問題ありません。『踊れる』のならなんでも良いんですよ」

 彼女は歩きながらそう答える。私も慌てて後を追った。



 ―― やがて、執事が二人控える扉の前にたどり着く。

「こちらが大広間になります。『舞踏会』の会場です」

 『蛇』自身から説明される。……それにしても。

「す、凄いですね、この扉……」

 応接室の高級そうな木製のドアが申し訳なさそうなほど、大きな扉。白塗りに塗られたその扉は、いたるところに精緻な金細工を施され、ドアノブに限っても見事なまでに彫刻がなされている。

「お褒め頂き光栄です。この大広間は、父が特にこだわって作らせていましたから」

 彼女はまた微笑んだ。――― 釈君なら、この時に彼女に秘められた思いに気が付いたかもしれない。


 ――― 扉が開かれる。

 床に敷き詰められた毛足の乱れの一切ない絨毯。

 大理石の白く輝くような曇りのない壁。

 天井に吊るされた精巧でかつ巨大なシャンデリア。

 そして、その中央に、


「ようこそ、『舞踏会』へ――」

 グレーを基調とした、ゴシック風のドレス。赤い花と黒いメッシュで形作られたブローチ。それを飾り付けている髪の毛は、銀色に近い金髪。透き通るような白い肌と対照的に、その瞳を彩るのは鮮血のような赤。

「―― 『水の司教【アクア】』。……はじめまして、と言うべきかしら?」

 風の噂では聞いていた。十数年来もの間、適任と呼べるだけの『宣教師【ミッショナリー】』が現れず、空席となっていた『司教』の最後の一角。四代元素のうち、最も破壊的な力を司る者。


「……『火の司教【フレア】』………」


 ――― おそらく、『教会【エクレシア】』のなかでも最悪の敵が立っていた。



    #   #   #



 大広間の扉は二人の執事によって、いつの間にか閉じられていた。

 そして申し合わせたわけでもなく、二人の男は同時にこうつぶやく。


「「御武運を」」



    #   #   #



 おそらく人生で一番全力疾走しているの目の前に、真っ赤なスポーツカーがドリフトしながら突っ込んでくる。

「お、ちょ、おわぁっ!!!」

 すんでのところで止まったスカイラインクーペの窓ガラスが下がり、

「ほらぁ、なにぐずぐずしてんの、乗んなさいよぉ!」

 そのまま誘拐されるかのように助手席に乗せられ、

「さぁ、釈君に、ワタシのドライビングテクを魅せるときだわぁ。覚悟わ、おーけー?」


「おいおい、コレは柊さんにたどり着くまでに死亡フラグかよ……?」

 一般道がアウトバーンと化したのはこの時だけだ。



ーーーーーー3-13に続くーーーーーー




どうも、Rippuです。

今回はほぼ約束どおりですよね、違いますかサーセン(土下座)


いや、と言うのもテスト終わったのが一昨日で。

長引いて。気分的には今日から春休み。


早く戦闘シーンに入りたいのは山々ですが

どうも進まないのは素人だからです←


次回からはエメリアさんが遂に大暴れの予定。


では、今回も読者の皆さんに感謝をば。。。








初読の方は第1章からどうぞ♪↓

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  3-11




「お待ちしておりました、エメリア様」

「出迎えありがとう。久しぶりね、『蠍姫【スコーピオ】』」

「その名も久しぶりに聞きました。ここでは名乗ることもないものですから」

「あなたの名前が多いだけじゃないかしら」

「そうかもしれませんね」

「それにしても平和ボケした国ね、ここは。『司教』が来たというのに、気づいているのはたったの一人だけだなんて呆れるわ」

「誰かとお会いになられたのですか、エメリア様?」

「そうよ。『心見【スキャナー】』とね。貴女も知ってるでしょ」

「あの方ですか……」

「まったく、先達だからと言って野放しもいいところだわ。『教会【エクレシア】』も緩いものね」


「こちらへどうぞ」

「ありがとう。相変わらず良い部屋だわ」

「滅相もございません」

「良いのよ、褒めてるのだから」

「ありがとうございます」

「『舞踏会』の予定を聞かせて頂戴」

「畏まりました。―― 開催は明日の午後五時ごろの予定でございます。今回の『来賓』の方は一名様です」

「そう。私の相手には相応しくて?」

「おそらくは」

「名前は?」

「――― 『司教【ビショップ】』、と言えばよろしいでしょうか」



    #   #   #



 昨日は散々に私を苦しめていた背中の痛みも、今日は幾分か和らいでいた。

 釈君は既に学校に行っている。彼は昨日のうちにゲームセンターにも行っていたようで、店長からの伝言を

「痛みが取れるまで無理して来なくて良いから、だってよ」

 と、少し疲れたような顔で話してくれた。上手く想像できなかったが、学校で男子全員に追い回されたらしい。

 

 ……そういう訳で、することがないので、お気に入りのベッドに横たわっている。テレビは随分前に飽きて電源を切っていた。

 このまま昼寝でもしてしまおう。起きる頃には、彼が帰ってくるだろう。もうすぐ夏休みだ、とも言っていた気がする。

 そう思い、ベッドに申し訳程度にあるタオルケットをかぶって背中を丸めた時だった。



 ―――― ピンポーン♪



 ―― ただのチャイム音、しかし私には悪寒を走らせるものとして十分な。

 釈君の部屋にはほとんど人は来ない。釈君もそう言っていたし、私が暮らし始めてから一度もチャイムの音は聞いたことがなかった。

 釈君が家の鍵を忘れることはない。彼は毎朝、テーブルの上の2つの鍵のうち1つを持っていくからだ。今、テーブルの上には鍵は1つしかない。ならば。


 ……『教会【エクレシア】』の人間、だろうか?
 最悪のイメージが脳裏を過ぎる。もし、そうだとしたら、私はこの一週間を猛省しなくてはならない。


―――― ピンポーン♪


 追い討ちをかけるように、気の抜けたチャイムがもう一度鳴る。

 

 ……居留守は分かっているのではないか。次の瞬間にも、マンションのドアなどその異能力でこじ開けて、中に入ってくるのではないか。


 反射的に『ミズチ』を出そうとして、またあの激痛がぶり返す。

「あ、ぐぁァァあぁあああァァぁぁぁぁあアァ!」

 絶叫ではすまされないような痛み。離れかける意識を必死に呼び戻す。

「あの、大丈夫でしょうか!?どうされましたか!?」

 完全に居留守はばれた。ドアの向こうの相手は、こちらを気遣ってさえいる。

 しかし、どうしようもない。痛いのだ。宣教師かも知れない相手に心配をかけまいと、声を押し殺すだけで精一杯だった。


「……はぁ、はぁ……、だ、大丈夫です」

 なんとかそれだけ答える。擦れ擦れで、相手に上手く伝わったかすらも怪しかった。

「そうですか。心配しました、突然苦しそうに叫ばれるものですから」

 ドア越しに、安堵の息を漏らす音。

「ッ、そ、れで、何の……くふッ、ご用件でしょう……」

 ドアの近くまで這うようにして近づき、ようやく相手の声を聞き取る。

「失礼いたしました。わたくしは、『蛇』様の執事を仰せつかっている者です。恥ずかしながら、名乗るほどの者でもありませんので、名前はご容赦を」

「へ、び……?」

 『蛇』。一昨日のカレルとの戦いに終止符を打った人物。私に痛み止めをしてくれた恩人。あのときの『水』の感触は、まだ私の心身に染みついている。

「―― お嬢様が貴女様にお会いしたいとおっしゃっていますので、その言伝に参りました」


 ――― しばらくしないうちに、私はドアを開ける。

 手渡されたのは、一枚の『招待状』。


 明日、午後五時から始まる、『舞踏会』への招待状だった。



    #   #   #



 学校帰りに、ちょっとだけいつものゲーセンに寄ってみる。

「あらぁ、久しぶりねぇ……って、あらまぁ」

 まだずっと俺の護衛を続けている襲さんも一緒に、だ。
 襲さん曰く、まだまだ油断はできないよ、とのことらしい。

「へー、ここが釈クンお気に入りのトコ?」

 襲さんが物珍しそうにあたりを見回す。ゲーセンらしい喧噪に包まれた空間。

「まあな」

「釈君、若いのは結構だけど、二股はどうかと思うわよぉ、ワタシ」

 店長がいつもの口調で驚いている。待て待て、男女の関係は必ずしも――


「えー、やっぱりそう見えます?」

 反論しようとしたところで、襲さんによって遮られる。

 何せ、あの襲さんが――くどい様だが、学校で誰しもが認める可愛さの彼女が――俺の腕にしがみついて来たからだ。ダメ押しにと、彼女の胸をぐいぐいと押し付けてくる。

 ……いや、ちょ、感触が分かるよ、襲さん?

「あらあらまあまあ……」

 店長がオカマらしく口元を隠しながら大仰にリアクションしてくる。……コイツ、読んでやがる。

「……若いって羨ましいわぁ」

 店長の心からの呟き。

「んふふー、カレカノだってよ、釈クン?」

 一番の元凶である彼女は、ちょっと上機嫌だった。



「……あ、そうそう、柊ちゃんは元気?」

 店長がゲーム画面を横から覗き込みながら言った。

 ちなみに今、襲さんは店長からもらったコインを元手に、スロットで大当たりしている。良いことは続くものらしい。

「まあまあかな。昨日までは寝込んでた」

「そう……。柊ちゃんは家にいるのよね?」

「他にドコに行くんだよ。第一、あの状態じゃあまり出歩くのもキツいだろ」

「いやねぇ、最近柊ちゃんが手伝ってくれてたじゃない?改めて一人に戻ると、やること多くてしんどいのよねぇ」

「座ってるだけだろ。たまに灰皿代えるだけじゃねーか」

「やぁねぇ、意外と仕事もあるのよぉ?」

「どこがだよ」

 よそ見してたらCPUにやられそうだ。

「あーあ、明日ぐらいにも来てくれないかしら。柊ちゃんに癒されたいわぁ」

 ゲーム画面を見ていたから、店長の心中を察することはできなかった。



「また来てねぇー」

 百円玉一枚分遊んで、俺は帰ることにした。あまり遅くなるのもよろしくないだろう。……襲さんはキチンと俺の隣にいる。

 店長にひらひらと手を振って、背を向ける。



「……気が付かない方が、幸せかしらね」

 市街地にある小さなゲームセンターのドアは、ゆっくりと閉められた。



    #   #   #



「おかえり」

「ただいまー。っと、もう起きて大丈夫なのか?」

 マンションのぼろいドアを開けると、柊さんはベッドの上に座ってテレビを見ていた。

 いつもの白いシャツ姿(部屋の中ではジーンズではなくスウェットだ)で俺の枕を抱えている同年代の女の子が、ちなみに赤の他人が、一人暮らしの家で出迎えてくれる高校生なんているのか、いや、いない。反語。

「うん。ごめんね、一昨日に『力』使い過ぎたみたい」

「三人分も治療しようとするからだろ?……何にせよ、調子いいなら何より。ご飯は?」

「いる」

「おっけー。ちょっと待ってて」

「うん。……ありがと」

「いつもの事だろ」


「……美味しい」

「そう?なら良かった」

 彼女はいつも俺の料理を美味しい、と言ってくれる。それが本心からだということは理解って[わかって]いた。

 今日も昼まで寝ていたとか、テレビの番組が面白くないだとか、ゲーセンの店長が心配してたとか、そんなくだらない会話で俺と彼女は笑顔になる。

 別に彼女が隠していることが知りたい訳でも、背負っているものを無くしてあげたいとかそういう訳でもない。無理に理解ろうとしているわけでもない。

 ただ、いつもと違う『非日常』を過ごして、ちょっとだけこのひとときが長く続けばとか、そんなことを考えていたというのは事実だったりする。

 新鮮な色味。

 予測できない一日。

 コレは乗ってしまった船。

 意味を見つけるわけでもない。そんなものは必要ない。

 『考える』行為が、彼女と共に広がる『非日常』が、必然ともいえる楽しみをもたらしている。

 たとえそれが、死などと言う現実離れした言葉を多分に含む世界だったとしても。

 そういえば、彼女を見かけたときに俺は思っていたのだ。「しまった」、と。

 なんとも不思議な、『理解らない』世界に出会ってしまったのだ、と。



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「あははははッ!それはとても楽しみだわ。まさか『司教【ビショップ】』と踊れるなんてね」

「楽しんで頂ければ光栄です」

「それで?その『司教』は誰なの?『ガイア』?『シルフィア』?それとも『アーク』?」

「いえ……『アクア』と呼ばれる方でございます」

「『アクア』?そんな『司教』は聞いたことないわよ」

「エメリア様がそう思われるのも至極当然でございます。『アクア』の椅子は、もう四年ほど空席ですから」

「へぇ……ずいぶんと古いのね、『教会【エクレシア】』も」

「『フレア』の席でさえ、エメリア様がいなければかれこれ十年以上空席だったはずなのです。それ程、『司教』とは絶対的なものでしたので」

「でも何故、その空席のはずの『アクア』が存在しているのよ?」

「それは話すと長くなります故、夕食の席でお話いたしましょう。もうじき準備が整っているころですので」

「ええ、是非お願いするわ」

「それではダイニングへと参りましょう。どうぞこちらに――」


 そう呼ばれ、『教会』が誇る『司教』の一人はそのゴシック調のドレスを優雅になびかせて立ち上がる。

「『火』と『水』、お互いに相容れぬ者同士の舞踏なんて、シェークスピアの悲劇みたいで素敵だわ」

 『火の司教【フレア】』、エメリア=ローレンスはそう言った。





ーーーーーー3-12に続くーーーーーー





お久しぶりです、Rippuです。

今回は1ヵ月で更新することができました!やったーw


今回も会話メインです。地の文が書けません。

次回から第3章も大詰めです。やっと。


これからテスト期間入るので次回更新は

1ヵ月後を予定しています……亀更新でスイマセン(焦


では、読んでいただいた読者の皆様に謝辞をば。

個人的ですがのら様のイラストが欲しいところです。

文章力のなさをカバーしてほしいw