初読の方は、第1章からどうぞ♪↓
http://ameblo.jp/rippu2/entry-10955801752.html
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
3-13
曰く、『彼女』はまるで人形のような容姿であり、真紅の色に染まった瞳を持つ者である。
曰く、『彼女』はその細い腕の一振りで小さな街をも焼き尽くすと。
曰く、『彼女』は『最大司教【アーク】』によって、稀代の『司教【ビショップ】』となったと。
……私が『教会【エクレシア】』にいた頃から、この目の前に立つ女性の噂は耳にしていた。当時『火の司教【フレア】』は先代の老人が亡くなって以来、十年以上も空席だった。
『宣教師【ミッショナリー】』の中にも『火』の使い手は何人かいたが、どれも先代には遠く及ばず、どうしようもない状態が続いていた頃の話である。
『司教』は『教会』のなかでも最も権力を持つ五人を指す。四大元素になぞらえた、『地【ガイア】』、『風【シルフィア】』、『水【アクア】』、『火【フレア】』の四司教。そして、『教会』全体の統率と絶対的権限を持つ、『最大司教【アークビショップ】』。
これらの五人は各々の属性分野でもっとも強いとされる人物である。故に、その選定は厳しく、すべての『司教』の合意の許でしか選出されない。この仕組みも相まって、『火の司教』の後任は決まることはなかった。
しかし、私が『教会』を去った後、『火の司教』に遂に後継者が現れる。
「お互いに名乗りましょう。名前も知らない相手とだなんて、踊りたくないものね。―― 私はエメリア。エメリア=ローレンス。お察しの通り、『火の司教』よ」
そう、目の前にいる、この少女。エメリア=ローレンス。
「……なんで、『司教』がここにいるの?」
稀代の炎使いと言われ、ただ純粋に『火』を操る能力に秀でた人物。
「あら、菖蒲[あやめ]からは聞いてないのかしら?私がこの『舞踏会』の主催者よ」
少女の視線は、私の背後に立つ『蛇』へと向けられる。
「……申し訳ありません。柊様。詳細はお伝えしませんでした」
漆黒の髪を垂らして、『蛇』は深く頭を下げた。あくまで、事務的に。
「どうして……」
純粋な、疑問。何故『宣教師』から私を救ってくれた『蛇』が、『火の司教』と結びついているのか。
「簡単よ。……菖蒲は私が決めた『免罪者【アクワイト】』だもの」
……『免罪者』。
本来、『教会』は能力を持つものを『洗礼【サルベーション】』するのが目的となっている。しかし、『司教』のみ、特定の能力者に対して『洗礼』を行わずに『教会』から保護できる権限を持っていた。
これは例えば『宣教師』の親族に対する保護処置であったり、その能力の排除による悪影響が大きい場合のみ、『司教』の判断により発動する。
こうして『免罪者』となれば、『教会』の脅威からは免れる。ただし、それを認めた『司教』――ここでは目の前の少女だ―― の指示には服従しなければならない。そんな一面もある。
つまり、『宣教師』とは戦えても、ここでは敵。そういうことだ。
「……まだ、名乗ってなかったよね。私は柊 冴[ひいらぎ さえ]。あなたたちの言う通り、『水の司教』は私。もう、昔の事だけど」
大体は分かった。『宣教師』の間で戦いを行う時は、名乗りを行うのも常識だ。
「ええ、名は確かに聞いたわ。では、始めて良いかしら?………菖蒲、『水の司教』に痛み止めを」
かしこまりました、と一礼して、『蛇』が私の側へと歩み寄る。
「柊様、そのような御身体では『水』さえまともに扱えない状況であることは存じております。故に、私めの『力』で痛み止めをさせて頂きます」
そう言って、『蛇』は自身の手を私の目の前に掲げた。
『蛇』の手の指先からは、乳白色の『牙』が一本ずつ光っている。
「―― 私の能力は『毒』の生成でございます。ご安心ください、痛みはすぐになくなります故」
そして、そのうち人差し指と中指に生えた二本を、私の首筋に―― 突き刺す。
皮膚を突き破って異物が侵入する感触。何かが注ぎ込まれ、身体に行きわたっていくような。
「……ありがとう」
―――― 再び、この感覚が戻ってくる。
「―――― 剣舞はお好きかしら?」
そう言ってエメリアは右手を軽く振る。
その右手から先に炎が生まれ、まとわりつき、一筋の形を成す。『司教』の力による武器形成。
「―― 我が『フレア』の称号の許に破壊せん――」
それは火を象ったとも言われる、ツヴァイヘンダー(両手剣)の派生形。
「―― 『炎剣【フランベルジュ】』」
高密度で錬られた火が、緩やかに波打ちながら揺らめく剣。煌びやかなゴシック調のドレスに身を包んだ少女が持つには明らかに不釣り合いな代物を、エメリアは悠々と片手で携える。その輝きに照らされた金髪は透き通るような光を放ち、火と同じ色の瞳が楽しそうにこちらを見つめる。
「あいにく、剣は苦手なのよね」
私の身体から枷が外れていく。ゆっくりと、私は右手を上げる。
「―― 我が『アクア』の称号の許に調整せん――」
エメリアのように、私は水自体を生み出すことはできない。……けれど、水なんて探せばどこにでもある。
「―― 『水神ノ槍【ポセイドン】』」
それは神の名を冠る槍。地下にも流れるそれは、時に大地を揺るがすため、ポセイドンは大地の神としての一面も持つ。
――地響きと共に大広間の床を突き破って現れる『水』。掲げた右手の上に『水』は集い、凝縮され、やがて一振りの槍の形を象る。
「ポセイドンの三叉槍。良いじゃない、まずは合格ってところかしら?菖蒲、下がりなさい」
エメリアが『炎剣』を一振りする。熱は容赦なく大広間の温度を押し上げる。踵の高いヒールで優雅に歩みながら、彼女は宣言する。『蛇』は言われたとおりに大広間から出ていく。
「……じゃぁ、踊りましょう?」
……一般的に、剣と槍の戦いであれば、それは間合いの勝負になる。剣の間合いは槍よりも短いが、懐に入ってしまえば槍の持つ長さはかえって欠点となるからだ。
だから、間合いの外から攻撃する。突き出した『槍』から、高圧の水流がエメリアを襲う。
「良い判断だわ」
エメリアは『炎剣』でそれを受けず、ふわりと空中へと舞い上がる。……足元の空気を急激に温めることでできる上昇気流による浮遊。
「……逃がさないよ」
『槍』を引き戻し、手元へと『水』が返る。伸縮する槍だと思ってもらえばわかりやすいだろう。最速で戻ってきた『水』を空中に漂う少女へと向ける。
「間合いが遠いと当たりにくくてよ?」
『火の司教』はこともなげに、火の操作のみで空中を自在に動く。『槍』は何もない空間を突いたが、最速で戻ってきた『水』はエメリアに隙を与えない。もともと槍と言うのは隙の少ない武器でもある。ジリ貧だが、相手を近づけさせるよりかはずっといい。
「逃げ回るのも楽しいけれど、槍には不利ね。こちらからも行かせてくださる?」
エメリアの背後が爆発する。自らによって生み出した爆風で、少女は弾丸のように迫ってきた。
私はその軌道に『槍』を合わせる。槍に向かう突進は、明らかに無謀なように思えた。
「―― 『火』よ」
『水神ノ槍』の三叉になっている部分へと、『炎剣』が迷わず振り下ろされる。錬られた水は瞬時に蒸発し、槍はその姿を失っていくが。
「気体が扱えないと思った?」
『水』はその姿を液体から気体へと変え、およそ千倍の体積へと急速に膨らむ。それが刹那に起こる。
―――― 爆風。蒸気で視界は白く染められる。
「……喰らい尽くせ、『白彪[はくひょう]』」
蒸気を『氷』に。大広間全体の『水』を一気に固体とし、殺傷能力を格段に上げる。出来上がった『雹』が大広間を暴れまわり、精緻な細工のなされた壁、柱、絨毯の敷き詰められた床を削り取る。
『白彪』を再び『槍』へと戻す。『毒』で痛み止めをしているとはいえ、背中は『水』の多用に対して、じわりと熱を帯び始めていた。
「―― 驚きましたわ。『炎剣』を止めるどころか、反撃してくるなんてね」
しかし、『火の司教』は何事もなかったかのようにふわりと床に降りてくる。『炎剣』は、未だ濃密に波状の大剣の形を保っていた。
「『火の司教』の割には、意外と防御もできるみたいね」
『槍』を再び構えながら言う。『四大元素』の中でも、最も防御が苦手な部類に入るのが『火』だったはずだ。
「あら、光栄ですわね。使い方でどうにでもなるものでしてよ?そういう貴女こそ、なかなか攻撃が様になっててよ?とても引退した身とは思えませんわ」
「……それはどうも」
正直なところ、先程の攻防で有効打を与えられなかったのは想定外だった。頭の中で、次の思考を巡らせる。
「……それでは、こちらの攻撃と行きましょう」
エメリアが再び斬撃の姿勢を取る。フランべルジュを両手に構え、駆け足と共に、
「――――!」
『火の司教』が生み出す爆発。その風に押され、有無も言わぬ間に加速。先程の突進よりも数段早い移動に、『槍』の反応が一瞬遅れる。
「甘いですわ」
軌道に合わせた『槍』にその華奢な体を貫かれる寸前に、エメリアは『火』によって急減速する。『炎剣』を『槍』の柄へと振り下ろし、敢えて水蒸気による爆風を生む。………超高温の。
「――― 『焼けなさい』」
一旦後手に回った対応は、さらに後手を生む。私が水蒸気のコントロールをする前に、熱波は容赦なく私の身体を『焼いた』。
「ッ!!!」
爆発によって二人はそれぞれ反対方向へと吹き飛ばされる。エメリアは『火』による爆風で再びその体を宙に浮かせた。
「――― 『ミズチ』ッ!」
私はどうにか『水』を引き寄せ、大広間を飾る大理石の壁にぶつかる前に『ミズチ』を形成する。膨大な『水』の緩衝剤は、しっかりと私を受け止めた。
「どうかしら?少しは効きまして?」
おそらく、今の私の身体と顔はあまりにも高温の水蒸気に焼かれ、ただれているのかもしれない。手足も、あまり感覚がないような気もする。
………だけど。
「私も甘く見られたかな」
まだ、『蛇』の痛み止めが効果を示している。
『ミズチ』に包まれた腕、足、胴体、そして顔。すべての箇所で、急速に怪我が回復していく。
『水の司教』の最大の武器は、
「とんでもない回復力ですのね……流石は『水の司教』、といったところかしら?」
エメリアは驚きの色を隠さない。そんな彼女を見つつ、私は『ミズチ』を纏める。
「余り時間もないから、手短にお願いね?」
……早く帰ろう。釈君に心配はさせられないから。
ーーーーーー3-14に続くーーーーーー
こんばんわ、りっぷうです。
なんとか3月以内に書き終えました(焦)
ちなみに今23時54分ですwww
さて、ようやく3章も佳境です。
柊さんも頑張ります。エメリア様も舞います。
次回もなるべく!4月中には出しますので!φ(。。;)
それでは今回も読者の皆様に感謝をば。
りっぷうでした。