妻(ピーちゃん)がまだ小学生の時の話
近所の家に、飼い犬を粗末にして可愛がらない爺さんがいた。
爺さんは何匹か犬を飼っていたが、その中にいる年老いた犬には餌をやらず、その老犬はやせ細っていた。
ピーちゃんはその老犬を通りがかりで見て不憫に思い、爺さんに、犬に餌をやるように言ったが、変わり者の爺さんは聞き入れてくれなかった。
ピーちゃんはどうしてもその犬に餌をやりたかった。
しかし、堂々と他人の家の犬に餌をやる訳にもいかない。
ピーちゃんは考え、自宅の犬の散歩中にこっそり餌をやる事を思い付いた。
暗くなると、散歩のフリをし、夕食の残り物のを鍋に入れ、爺さんに気づかれないように餌をやった。
老犬は驚くほどの勢いで、その餌を食べた。
ピーちゃんはその日から、老犬のその喜ぶ姿が見たいため、毎日残り物を持ち、散歩に出た。
ある日のこと爺さんの家の前に保健所の車が止まっていた。
ピーちゃんは昔、野良犬が捕まえられるのを見て、その車が何の車かすぐに分かった。
どうしたんだろう?
偶然近くにいたピーちゃんは、こっそり陰に隠れて会話を聞いた。
するとその老犬を処分するという話しだった。
ピーちゃんは呆然とした。
確かに、老犬は歩くこともおぼつかなく、何の役にも立たない様子ではあった。
しかし、処分とは可哀想過ぎる、とピーちゃんは思った。
周りの犬は、保健所の職員が何をする人なのか、まるで知っているかの如く、おびえていた。
しかし、当の処分されるであろう老犬といえば、何も状況が分かっていないのか、どっしりと構えている。
ピーちゃんはこれは大変な事になったと、子供ながらに分かった。
このままでは老犬が殺される
ピーちゃんは必死に考えた。そして、思いついた。
老犬を山に逃がそう
ピーちゃんは爺さんの家に忍び込み、檻を開け、老犬を外へ引きずり出そうとした
しかし、老犬は驚いて小屋に戻ろうとする。
老犬でも子供の女の子ではとても手に負えない。
ピーちゃんは
助けてやってるのに、何してる、このバカ犬!
と心で叫んだ。
何度も何度も引きずり出そうとしても、また戻っていく老犬。
そうしているうちに、係員の足音が近づいて来た。
何故か、見つかったら殺されると思ったピーちゃんは、引き裂かれるような気持ちで犬を放し、泣きながら外に出た。
そして、白い軽トラックの荷台に置かれた檻の中で、寂しく黄昏れる老犬を陰から見送った。
ピーちゃんはその光景を見ながら、自分の無力さを噛みしめた。
人間の身勝手で、尊い命が無くなる。
ピーちゃんは、その爺さんが許せなかった。
何年か後、身勝手なその爺さんが、病気で苦しんで死んだことを知った。
因果応報だった。
悪いことをすると必ず自分に帰ってくる。
それを身をもって感じたピーちゃんだった。