A:その辺に身を隠してやり過ごす

すぐ手前の角を曲がり走っていると、狭い道に隠れるにはちょうどいい大きさの樽があるのに
気がついて足を止めた。
私は近づく足音に急かされながら、慌てて狭い小道に入り、しゃがみこんで樽の影に身を隠した。
ばたばたと走り去る複数の走り音に息を殺し身を潜める。

そして、やっと音が止んだ頃…
私はゆっくりと立ち上がり小道から首を出して辺りを見渡して、
ノリちゃんたちの姿がないことを確認するとホッと息をついた。

(なんとかやり過ごせたみたい)

安心して小道から出ようとすると、まろが私の腕で小さな手である方向を指し示した。

まろ「にゃっ、にゃ~」

「あっちに行きたいの?」

私の言葉にそうだと言うかのように、まろが「にゃあ」と鳴き声をあげた。

(うーん…まろはあっちに行きたいみたいだけど、どうしようかな)

①まろの行きたいところに連れて行ってあげる
②また誰に見つかるかも分からないのでやめておく
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①まろの行きたいところに連れて行ってあげる

「ずっとここにいたら、またノリちゃんたちが戻ってきそうだし、まろの行くたいところにいってみようかな」

軽く首を傾げながら、まろを見下ろして言うと、まろは嬉しそうに私の頬をぺろっと舐めた。
それがくすぐったくて片目を閉じながら小さく笑みをこぼし、私はまろの指し示した方角へと足を進めた。

しばらく歩いていくと、まろが私の腕から飛び出して駆け出していく。
まろを目で追っていくと、まろは丘を登っていくのが見えた。

(こんなところに、こんな丘があったんだ)

いかにもまろが好きそうな日向ぼっこには最適な丘で。
旬な花々が凛と咲き誇り、まろと私を歓迎するかのようにゆらゆらと風に揺れ歓迎の舞を踊っている。

(そういえば、どうしてまろこんなところ知ってるんだろう?清盛さんと来たことがあったのかな?)

そう思ったら、もしかしたら清盛さんがここへ来てしまうのではないかと考えたが、
楽しそうに丘の上を駆け回るまろを見ていたら、今さら引き返好きにはなれなかった。

(まあ、清盛さんが絶対に来るとは限らないしまろが楽しそうだからいっか)

のんびりと陽の光を浴びながら丘を登り、ごろっと草むらの上に寝っ転がった。

まろ「にゃー!」

空を見上げているとまろが勢いよく私の上に乗ってきて、少し唸り声を上げながら私はまろを見上げた。

「そういえば、ここのところ清盛さんが忙しくて外で歩くことなかったから嬉しいのかな?」

いつもよりもはしゃぐまろの姿にそう思いながら、そばに咲いていた花を摘んでまろの前でゆらゆらと揺らす。

まろ「にゃっ、にゃー!」

目の前で揺らされる花を取ろうとまろが必死に手を動かしている。
その姿が可愛くて、つい吹き出すように笑ってしまった。

「ほらほら~」

からかう口調で楽しげに言うと、まろは必死になって花に手をのばす。
わざとまろには届かない高さに上げ意地悪をすると、まろは少し拗ねたような声を出しぴょんと飛び跳ねた。

「あっ!」

飛び跳ねたまろは花を口にくわえて、嬉しそうに尻尾を振り私をみる。
どこか勝ち誇ったような態度に、少し悔しくなって私は仰向けになって頬杖を付きながらまろを見つめた。

「まろは案外、負けず嫌いだな」

苦笑を浮かべ、私から取った花とじゃれるまろを眺めているとすっと影が映った。

???「何してんだよ」

上から声がして顔を上げると、そこには颯太の姿があった。

「あ、颯太」

颯太「あ、颯太じゃねーだろ」

何だか不機嫌そうな顔をした颯太が私を見下ろして言い、私は上半身を起こして颯太を見上げた。

「まさか、颯太に最初に見つかるとは思わなかったなぁ」

にっこりと微笑みながら颯太に告げると、颯太は小さくため息をついた。

颯太「清盛さんじゃなくて悪かったな」

「え?」

思ってもいなかった返答に私が思わず声を上げると、颯太は私の隣にそっと腰掛け私と視線を合わせないまま言葉を続けた。

颯太「お前、一瞬、清盛さんが来たって思っただろ」

図星を突かれ一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに私は笑いをこぼしながら言い返した。

「だって、ここはまろが教えてくれた場所だもん。きっと、以前に清盛さんとまろが来たんだろうなって思ってたから」

颯太「……」

笑う私に颯太は興味なさそうに相槌を打ち、花にじゃれているまろへと視線を向ける。

颯太「お前さあ…」

「ん?」

颯太「どう思ってんだよ…」

「どうって?まろのこと?」

まろに視線を向けて言うのでまろのことを尋ねているのかと思った。
だけど、そうではないのか、颯太はため息をつき視線を俯かせながら言った。

颯太「違うって。まろじゃなくてさ、清盛さんのことだよ」

「え?清盛さんのこと?」

急に清盛さんをどう思っているか…。
なんて聞かれても答えはすぐに出てこなくて、私はしばらく顎に手を当てて考える。

(うーん…どう思ってるんだろう)

成り行きでノリちゃんと一緒に、清盛さんの屋敷に住まわせてもらうことになったけれど、清盛さんをどう思うかと言われてもなかなか答えは出てこなかった。

「…急に聞かれてもよくわからないよ」

颯太「急でもねーだろ、別に…」

「なんか颯太、変だよ?どうしたの?」

颯太「別に…」

素っ気なく言い、颯太は怪訝な表情を浮かべながらそっぽ向いた。
いつもと様子が違う気はしているけれど、どうしてなのかは思い当たらず私は黙り込んだ。

(なんで清盛さんのことどう思ってるかなんて聞いたのかな?)

颯太の顔を見ながら考えても、颯太の表情からはその理由は分からない。
二人に漂う気まずい雰囲気を変えようと私は何か話題はないかと考えると、あるものが視界に映った。

「ねぇ颯太」

颯太「なに?」

「四葉のクローバー探さない?」

颯太「は?」

いきなりの提案に颯太が目を丸くした。
私は颯太の答えを待つことなく立ち上がると、
颯太の手を引いて傍に咲いているクローバーのところへと歩いて腰を下ろした。

「先に四葉のクローバー見つけた方が勝ちね」

颯太「なんだよ、それ」

「勝負の方が燃えるでしょ?」

颯太「…ったく、分かったよ」

仕方ないなといった様子で颯太が私から少し離れた場所に腰を下ろした。

颯太「なぁ、直美」

「ん?」

颯太に声をかけられて、顔を向けると颯太は私に真剣な眼差しを向けていた。

颯太「もし、先に俺が四葉のクローバー見つけたらさ……」

「?」

颯太は途中で言葉を止め、私はその続きを待った。
だけど、その続きは颯太の口からなかなか出てこなくて私は不思議に思って首を傾げた。

(あれ?その先は?)

颯太「…いや、なんでもない」

「え?」

颯太「いーから、勝負するんだろ」

「う、うん」

結局、何を言いたかったのか最後まで聞けず、言葉の続きが気になりながらも、
私と颯太はクローバー探しを開始した。


クローバーを探し始めてしばらくして。
私も颯太もなかなか、四葉のクローバーを見つけられず苦戦を強いられていた。

(ここにもないか…。案外、四葉のクローバーって見つからないものなんだなぁ)

クローバーをかき分けながら、四葉のクローバーを探す。
颯太の方をちらっと見ると、颯太もなかなか見つからずため息をついている姿が見えた。

(よし、まだ颯太は見つけてないし。絶対に先に見つけるんだから!)

私は気合いを入れ直して、四葉のクローバー探しを再開した。

そして、それからすぐに私は四葉のクローバーを見つけ出し、声を上げた。

「四葉のクローバーみっけ♪」

颯太「くそっ…負けた」

颯太に向けて四葉のクローバーを見せると、颯太が悔しそうに呟いた。
私は肩を落とす颯太のそばに駆け寄って、四葉のクローバーを颯太に差し出した。

颯太「ん?」

「颯太に幸せをおそわけ。颯太にも幸せが訪れますように」

にっこりと微笑み、颯太を見下ろすと颯太はしばらく思案げな顔をした。

「颯太?」

颯太「ちょっと、待ってて」

そう言って颯太は再び視線をクローバーへと落として四葉のクローバーを探し始める。

(そんなに悔しかったのかな?)

そう思いながらも、颯太のそばにしゃがみこみ颯太が四葉のクローバーを探し当てるまで私は待った。

颯太「あ…」

しばらく静かに颯太を見守っていると颯太が、急に声を上げた。
颯太の手に視線を寄せると、颯太の手に四葉のクローバーがあるのに気がついた。

「やったね」

嬉しそうに四葉のクローバーを見つめる颯太に私も笑みを浮かべた。
すると、颯太が手にしていた四葉のクローバーを私に差し出してきた。

颯太「やるよ」

「あ、ありがとう」

颯太から少し戸惑いながら四葉のクローバーを受け取り、私は首を傾げた。

(私からは受け取らなかったのに…どうして颯太はくれたんだろう?)

四葉のクローバーをくれた颯太の意図が分からずに颯太からもらったクローバーをじっと見つめる。
すると、颯太が独り言をいうようにぽつりと何かをつぶやいた。

颯太「本当は――――ったかんだけどな」

「え?」

颯太「…何でもない」

聞き取れなかった言葉を聞き返すも颯太はそれを答えることなく、すっと立ち上がった。

颯太「まろも寝てるし、そろそろ帰るか。もう陽もくれるし」

すっかりまろのことをを忘れていたと思い、はっとして颯太の視線の先を目で追うと、
遊び疲れたのかまろがすやすやと気持ちよさそうに眠っていた。

「そうだね、帰ろっか」

私も立ち上がりまろの元へと歩み寄ると、足音に気づいたのかまろの耳がぴくりと動いた。

まろ「にゃー」

まろは身体を起こし身体を伸ばすと、私のもとへと駆け寄ってきた。

「そろそろ帰ろう」

まろ「にゃぁ」

私の言葉を理解したようにまろは帰り道の方角へと歩き始めた。
その後を颯太が追うように歩き、私も颯太の背中を見つめながら足を踏み出した。

(ん?あれってもしかして…)

丘を降りていると、あるものが視界に入り私は足を止めてそれのそばに駆け寄った。

(あっ、やっぱり!)

思った通りのものがそこにはあって、私はひとり笑いながらしゃがみこむ。
すると、少し遠くから颯太の声が聞こえてきた。

颯太「何してんだよ」

足を止めて私に声をかける颯太を見て、私はあるものを手に持ったまま颯太に駆け寄った。

「見て見て!」

颯太の前で足を止め、颯太に手に持っていたものを見せた。
すると、颯太は目を丸くして驚いた声を上げた。

颯太「へえ、野苺か」

「うん!さっそく四葉のクローバーの幸運の効果が出たかな?」

野苺をゆらゆらと揺らしながら、颯太に告げると颯太がそれをじっと見つめてきた。

「颯太も欲しいの?」

颯太「欲しいって言ったらくれる?」

「うーん、どうしよっかな~」

何となく意地悪したくなって迷ってるそぶりをする。
すると、颯太が私の手を取ってそのまま口元へと運んだ。

「………っ!!」

手にしていた野苺を颯太が口に含み、その時に私の指に颯太の舌が触れて
私は思わずぴくりと身体を震わせた。

「そ、颯太っ!」

動揺した声で颯太の名を呼ぶと、颯太の手が離れた。

(まだ…颯太の感触が残ってる…)

手をギュッと押さえ恥ずかしくて俯いてしまうと、
颯太が意地悪っぽい笑みを浮かべながら私の顔を下から覗き込んできた。

颯太「…お前、顔真っ赤」

「…っ」

顔が熱いことを自覚していたけど、颯太に改めて言われ余計に顔が熱くなる。
目を合わせるのも気恥ずかしくて、思わず視線を逸らした。

颯太「俺のこと、意識してくれてる?」

「こ、こんなことされたら…誰だって」

颯太のことを意識していると気づきながらも、私はそれを誤魔化すように言い訳をする。
すると、颯太が熱のこもった瞳で私をじっと見つめてきた。

颯太「こんなことお前にしかしねーよ」

「え?」

思わず顔を上げ熱のこもった颯太の瞳と目が合うと、胸の鼓動がうるさいほど鳴った。
だけど、颯太のまっすぐな視線に顔を逸らせなくて私も颯太を見つめ返すと、颯太が頬を赤く染めた。

颯太「そんな顔すんなって……抑えられなくなるだろ」

「抑えられなくなる?」

わずかに視線を逸らしながら言う颯太に私はきょとんとして首を傾げてしまう。
その様子に颯太がふっと笑い、私の額を指先で弾いた。

「いたっ」

颯太「ばーか。なに変な顔してんだよ」

「変な顔って。それは颯太が変なこと言うからでしょ!」

弾かれた額を手で摩りながら颯太を睨む。

颯太「お前…鈍すぎなんだよ」

「…そんなことないと思うよ?」

颯太「いや、絶対鈍いって」

根拠があるように意見を曲げない颯太に拗ねたように頬を膨らませた。
すると、丘の下からまろの鳴き声が聞こえて私はまろを見下ろした。

「まろが呼んでる、早く行こ!」

まだわずかに早鐘を打つ鼓動を悟られないように。
どきどきしているのを誤魔化すように、私は明るく言って丘を降りて行った…―。


颯太END