横になったままの、小さな光
朝の光が、カーテンの隙間から静かに差し込んでいた。
「今日も、少しだけやってみよう」
ベッドの上で、彼女は小さくつぶやいた。
以前の彼女は、もっと自由に身体を動かすことができた。
買い物へ行き、家事をして、好きな場所へ出かける。 当たり前だと思っていた毎日は、身体を壊したことで、少しずつ形を変えていった。
今は、長い時間起きていることさえ難しい。
無理をすれば、その後何日も身体がつらくなる。
「どうして私は、こんな身体になってしまったんだろう……」
何度そう思ったかわからない。
けれど、そんな彼女に一つの居場所ができた。
B型作業所の在宅ワークだった。
パソコンを使った作業の日もあれば、ハンドメイドの日もある。
彼女が一番大切にしているのは、小さなアクセサリー作りだった。
机の前に長時間座ることはできない。
だから、身体を横にしたままでもできるように、道具をベッドのそばに置いている。
小さなビーズ。
色とりどりの糸。
小さなチャーム。
一つひとつを手に取り、ゆっくりと組み合わせていく。
「今日は、この色にしようかな」
身体は思うように動かない。
手が疲れる日もある。
集中できない日もある。
それでも、できる日には少しずつ作る。
一時間できなくてもいい。
三十分できなくてもいい。
たった十分でもいい。
「今日の私にできることを、今日の分だけ」
それが、彼女の合言葉だった。
ある日、完成した小さなブレスレットを眺めながら、彼女は微笑んだ。
きれいだった。
決して完璧ではない。
ビーズの並びが少しだけ違っているところもある。
けれど、一つひとつに彼女の時間が込められていた。
身体を休めながら。
痛みや疲れと相談しながら。
「もう無理」と思う日にも、できることを探しながら。
そのブレスレットには、彼女の一日一日が詰まっていた。
後日、その作品を手にした人からメッセージが届いた。
『とても丁寧に作られていて、見ていると元気が出ます。大切に使いますね』
彼女は、その文章を何度も読み返した。
そして、目に涙を浮かべた。
「私にも……誰かに届けられるものがあるんだ」
身体を壊してから、失ったものばかり数えていた。
できなくなったこと。
諦めたこと。
以前の自分と比べてしまったこと。
でも、本当は違った。
できなくなったことの隣には、
まだ、できることが残っていた。
ほんの小さなことでも。
ゆっくりでも。
横になったままでも。
誰かのために何かを作ることができる。
誰かに喜んでもらうことができる。
そして、自分自身を「今日もよく頑張った」と認めることができる。
夕方。
窓の外がオレンジ色に染まっていく。
彼女は、次に作るアクセサリーの材料を眺めながら言った。
「明日は、どんな色にしようかな」
その声は、とても小さかった。
けれど、その小さな声には確かな力があった。
人は、いつも立って歩いていなければ前へ進めないわけではない。
走れなくてもいい。
休みながらでもいい。
誰かと同じ速さじゃなくてもいい。
自分の身体と相談しながら、
自分にできることを、
自分のペースで、
一つずつ大切にしていけばいい。
ベッドのそばに置かれた小さなアクセサリー。
窓から差し込む夕暮れの光を受けて、きらりと輝いた。
まるで、
「あなたの頑張りは、ちゃんと光になっているよ」
そう教えてくれているようだった。
彼女は微笑んだ。
そして、そっと目を閉じた。
今日も一日、よく頑張った。
明日は明日の光がある。
今は、ゆっくり休もう。
小さな光は、急がなくても消えない。
ゆっくり、ゆっくり。
その人の歩幅で輝き続けるのだから。
