私が生まれたのはごく普通の産院だった。
でも生まれた家が普通じゃなかった。

カーブした線路に沿って立つ、東向のビルが住まいで、 
いつも電車がキーキー悲鳴をあげながら通り過ぎていく。

日当たり悪し、騒音有り。
私は赤ちゃんの頃から昼寝の真っ最中に
電車が通過する度に
両手を震わせて飛び起きていたらしい。

そんな環境で孤独な育児、
母の精神状態も最悪で、物心ついた頃から
私はそうとうこっぴどく母から叱られ続けた。

5歳の頃、幼稚園から帰宅して、
お友達の家に独りで遊びに行った。

まだ時計の読み方を教わっていなかったから、
午後3時の門限が守れなかったのだろうが、
遅刻すると母は容赦なくティッシュの箱で
ワアワア泣きわめきながら

『分からないか! 分からないか!』

と言いながら私を叩き続けた。

最悪なのはその先で、
ひとしきり叩くと罪悪感が襲ってくるのだろう。
今度は私をひしひしと抱き締めて、

『何故私が母から叱られたか?』

について、延々と "優しく" 諭し始めた。

我が子を健全な子に育てようと思うなら、
実は、これは絶対にやってはならない。

母は自分の感情に忠実で、
私の帰宅が遅れれば心配で怒りだす。

でも気が済むまで私を叩き続けると、
今度は叱り過ぎたと罪悪感に駈られ始める。

こういう"激昂"したかと思えば"優しく接する"
という両極端な態度を、誰かに対して、
特に"我が子"などの弱者に対して
日常的に取ることは極めて危険だ。

そう何度も両極端な態度を取り続けられると、
私は正常な判断力が失われ、
日常的に情緒不安定になってしまう。

本当は、後々優しくなだめなくて良いから、
叱るところをほどほどに出来れば
問題はないのだが、
母にはそれが出来なかった。


DV 男から離れられない女性も、
同じメカニズムで判断力が欠落していき、
繰り返しくる
"もう二度と殴らない"
とやさしく囁く言葉に騙されてしまい、
問題の男性からいつまでも離れられない。

当時私は幼い子供だった。
子供は母が大好きで、常に赦しを乞いたい。

どんなに叱られても母に赦してもらいたい。
だから散々叩かれても、母を頼ろうと、すがろうとする。

母に見捨てられたらおしまいだから。

でも相変わらず私は母との約束を守れなくて、
結局毎日叩かれて、精神がどんどん歪んでいった。