群山の港を散策した次は街である。こちらは家屋に寺院と日本建築が残る一帯。観光地として力を入れているだけあり、見所を付した地図案内看板があちこちに置かれている。"Hello, Modern"で1930年代の時間旅行とのコピーだが、その年代は日本統治時代であり日帝強占期と呼称されているわけで、群山市はどのように折り合いをつけているかは気になる。

 

まず人が密集しているのが映画八月のクリスマス(1998)の舞台となったチョウォン写真館である。いわゆる聖地巡礼の地として多数の観光客が記念写真を撮っている。リアルタイムに鑑賞しなかったが当時話題作となっていたことは覚えている。封切りから四半世紀でも人通りが絶えないのが人気の証左といえる。

 

ここからは日本家屋の見学となる。さらに歩を進めるとこの界隈で最も有名な日本家屋である新興洞日本式家屋(広津家屋)の門が待ち構える。もとは日章旗を掲揚するところに太極旗が存在を主張する。広津家屋についてはこちらの文献 (※)に詳細な説明があり、当時の日本語の説明文に誤りがあるとまで調査されているが、案内板は更新され韓国語と英語のみとなっていた。

(※) 藤井和子 / 植民地都市群山の社会史(1) : 「新興洞日本式家屋(旧広津家屋)」と広津家の歴史 / 『関西学院大学社会学部紀要』 115号 (2012)

 

 

日本でも地方都市に行けば豪商の家屋が博物館となっている例は散見されるが、ここは光復に朝鮮戦争を経た韓国の港町であり、木造家屋が歴史の荒波を超えてほぼ原型のまま残されていることに意義がある。ただ私には庭は木々が過剰でもう少し簡素なほうが似合うと思う。建物内部の参観はできなかった。

 

 

さらに歩を進めると近代歴史体験空間があり、庭園の周辺に昔の日本家屋が軒を連ねる公園となっている。一方で周辺はマンション群に囲まれているから過去と現在とのコントラストも体感する。ご多分に漏れずカフェがあるからアイスコーヒーでも頼んでゆっくりするのもあり。

 

 

近くに日本家屋を博物館にしたものがあり、ふらりと入ると日本統治時代の抵抗運動や虐待が展示内容で、あとで看板を確認したらStrife Museum (群山抗争館) と書いてある。家屋の保存状態が良いだけに一日本人が入るとなんとも複雑な気分となるが、日本統治時代の表と裏を展示するこの博物館こそが、1930年代を観光資源とする群山市の折り合いの付け方の回答なのかもしれない。

 

 

日本家屋巡りの最後は韓国に唯一残る日本式の寺院建築である東国寺、もとは曹洞宗の禅寺で錦江寺と称していた。境内に入る坂道に門構えからして日本の寺院そのものの様相だが、門柱の日付に残る昭和の元号のみ潰した跡に歴史が見え隠れする。

 

 

本堂は目下(2023年7月)修理中で足場に取り囲まれた状態。お目当ての建物にたどり着いたら工事中なんてことは時々ある。写真は撮らなかったが、ここにも例の少女像が置かれている。

 

 

初訪問なので観光地図を頼りに散策したが、群山の中心街にはこれ以外も多くの日本家屋が散在しているので、地図を持たずに良い雰囲気を醸している建物を探してカメラを向けるのが楽しい。ただ真夏の炎天下では厳しいか。

 


 

Hello, Modernはこれにて終了で、お次は廃線跡を活用した京岩洞線路村にタクシーで移動。益山から群山までは貨物輸送を主要な目的に群山線が敷設されたが、2008年に錦江を渡る新線が開通して長項線に組み込まれてからは旧線は利用が休止され、観光地として活用されている。もっとも、カフェに菓子屋がビッシリと軒を連ねているので、時間が止まったかのような静かな雰囲気を期待してはいけない。訪問客は若者が大多数だった。

 

 

最後に群山の名物料理、ワタリガニの醤油漬け(コッケジャン)をいただく。帰りの列車の発車時刻も近いので、タクシーを捕まえやすい利点からロッテモールの近くの宮廷コッケジャン(궁전꽃게장)にした。

 

真新しいビルの2階なので建物の風情はないが料理は美味しい。コッケジャンのお値段は30000ウォンだったかな。醤油ダレがしっかりカニに染みているから、この味はメッチュが進む。付け合せも10種類以上あって分量も満足である。(これと比べるとモニターツアーはケチったと思いましたな) コッケの情報をくれた方、本当にありがとうございます。

 

 


 

帰路は益山を経由してKTXでソウルに戻る経路、日曜の晩だけあってKTXは満席が多く3日前になんとか取れたが益山で2時間待ち。もっとも乗り継ぎに余裕を持たせたのは大正解で、益山行きのムグンファが30分近くも遅れて到着。長項線は線形改良された区間も多いが路線の約1/3が非電化単線で一度遅れたら復旧が困難なのは仕方なし。

 

益山の駅前市街地はモニターツアーではホテルが遠くて断念したが、乗り換え時間を使って散策。駅に着いた時は夕立が非常に強かったが、駅前広場で少し雨宿りすると外を歩ける程度にまで雨足が弱まった。駅前通りの入口のアーチの横に見所を紹介する地図がある。

(※) この項はこちらの記事を参考とした

 

 

ここにも日本の近代建築が残されており、左は1928年に建てられた旧堂本百貨店で柱に簡単な説明がある。右は元は病院だった益山近代歴史館だが、既に閉館しているので内部の展示は見られず。

 

 

古い建物が連なる町並みの向こうは再開発の槌音が聞こえる。

 

ひと雨降って蒸し暑くなると冷たいものを体が欲する、旧堂本百貨店の向かいのカフェでマンゴーパフェ。あとはKTXでソウルに向かえば旅はひとまず終了。