太宰治は文壇の重鎮・川端康成へ向けて
「刺す。」
との書面を放ったと云う。
太宰はどうしてこんな言葉遊びができたのか。
川端は怖くなかったから
そういうことにならないか。
映画『ブルーに生まれついて』を観て、そんなことを考えていた。
チェット・ベイカーは、なぜヤクに身を沈めたか。それは、この映画の台詞にもあるように
「ハイになれるから」
に違いないのだが、それでは映画にならないので、事実はどうか知らないが『ブルーに生まれついて』では
マイルスに怯えてヤクに逃げる
という造り方をしている。
この映画は、ヘロインでレロレロになったチェットが、ラッパ吹きの自分を取り戻そうと足掻く様をフィクションで描いた1本だが、
ここで描き出されるチェットの、甘くかほり立つダメっぷりは、
同時代を生きた我が国が誇るダメ・太宰の生き様を想起せずにいられなかった。
川端と太宰、マイルスとチェット。
先行する大家と、青い天才。
川端 : 太宰 = マイルス : チェット
こういう関係性の相似が立ち現れる。
そんな感じで、冒頭に述べたようなことを、考えていたわけだ。
川端康成と、マイルス・デイビス。その、人を射抜くような視線は似通っていたとして、
マイルスは実際、怖かったと思う。
翻って川端、
やっぱり、怖くない。