〈前回の続き〉

しかし、いつまでも震えていても仕方がないので、イヤイヤながらレンジの扉を開ける。

猛烈なサバ臭の向こうには………内部から爆散した、元・サバであった何かと、天井から壁面から全域に飛び散りへばりつく無数の細片。

一体私が何をしたというのか。

生卵やソーセージの加熱が危険なのは知っていたが、サバについては誰も教えてくれんかった。
ラップせずに加熱したのが駄目だったのか?
身をほぐさなかったのがいけなかったのか?
(たぶん両方。)

失態。
このトシになって、こんなタワケた真似をしでかすとは、世間様に顔向け出来ないし、何よりも家の者に笑われてしまう。
幸い、深夜のことで台所には誰もいない。
だがしかし、フキン片手に証拠隠滅を図ろうとした時、運悪く息子が部屋から出てきてしまった。

そして、
「くっせー!サカナくっせー!!」
と台所を覗き込んできた彼は、レンジの惨状を見るや、
「………でんじろう先生?」
と言って、私の顔を見てニヤリと笑うのだった。
屈辱。
・・・・・・・・・・・・・・・

とまぁ、そんな失敗をしながらもサバ缶は好きなので、こりもせずに買い続けている。
しかし、それを見るたびに息子が、

「でんじろう。でんじろうだ。ハハハ」

と指をさして笑うのが、心の底からツラい。


(おわり)