恐れていたことがいよいよ、起きるべくして起こってしまった。


 それは12月4日早朝、長野県野沢温泉村でのこと。自宅付近の除雪作業中だった78歳の男性が突然、クマに襲われて病院に救急搬送されたのだ。


 報道によれば、男性は観光客に発見されたが、意識はあるものの顔や足に傷を負っていた。ほどなく除雪シーズンの本番を迎えることから、豪雪地帯の住民にとっては、雪下ろし作業中のクマ被害拡大の懸念があり、寝つけない日々が続くことになりそうだ。

 ところがそんな状況を尻目に、北海道をはじめクマを駆除している自治体に対する苦情電話や抗議があとを絶たない。その中身は「クマを殺すな」というものだ。


 秋田県の鈴木健太知事は12月2日、「クマ駆除に関する長時間の苦情電話などにより、業務に支障が出ている」として、クマ対策を担当する自然保護課への電話内容を録音すると発表。

 

 鈴木知事によれば、10月中旬からの1カ月間で寄せられた電話とメールは実に700件を超え、半数以上が県外からだったという。

 秋田県では前任の佐竹敬久知事が過激な抗議電話に対し『お前のところに今(クマを)送るから住所を言え』と発言。職員を守る姿勢を示したことが物議を醸したが、これは『ひどい抗議にはそれくらい言わないと太刀打ちできない』という現場の状況を代弁するものだった。

 

 その後、秋田県のクマによる死傷者数が全国最多となったことで、抗議電話は激減。

 

 しかし、クマ駆除が連日のように報道されるようになると、再び抗議電話やメールが殺到する事態になった。

 

 『人間の方が害獣。クマこそ被害者だ』『クマ殺し! お前もクマと一緒に死ね』等々、意見を述べるという域をはるかに超えた、職員個人への誹謗中傷や人権侵害にあたる暴言が多発しているという。

 怒りで感情的になり、1時間以上も電話を切らず、緊急性の高い電話や住民からの問い合わせに対応できない深刻な業務妨害が発生する自治体は多いというが、不思議なのは、この手の抗議電話は多くの自治体で業務時間外や土日にもかかってくることが多く、論点、感情的な訴え方、使用される専門用語にある種の共通点があるのだとか。

 

 そこには個人の意思ではなく、コピペされた『統一マニュアル』のようなものがあるのではないか、という指摘があるという。

 つまりこれらの抗議行動は、過激な動物愛護団体により組織化されたものではないのか、と。

 

 いかに表現の自由があるとはいえ、自治体職員を心理的に追い詰め、仮に精神疾患などで休職に追い込めば、自治体側が法的措置を…という可能性はゼロではないだろう。


 駆除の是非にまつわる議論が出るのはいいが、度を超した抗議は公務員へのカスハラ問題、さらに地方行政の機能を脅かす社会問題として認識されることを忘れてはならない。