新型インフルエンザ等対策特別措置法と感染症法の改正案が固まったようで、概要を拝見しました。全体像を詳細に把握できているわけではありませんが、断片的に思った事を書いておきます(読み方が間違っているかもしれませんので、その点は予めお断りしておきます。)。
まず、「緊急事態措置ライト」に当たる「まん延防止等重点措置」なるものが設けられます。簡単に言うと、「緊急事態宣言は強過ぎるので、その前でも休業要請・命令が出来るようにしたい。」という事です。とは言っても、これまで緊急事態措置の時ですら存在しなかった「(休業の)命令」まで出来るようになっています。一方、国会報告等は一切なく、改正法におけるこの規定の位置からしても「緊急事態措置ではない(程度のもの)」との位置付けは明確です。憲法論としては「その程度のもので命令を含む人権制限をしてもいいのか」という論点はあるでしょう。 法改正の話があった時、私は「緊急事態措置ライト」を作るのではなく、今の緊急事態措置にプラスして(命令まで出来る)強い措置を可能とする「緊急事態措置プラス」を作ると思っていました。でないと、憲法論との関係で整理が付きにくいからです。
多分、現在「(政府が宣言する緊急事態措置ではない)独自の緊急事態宣言」を出している県については、「緊急事態措置ではなく、こっちでやって。」という事になるのだと思います。実際、まん延防止等重点措置であろうと、緊急事態措置であろうと、休業については「立入検査」、「報告徴収」、「命令」が出来ます。しかも、従わない場合に過料が課せられます。
これは行政罰としての「過料」ですので、警察マターではありません(私が一番に連想したのは、地元黒崎駅前に設定されている喫煙禁止地域で喫煙した時の「1000円の過料」です。)。という事は、都道府県職員が違反の店舗に対して「立入検査・報告徴収します。拒否したら過料です。」、「命令違反です。過料を収めてください。」と言いに行くという事でしょう。ただ、各都道府県当局はそんな事するかな?と思うのです。そもそも、休業命令に従わない店舗は根性の入っている店舗ですから、担当職員には結構勇気と力の要る作業になります。抑止としては効果があると思いますが、実効性については「どの知事が先頭切ってやるのだろうか?」という疑問が頭をもたげます。
あとですね、書類を読んでいると、突然、他の指定感染症でも重篤性があり、急速にまん延するものについては、新型インフルエンザ等対策特別措置法の対象とするという規定がピョコッと入っています。これは今回のCOVID-19とは関係ないのではないかと思います。あまり注目されない規定なのでしょうが、この(強い措置を取る事が可能な)新型インフルエンザ等対策特別措置法のスコープがグンと広がった感じがします。
感染症法の改正については、私が以前から言っていた「保健所間の風通し」の話が盛り込まれました。都道府県の保健所と保健所政令市(や東京都の特別区)の保健所との関係が良くない所がたくさんあります。福岡県で言うと、福岡市、北九州市、久留米市の保健所は県の管轄下にはありません。東京都など、すべての特別区と八王子、町田の保健所は都の管轄下にはありません。一時期、都はこれら保健所から情報が来ないので、都が直接病院に電話して情報収集をしていたと聞いた事があります。今回、都道府県内で対策を講じようとする時に、これらの保健所から「何故、あなた方(都道府県)にあれこれ言わなくてはいかんのだ?法的に我々はあなた方の指揮命令系統下には無い。」といった感情のほつれが結構ありました。今回、感染症法の改正で、少なくとも保健所政令市や特別区の保健所は都道府県に対して発生状況の報告をする事が定められました。法律を作ったから風通しが良くなるというものではないのですが、少しでも改善につながればと思います。
また、(対象を限定した)入院勧告・措置に従わなかったり、積極的疫学調査に応じなかったりした方には「罰金」が定められています。行政罰の「過料」と違って、こちらは刑罰ですので「前科」が付きます。その他、都道府県知事が国の言う事を聞かない時に指示が出来るとか、医療機関が協力的でない時に(従わない時の見せしめ付きで)勧告できるとか、結構強い規定が入っています。これまで起こった様々な事に対する現政権の苛立ちを感じさせる内容です。
総じて感じるのは、地方分権型の新型インフルエンザ等対策特別措置法の骨格は崩さないようにしながらも、国が口を挟める範囲を広げようとしている、ただ、それと同時に都道府県知事の権限もかなり広がり、強化されているという事です。今後、各都道府県の判断が今にも増して重要になって来るでしょう。