昨年は私の怠惰もあり、ブログの更新がかなり疎かになっていました。また、きちんと再開したいと思います。

【要旨】
● 日本の海洋調査船が、日韓中間線付近で調査をしていたら韓国公船から退去を求められた。これは日本が肥前鳥島をEEZや大陸棚の基点とした事で、日韓中間線が韓国側にずれた事が背景にある。しかも、更にその裏には竹島に対する韓国の姿勢へのミラーアタック的な戦略もある。
● 現在、韓国との大陸棚の分け方については1978年の南部協定があるが、日本に不利な内容であり、かつ国際法の主流の考え方にも基づいていない。今後、再交渉に乗り出すべきだが、その時の基点には肥前鳥島を含めるべき。

 

【本文】

 さて、先日、日本の海洋調査船が、日韓中間線の日本側で調査をしていたら、韓国の公船から当該海域は日韓中間線の韓国側であり、事前承認が無いので退去するよう求められたとの報道がありました。この件は結構奥が深いです。

 

 まず、この報道から分かるのは「日韓中間線の捉え方が、両国間で異なる」という事です。通常、排他的経済水域(EEZ)や大陸棚については、沿岸から200カイリで認められていますが、相対する国の距離が400カイリ未満の際は中間線で分け合うというのが基本ルールです。東シナ海は基本的にこのルールで進めるべき海域です。

 

 では、何故、日韓間で中間線の位置の捉え方が異なっているかというと、少し複雑な事情があります。今回のケースでは、韓国側は済州島を基点とし、日本側は長崎県の肥前鳥島が基点となって中間線を構成しているというのが日本側の理解です。以前は肥前鳥島は、国連海洋法条約上の「島」に当たらないという事で、EEZや大陸棚の基点とはしていませんでした(同条約上、島に当たらない「岩」はEEZや大陸棚を有しないという事になっています)。なお、竹島についても同様の取扱いでした。

 

 しかし、韓国が竹島をEEZや大陸棚の基点とするようになったため、日本側も対抗措置として肥前鳥島を「(国連海洋法条約上の)島」として基点とするようになったという経緯があるようです(私自身はこの経緯をよく知らないのですが、政府に入っていた事がある与党議員がそのように言っているのでそうなのでしょう)。

 

 それまでは肥前鳥島よりも東にある男女群島や福江島を基点としていたのですが、肥前鳥島を基点とするようになると、自ずと中間線は韓国側の方に動きます。この旧中間線と新中間線の間の海域で、今回、日本の海洋調査船が調査をしていたのだと思われます。つまり、竹島でそのような主張をするのなら、こちらも別の場所で(EEZや大陸棚に伴う)主権的権利を主張させてもらうというのが、この全体の動きなのだと思います。当該海域で調査をする事自体が戦略的な動きなのです。安倍政権(特に第一次政権と第二次政権の前半)の功績としては、「領土、領海では腹一杯主張する」というのがあったと思います。

 

 これだけだとWikipediaの延長っぽくて、陳腐な内容なのですが、もう少し続きがあります。実はこの地域の大陸棚については、1978年に発効した日韓大陸棚南部協定というのが現在有効です。これは当時大揉めに揉めました。当時の国際法では、相対する国の間で大陸棚を分ける時は「自然延長論」が主流でした。したがって、日本は中間線から日本にせり出した部分だけを共同開発区域とする事で合意しています。当時、国会審議では「不平等条約ではないか!」という議論がかなり行われています。したがって、この条約は効力を50年とし、3年前から終了を通告する事が出来る事になっています。

 

 そして、国際法の主流はその後変化しまして、今は「中間線論」が主流になっています。国際法の考え方が変わったのには、海底地形の複雑さ等から自然延長論が適当でないケースが世界のあちこちで出た事も背景にあると思います。近年の大陸棚の議論は「まず、中間線を引いてそこから交渉」というのがスタンダードです(何が何でも中間線で引かなくてはならないという事までは国際法は言っていません。あくまでも「まず中間線」というのが交渉のスタートという事です。)。

 

 なので、2025年以降2028年までの間に日本政府は判断を迫られます。今の(旧中間線から日本側だけが割を食っている)南部協定をそのまま延長するのかどうかという事です。それに加えて、恐らくなのですが、南部協定を合意した際には肥前鳥島は基点に入れていないと思います(この点を確認したいのですが、正直な所、合意文には共同開発鉱区のエリアしか書いていないので、何処が基点となっているかは条約文からは分かりません。)。仮に現行の南部協定を終了させ、再交渉するのであれば、日本側はそもそも基点そのものを見直す所から交渉をする事になります。

 

 長らくこの南部協定については「時限爆弾」的な所がありまして、私が外務省条約課課長補佐の時も「2025年には判断しなくてはならない」ときちんと理解していました(が、当時はまだ「20年先の話」と思っていました)。色々な複雑な要素が絡みますが、私は2025年以降2028年までの間の何処かで南部協定の終了を通告して、きちんと交渉に乗り出すべきだと思います。