1ヶ月前くらいに書いた「沖ノ鳥島近海における海洋調査」のエントリーはアクセス数が多く、関心の高さを感じました。ですので、少しだけ補足しておきたいと思います。

 

 簡単に纏めると、中国の主張は「沖ノ鳥島が日本の領土である事は否定しない。なので領海を持つ事は当然。しかし、沖ノ鳥島は、国連海洋法条約上、排他的経済水域や大陸棚を有する事が出来る『島』ではなく『岩』だ。なので、沖ノ鳥島を基点とする(領海を越えた)200カイリ水域はただの公海。うち(中国)が何しようとグダグダ言われる筋合いではない。」という事です。

 南沙諸島では、(領海すら持たない)低潮高地のサンゴ礁に巨大な人工物を積み上げて権利を主張しているくせして何言ってんの?という気はしますが、今日はそこは取り上げません。

 

 先日のエントリーでも書いた通り、日本は国連の大陸棚延長申請に関する大陸棚限界委員会から出た勧告で、沖ノ鳥島を基点とした大陸棚の延伸を認めさせています。この地図における四国海盆海域(左上の紫部分)の大陸棚については日本の大陸棚として完全に確定しています。そして、国連の勧告では、沖ノ鳥島を基点とした大陸棚延伸も四国海盆地域の権原の根拠となっています。とても簡単に言うと、「国連の勧告では沖ノ鳥島は大陸棚を持つ事が大前提となっている。」という事です。

(ちょっと話が飛びますが、この地図の真ん中にオレンジ色の小笠原海台海域及び南硫黄島海域という2つの海域があります。これも日本の大陸棚と認められているのですが、関係国との調整が必要な海域となっています。この関係国とは実はアメリカです。北マリアナ諸島最北端のファラリョン・デ・パハロス島からの大陸棚延伸とぶつかる可能性があるので、アメリカと調整しなくてはなりません。ただ、この8年間、全く進みませんでした。安倍政権を詰る意図は無いのですが、「何やってんのかな?」という気にはなります。)

 さて、ここから重要なポイントです。現在の中国の海洋調査を少し別の視点から見ると、沖ノ鳥島が排他的経済水域や大陸棚を持つ事を中国が巻き返して否定しようとしている事になります。仮にこれが否定されてしまうと、実はこの大陸棚に関するテーマでとんでもない事が起きます。まず、当たり前ですが沖ノ鳥島を基点とする200カイリ水域での権原が否定される事になるわけですが、それだけでなく、地図の左下側にある九州・パラオ海嶺南部海域(黄色の部分)への権原も否定される事になるわけです。この海域は偏に沖ノ鳥島を基点とする大陸棚延伸です。巨大なエリアにおいて、日本の主権的権利が失われる事になります。

 現在、九州・パラオ海嶺南部海域については国連による大陸棚延伸の勧告が先送りされている状態です。日本として、沖ノ鳥島が排他的経済水域や大陸断を有する島である事を常に主張し、それを確定させる動きを継続し、それを否定する行為には断固たる姿勢で接しておかないと、少しずつ九州・パラオ海嶺南部海域の大陸棚の権原が日本から遠のいていきます。是非、沖ノ鳥島を基点とする海域の権原確定に向けてどんどん頑張ってほしいと思います。

 内閣府総合海洋政策本部はとても良い組織なのですが、閣僚たる海洋政策担当相というのはいつも「おまけポスト」でして本腰を入れてやってくれません。事の重要性は誰も否定しないにもかかわらず、政務レベルではあまり重視されていない印象があります(なお、フランスには「海大臣」が専任でいます)。上記の小笠原海台海域及び南硫黄島海域に関するアメリカとの協議とて、閣僚が乗り込んで調整するくらいの気概が本当は欲しいです。私が内閣委員会に居る時は、海洋政策担当相に問題意識を持ってもらおうという事で必ず質問するようにしていました。ある大臣からは「あなたから質問が来るからみっちり勉強したよ。」と苦笑いしながら言われた事もあります。

 

 中国に沖ノ鳥島を基点とする200カイリ水域で好き勝手させてしまうと、既成事実が積み上がってしまい、最終的にはかなり広い海域すら失いかねないという点は十分に留意する必要があるでしょう。