COVID-19対策の基礎となっている新型インフルエンザ等対策特別措置法改正の話が出ています。私は細かい実務については承知していないのですが、当地福岡県北九州市から見ていて感じる事を幾つか述べたいと思います。

 

 まず、休業要請とそれに対する国の補償を「法制化」しろという話があります。この件ですね、正直な所、「どうやってやるんだろう?」と疑問符が付きます(誤解が無いように言っておくと、補償しなくていいと言っているわけではありません)。

 

 休業要請自体は各都道府県が行うわけです。それに対する国の補償というのを法的に義務化する方法が私には思い浮かばないのです。国は休業要請の判断に噛まないのに、その判断に対する補償だけ持ってくれと言われても困るでしょう。どうしてもと言うのであれば、休業要請の判断に国が逐一関与するという事にするのかなと思うわけですが、それは都道府県側が嫌がるでしょう。しかも、どの程度の補償をするのかという全国的な基準を作るのも大変です。私が想像するに「使い出の良いカネを国が地方に渡して、その中で地方自治体が適宜判断する。」という事を越えるアイデアは浮かんできません。そうなのであれば、法制化するようなものではなく、予算措置としてやればいいだけの話です。

 

 しつこいですが、補償しなくていいと言っているわけではありません。単に法制化する法的な手法が私には思い浮かばないというだけです。(嫌味でも何でもなく)是非、法制化を主張する方々からの具体的な法律案を見てみたい所です。

 あと、この法律については、基本的な理念が人によって異なるという大問題があります。「地方分権型」なのか、「中央集権型」なのか、という問題です。現行法を作る時、全国知事会から「都道府県知事に権限を集中してほしい」という要望が出されていて、当時の民主党政権はかなりその要望を聞いています。法律を見れば分かりますが、都道府県知事が対策本部長として権限を振るう事が想定されています。

 

 ただ、現政権はここまで見ている限り、その考え方を共有していないのではないかと思います。現行法上、国が持っている権限は「総合調整」と「基本的対処方針の策定」くらいです。一方、現在、国は基本的対処方針をエラく細かく書いて、箸の上げ下げについてまで書き込んでいます。法律で求める以上の事が基本的対処方針に書いてあります。「都道府県に好き勝手やられては困る」という思いが見え隠れします。

 

 ここが問題なのです。都道府県知事は法作成の経緯からして「自分達が対策本部長としてやる」という強い意識を持っている一方で、実際はそうなっていない事への不満を持っています。「自分がトップだと思ったら、中間管理職だった。」という都知事発言はこの食い違いを如実に表しています。大阪府知事、元大阪市長は法律上の不備を言っていますが、実際は法に不備があるというよりも、法の理念に基づかない運用をしている国に対する不満があると見た方がいいでしょう。いずれにせよ、この点は一度、きちんと仕切り直した方がいいでしょう。

 

 今、「重症者」の定義で国と幾つかの都道府県との基準が異なる事が問題になっています。地方分権型を貫徹するなら、そういう事態が生じる事を甘受しなくてはなりません。それがマズいのであれば、何処までが国で、何処までが都道府県なのかをきちんと整理を付けなくてはいけません。あまり嫌味っぽい事は言いたくありませんが、一部マスコミは「地方にどんどん権限を委ねるべきだ」と言いながら、「重症者の基準がずれている事はおかしい」と批判しています。若干の自家撞着があるように見えます。

 

 また、「休業要請」のあり方についても法的な混乱があります。現行法上、休業要請(法律上は「施設の使用制限」)が具体的に書いてあるのは、緊急事態が発令されている時だけです。しかし、ここまでこの緊急事態に基づく休業要請(と従わない者の公表)が発動されたケースはパチンコ店+αに対するものだけです。最初に東京が休業要請を出す時に、国が止めたため、都知事が業を煮やして、緊急事態とは関係の無い一般的な協力要請の規定を持ち出して来て休業要請をしました。それ以来、パチンコ店等に対するものを除く大半の休業要請はすべてこの(極めて緩やかな)協力要請の規定に基づいて行われています。本来、これは法が想定していなかった事態です。

 

 極めて単純な「休業要請は何時出せるのか?」についてすら、今、法的にはとても揺らいでいる状態です。緊急事態でなくても休業要請は出せるのかどうかについては、もう一度、きちんと仕切り直した方がいいでしょう。

 

 あと、都道府県と市町村との関係も色々な不備が出て来ています。特に都道府県と保健所政令市との対立が深刻化している所は気になります(なお、ほぼすべての都道府県に保健所政令市があります)。典型的なのは東京都でして、都内の31保健所の内、都知事が管轄しているのは僅か6保健所。マスコミ経由で見ていても、幾つかの区の保健所と都との関係がギクシャクしている事は容易に分かります。また、詳細は控えますが、我が福岡県でもこの件は相当深刻な課題を惹起しており医療提供体制に影響しています。また、教育の分野でも、4-5月の時点で、幾つかの県では県立学校と市町村立学校との休校措置の期間がずれかかった事がありました。福岡県では、県と市町村で一旦ずれた意思決定がなされ、「お姉ちゃんが県立高校、弟が市立中学校。弟は登校するけど、お姉ちゃんが登校しない時期が出る。ムチャクチャ厄介だ。」というお話は幾つか頂きました(最終的には緊急事態が発動されたため、このずれは顕在化しませんでしたが)。

 

 上記の通り、法律上は対策本部長は都道府県知事です。しかし、具体的な対策になればなる程、平素の権限配分の中で都道府県知事が全く口を挟めない分野が出て来ています。その典型的なものが「(保健所政令市の)保健所」と「教育委員会(特に政令指定都市)」です。恐らくかなり多くの知事は「自分は対策本部長だとされているけど、それに見合う法律上の権限調整はなされていない。」という不満を持っているでしょう。これは法作成時に、全国知事会から指摘されていたのですが取り込めなかったものです。この解決法は色々と考えられますが、私は「保健所や教育委員会に関する協議体を法定して、そのTOR(付託事項)を政令で決める。」というのが良いと思っています。ともかく「よくお話してください」という事です。

 

(なお、この観点から、法の理念に基づいて知事に権限を集約させる方針を徹底しているように見えるのは大阪府です。マスコミ経由で見ているだけですが、新型インフルエンザ等対策特別措置法通りにやっているように見えます。大阪府は2009年新型インフルエンザの際、府と市で休校期間がずれた経験があり、それを踏まえてやっているのでしょう。だからこそ、法に基づかない国の介入に不満を持つのだろうと思います。)

 

 ただし、一つ「?」となったのは、先般、全国知事会が「緊急事態は都道府県単位ではなく、基礎自治体単位でやってほしい。」と要望していた事です。都道府県単位で出されると負担が重い事があるようです。しかし、そんな事をしたら、都道府県の存在は「下請け」になります。例えば、政令指定都市(+保健所政令市)である北九州市だけで緊急事態が出されたら、福岡県に求められるのは「うちの街でやる事をきちんとバックアップしてほしい。」にしかなりません。うちの街はすべてのやり取りを直接国とやるでしょうから、対策本部長としての都道府県知事の位置付けは極限まで下がります。そして、各都道府県全域のリソースをフル活用しながら、広域行政でCOVID-19を押さえ込んでいくという理念そのものがダメになっていきます。「全国知事会、変な事言っているよな。」という気になりました。

 

 私は医療の専門家ではありませんし、現職の国会議員でもありませんので、知り得る情報には相当な限界があります。なので、自分が公開情報で知り得るものをベースに、特に行政機構上の権限関係で気になる事を書きました。上記の内、かなりの部分は法改正が伴うものです。全国知事会、指定都市市長会等はこういった権限関係の整理を待っていると思うのですけどね。