この場で何度か告知しましたが、明日4月1日に新著「国益ゲーム」を出します。内容的には日米通商問題を多面的に取り上げています。政治(選挙)、法律(条約)、経済という幅広い分野が絡むテーマです。

 

 

 世にある通商関連の本の中には、まず難解な通商法の本があります。これは正直な所、普通の方が読んでも分かりません。特定の専門用語が飛び交うので、スタンダードな法律や国際法の専門家でも読みこなすのが困難でしょう。もう一つ多いカテゴリーとして、「題を見ると大体結論が分かる(扇情的な)本」があります。結論は「自由貿易けしからん」か、「自由貿易礼賛」かです。自分の考え方に合致する結論を求めている方にとっては、読めば留飲は下がります。ただ、見解がデフォルメされている事が多いです。社会の真実として、別に「TPPが日本を救う」事もありませんし、「TPPで日本が崩壊する」事もありません。

 

 私の本はそれらのどれでもありません。なので、誰が読んでも「諸手を挙げて賛成」する事はないでしょうし、「決定的にけしからん」にもならないと思います。つまり、逆から見ると、意図的に特定の人物や団体にアピールするような事をしていません。「誰からも批判されるぐらいが丁度良い」というのが私の基本的な視座です。

 

 あと、推察で書いている部分がかなりあります。「具体的な根拠を出せ」と言われると出せない部分がそれなりにあります。政権内に居たわけでもなく第一次資料に触れる事が出来るわけではありませんから、ある程度は推察にならざるを得ません。ただ、表に出ている現象から、最も論理的に類推出来る範囲で書いています。少なくとも、怪しげな陰謀論は一切採用していません。こういう本を書いていると実は陰謀論というのは楽だというのがよく分かります。辻褄の合わない所を陰謀論に押し込めると、すべての論理が回るようになるので。

 

 私は平成5年、外務公務員採用一種試験に(かなり運よく)合格しました。外務公務員採用試験では、憲法、国際法、経済原論、英語、外交史が必修で、選択科目から一つでした。選択科目には民法や行政法もあったのですが、法学部のくせして私は経済政策を選びました。所詮はそれらの限られた分野について試験対応でしか勉強しておらず、何かをアカデミアの観点から体系的に学んだ事があまり無かったので、3年の秋から石黒一憲教授の通商法のゼミを選びました。通商法は、法律と経済の中間くらいにあったので選びやすかったのだと思います。

 

 ゼミで私(が所属する班)に与えられたお題は「チキン戦争について」。これだけでした。何の事かさっぱりわからず、色々な文献を漁るのですが、当時はインターネットも無く途方に暮れた事を覚えています。ただ、その中でも一生懸命調べて、ゼミでプレゼンしました。1960年代、欧州がアメリカのチキンの輸入を厳しく制限した事に端を発する貿易戦争です。その「チキン戦争」、上記のリンクを見ていただければ分かりますが、実は現代のTPPや日米貿易協定における自動車関税交渉に深くかかわっています。日米貿易協定の最大の課題の起源は「(1960年代の)チキン戦争」にあり、その件は新著の中で詳細に書いています。

 

 役所に入ったのが平成6年。その年の秋からはWTO担当部局に配属されます。WTO協定の国会審議を直前に控えていました。ともかく国会対応で毎日ボロボロになりました。ただ、その中でも「門前の小僧習わぬ経を読む」という事で、コピーを取りながら「コメのミニマム・アクセスとは?」、「政府調達とは?」みたいな話を身に付けて行きました。WTO協定が承認された後、上司から「国会審議の議事録をすべて整理しておいて」と頼まれたので、すべての議事録を読んでテーマ毎に整理した(かなり秀逸な)ファイルを作ったのですが、とても、とても良い勉強になりました。

 

 再度、この件を直接担当するようになったのは平成14年。再度、WTO担当部局の課長補佐で戻ってきた時でした。配属される直前まで9.11後のアフガン攻撃⇒アフガニスタン復興担当でてんてこ舞いだったのですが、自分なりに満を持して戻って来たつもりでした。担当は「農業交渉」。課の総務班次席課長補佐は農業交渉担当と位置付けられており、ここから農業交渉との深い関わりが出来ます。農林水産省を始めとする関係省庁の方々から多くの学びを頂きました。2年数ヶ月、そのポストに居ましたけども、怒られたり、叱られたりしながら、徹夜まがいの勤務を繰り返して良い経験をさせていただきました。

 

 その後、条約担当となり、国際法の実務を学んで、平成17年夏に外務省を退職しています。外務省の中でも、条約を正しく読めるというのはこれまた職人芸的な所があります。通商ルールはすべて国際法ですので、読んだ時にピンッと来る勘所とか、読む時のお作法とかいうのがあるのです。また、国会議員現職時代にも、TPP特別委員会のメンバーだったりして、常に通商交渉の事は密接にフォローしてきました。特殊な分野なので、国会議員の中でも「とっつきにくい」と思っている方の方が多いはずです。

 

 そういう経緯もあり、今回、通商分野に関する本を書きました。全体の中で農業交渉に関する部分が半分近くを占めます。一方、私の地元北九州市は農業を主たる産業とはしていません。選挙区で言うと、若松区ではとても美味しい野菜を近郊型農業で作っています。そして、足を延ばすと、例えば、鞍手町のぶどうは天下一品です。ただ、総じて外国産との競争がリアルな脅威として眼前にある、という地域ではありません。なので、地元事情から言えば、私には「農業そのもの」の現場感が少し欠けるかもしれません(そうならないようにしているつもりですが)。

 

 ただ、逆に言えば、そういう事情があるからこそ、通商交渉、特に農業交渉という極めて機微なテーマについて比較的自由な立場から書きやすいというのはあるように思います。農業の現場を踏まえ、国際交渉とのインターフェースを深く追っている政治家は与野党問わず一定数居られます。ただ、それらの方にとっては、地元事情との関係でどうしても自由に書けない事があります。私は本で「コメの輸入方式を見直して、もう少し自由貿易(WTOルール整合的)に近付けるべきだ。」という趣旨の事を書いていますが、コメどころ選出の政治家の方はそれを書く事を躊躇うでしょう。

 

 そういう意味で、「農業を主たる産業としない地域を地元としているにもかかわらず、農業交渉や国際法にそれなりに詳しい事を踏まえ、100%自由に思いを書いたもの」という感じで見ていただければと思います。