コンピレーション・アルバム集「NOW That's what I call Music!」のもじりですが、「これぞ、不平等条約というものだ!」くらいの意味です。日米貿易協定については、「ウィン・ウィン」とか、「国益にかなう」とか色々と中身のない表現が飛び交っています。私には「気合いだ」の連呼にしか聞こえません。

 

 中身に立ち入って、おかしな部分を詳細に説明する事も可能なのですが、非常にテクニカルな部分が多いので避けておきます。むしろ、今日は外形的に見て不平等だとすぐに分かる部分だけを列挙しておきたいと思います。

 

● 譲許表の厚さ

 協定全体(英文)をよく読めば分かりますが、日本の関税に関する附属書Ⅰが114ページ、アメリカの関税に関する附属書Ⅱが24ページです。その中でも、具体的な日本の関税削減表(譲許表)は51ページ、アメリカ側は9ページです。日本は51ページ分の関税削減を行い、アメリカは9ページ分だけというふうに理解してもらってOKです。譲許表以外の残りの部分についても、日本は関税割当等、非常に細かく約束させられており、その分だけ日本の約束に関する分量が多くなっています。

 

 是非、英文全部(141ページ)を打ち出してみて、日本の附属書とアメリカの附属書を比較してみてください。厚さにして5倍の違いがあります。それを見て「平等だ」と言える人は一人も居ないと思います。

 

● 関税削減の始期
 これは規定の仕方が日米で全く異なります。

 

 まず、日本側ですが、来年3月31日より後に日米貿易協定が発効した時でも、 日本の関税削減のスタートは来年3月31日発効と見なして進める、と書いてあります。予算の仕組み上、日本の関税削減は暦年ではなく年度で実施していきますので、結果として、来年4月1日からは(1年目の削減が終わった後の)発効2年目の削減が適用になります。逆に、アメリカの関税削減にはその規定はありません。2年目は発効から1年後です。

 

 具体例を出しましょう。例えば、来年5月1日に発効したと仮定します。日本は来年3月31日に発効したと見做されるので、発効直後から2年目の削減が適用された関税率になります。逆にアメリカはそういうのは無いので、1年目の削減が適用され、2年目の削減が適用されるのは再来年の5月1日です。

 

 何故、こんな規定になったのかと考えてみると、「今の臨時国会中に成立・発効せず、来年の通常国会にずれ込んでも日本は決められた通り削減しろ。」という事です。アメリカ側が、例えば今国会での解散総選挙等が入る事によるずれ込みを懸念したのでしょう。

 この部分は、協定が今の臨時国会で成立して来年1月1日に発効すれば、発動される事のない部分です。しかし、立て付けとしては明確な不平等条約です。協定の該当部分を並べて読まれた後に、「それでも平等だ」という人はまず居ないでしょう。

 ここまでの2つの指摘は、英語も合わせて読まないと分かりません。アメリカ側の附属書Ⅱの日本語訳がないので気づきにくくなっています。そして、あと1つ指摘しておきます。

 

● 国会審議の有無

 この協定は日本では国会審議をしますが、アメリカでは国会審議をしません。何故かというと、アメリカの関税撤廃は現行税率が5%以下のものばかりだからです。アメリカの通商法で、「5%以下の関税については大統領権限で撤廃できる」と読める部分があり、それが適用されるのです。もっと簡単に言うと、「その程度の事であれば、議会に諮ってもらわなくていい。」と連邦議会が考えているという事です。勿論、日本側は5%以上の関税率のものも撤廃します。

 

 トランプ大統領は、NAFTAの見直しでメキシコ、カナダに激しく押し込んで、結構な成果を得ました。しかし、そのNAFTA見直しは連邦議会を通過する見通しが全くありません。背景にはウクライナ問題等もありますが、連邦議会として「取るべきものが取れていない」という懸念がかなりあるようです。民主党のみならず、共和党からも不協和音が聞こえています。そうやって比較してみると、議会から「アメリカとして大したダメージ無いから、大統領限りでやっといて。」と言われる日米貿易協定の出来栄えが透けて見えそうなものです。

 

 「自動車が・・・」、「とうもろこしが・・・」と色々と説き起こすのもいいのですが、外形的に見るだけでこれだけの不平等条約のタネがあるわけです。与党の方々はきちんと事前審査したのかね、そもそも英語は読んだか?、と聞きたくなるレベルです。