先のブログに、北朝鮮との関係で「かつて貸し付けたコメの代金支払い(農水省の特別会計に資産として計上してある)」の問題がある、と書いたら、通な方から「何ですか、それは?」と聞かれました。
 
 以下は、食料安定供給特別会計の貸借対照表です。ここで私が赤で印を付けている「貸付米」の部分に北朝鮮への貸付米の話が入っています。平成10年にインドネシアに70万トン、平成12年にWFP(世界食糧計画)経由で北朝鮮に50万トンのコメを貸し付けています。その貸付米の分が「資産」として乗っています。
 

 
 その残りの総額が平成27年度決算時点で1529億円あるという事です(現時点での北朝鮮とインドネシアの内訳はよく分かりませんが、国産米で貸し付けた北朝鮮の分が多いはずです。)。その1529億円すべてをインドネシアと北朝鮮(WFP)が返すという事ではなく、国際価格分は両国からの償還、国内価格と国際価格の差額は日本が負担となっています。

 そして、毎年、105億円を特別会計に償還しているのですが、105億円-(インドネシアと北朝鮮から償還された分)は一般会計からの繰入です。そして、恐らく現時点で北朝鮮から償還はなされていないと思います。一応、今の計算では平成43年度までの償還という事になっています。本件は昔、私が提出した質問主意書への答弁(「八について」参照)でも明確になっています。

 この北朝鮮へのコメの貸付は国産米で行ったので、国民負担が多いかたちになっています。その経緯については、櫻井よし子さんがかなり細かく書かれています(ココ)。櫻井さんの記事前半は、当時のコメ支援が決まった時の異様な雰囲気を感じさせるものでとても面白いので是非、読んでみてください。河野洋平外相が相当に強いイニシァティブを発揮した事を窺わせます。

 また、河野洋平外相の意図は、以下の答弁でとてもよく分かります。ちょっと長い引用になりますが、ご紹介しておきます。

【平成12年11月09日参議院外交防衛委員会】
○国務大臣(河野洋平君)(略)そこで、米の支援の問題でございますが、私がまず申し上げておきたいと思いますことは、米支援はあくまでも人道的な支援でございます。これは、我が国の隣国、近隣の国に食糧で本当に困っている国があれば、それに対して人道的支援を行うということは、これはあって当然だと私は思います。そのことと非常に厳しい交渉をするということとは、それは別といえば別。

 あるいはお互いの信頼関係をつくる、あるいはお互いに相手の困難な状況というものはわかって、そういうときには助け合う。助け合うというか、助ける相手なんだなということを先方がわかっているということが、交渉の中にいずれ、つまり交渉をそれによって譲歩するとか妥協するとか何をするとかということを具体的に私は申し上げているのではありませんが、相手と話し合う、交渉する以上、先方に対して、この自分の交渉相手はだれかが困っているときにはやはりちゃんと助ける国なんだなということをわからせておくということは大事なことではないかというふうに私は思いまして、人道的支援は、これはやるということを私は決心をいたしました。

 問題は、数量をどのぐらいやるか、それからどのタイミングでやるかというようなことが問題でございました。
 
(略:50万トンの数の根拠についてかなり長く説明。御関心の方はココで平成12年11月9日の参議院外交防衛委員会を検索ください。)
 
 さらに、私は先ほども申し上げましたけれども、アメリカ、韓国などとの政策調整でいろいろ意見交換をしておりますときにさまざまなアドバイス、示唆を得ているわけでございますが、そうしたものを総合いたしますと、ここで五十万トンの支援をするという発表をすることは北に対して相当強いインパクトを与えることになるというふうにも私は判断をいたしましたので、私の責任において決めさせていただきました。

 さて問題は、議員がお尋ねになった、ではそれがどういう意味があったのかというお尋ねでございますが、私は、五十万トンの支援をしますと発表して、そして直ちにその結果がこれだけ出ましたというものではないと。そんな結果を私はもともと期待をして五十万トンと言っているわけではないのであって、このことが交渉をする相手方との間の信頼関係をつくっていくという意味でまさに一つの意味がある、こう考えているわけでございまして、私は、これからの交渉というものにまだまだ慎重にではありますけれども、先方とお互いにお互いの立場を考えた、厳しい交渉であっても、お互いに相手の立場を考えた交渉というものをすることができるようになるのではないか、こんなふうに思っているわけでございます。
【答弁引用終了】
 
 この時の判断の結果として、今でも食料安定供給特別会計に「貸付米」という資産が残っているのです。資産と言っても、特別会計の経理上資産になっているだけで、インドネシアと北朝鮮から償還される分以外は一般会計からの繰入になるので、国全体としてみた時には資産でも何でもありません。更には北朝鮮からの償還は殆ど無いでしょうから、現時点でも事実上不良債権化していると見ていいと思います。
 
 北朝鮮情勢が大きく動き、場合によっては国交正常化にまで踏み込む可能性がある中、当時の検証は必要だと思います。大まかに言って、(1)何故、コメ支援を行ったのか、(2)何故、50万トンだったのか、(3)何故、国民負担の重い国産米だったのか、(4)コメ支援の成果はどのようなものだったか、(5)特別会計に残る1000億円以上の貸付米の償還はどうなるのか、という点になるでしょう。
 
 こういう検証をしないまま、何となくズルズルと本件が続き、最後は北朝鮮と国交正常化した際の「経済協力」の中ですべて飲み込んでしまうような事があってはならないと思います。なかなかテクニカルな所が多い話ですけど、たまにはこういう議論を国会でも聞きたいですよね。特に現外相の御父上の話でもありますから。