9月20日に京都大学で講演しました。国際フランス語教授連合アジア・太平洋委員会の第4回地区大会でして、全体のお題は「フランス語を通じた言語生態系の保持と言語的多様性」でした。

 

 「私なんかがやっていいのかな。」と思いつつ、なかなかフランス語使いは多くないためご指名を頂きました。講演についてはこれです。私が書いたものをネイティブ・チェックを受けています。結構、これだけ書くのは力が要りました。内容について御紹介しておきます。

 

【講演内容(要旨)】

・ 日本では、英語教育においても読解、文法が重視されがち。コミュニケーション・ツールとしての意義はどうしても下がる。難解な文章を読む能力があるのに、話す事が出来ない学生が多い。

 

・ フランス語についていえば、「意味不明」というのが大まかな感じ。私の世代では、フランス語でイメージするのは「セシール」のCMの最後に出てくる「Il offre sa confiance et son amour(信頼と愛をお届けします)」というフレーズの雰囲気が典型的。つまりは「意味不明」、「縁遠い」という事。

 

・ 日本ではフランス語を教える中学校や高校は少ない。ただ、私がフランス語が話せるようになって分かった事は、「フランス語で受ける大学受験はとても簡単だ。」という事。東大入試のフランス語なんてのは、英語で言えば高校受験レベル。何人かの高校生に勧めてみたが、まだ、私の助言を聞いた人は残念ながらいない。

 

・ 私は大学の第二外国語でドイツ語を取った。あれから25年経ったが全く覚えていない。同級生も皆同じ。大学での第二外国語教育はよく考えないと、その存在意義そのものが問われる。

 

・ 近年、大学の第二外国語教育を見ていると、ちょっとした変化がある。私の時はロシア語、中国語、スペイン語はマイナーだったが、最近は中国語とスペイン語の伸長が著しい。中国語は分かるが、何故、スペイン語なのかという事になる。多分、陽気で活発でグローバルなイメージが売れているのだと思う。かたやフランス語はファッションとか、エッフェル塔とか、フランス料理とかちょっと古臭いイメージに固執している。

 

・ フランス語で難しいのは、まずは発音。母音の数も、子音の数も日本語より多い。したがって、日本人の顎の筋肉がフランス語仕様になっていない。大半の人は発音の難しさで断念する。そして、文法。まず、名詞の性で躓く。慣れてくると分かるようになるもので、例えば(外来語である)「新幹線」は男性形とかも分かる。ただ、これも「単語を覚えるだけでなく、性まで覚えようとすると倍の労力が必要。」という認識になる。

 

・ そして、様々な活用も厄介である。私も未だに使いこなせない。しかも、面倒なのが「単語の中で読まない部分が多い。」という事(例:「彼らは歌う」の"Ils chantent"の内、Ilsのsとchantentのntは発音しない。)。その点、ドイツ語やスペイン語は書いてあるものはすべて発音するのでやりやすい。

 

・ この手のハードルを克服するには2年くらい掛かる。これをクリアーすると、フランス語は規則性の強い言語なので、突然、(規則性が相対的に低い)英語よりも遥かに簡単な言語になる。ただ、その2年を費やす人は少ない。

 

・ 私はフランス共和国のみならず、セネガルのダカールに2年住んだ。その他にも色々なフランス語圏に行っている。いつも思うのが、何故、日本におけるフランス語教育は上記のような古臭いフランス共和国のイメージだけで売っているのかという事である。これだと潜在的にフランス語に関心を持ってくれそうな人すら失う。アフリカ、インド洋、カナダ、マグレブ諸国等、多様なフランス語圏のイメージを売っていく必要がある。

 

・ スペイン語を履修する人が増えているという話をした。その人達はイベリア半島のみに関心があるわけではない。ラテン・アメリカやアメリカ合衆国におけるヒスパニック文化に興味を持つ人がかなり多いはず。何故、同じ事がフランス語圏でも出来ないのだろうか。

 

・ よくフランス語圏の人は、英語の影響力増大に危機感を持ち、「多様性」という言葉を好む。しかし、よく考えてみよう。フランス語圏の内側において、あなた方はフランス共和国が独占するフランス語イメージに甘んじていないか。英語への対抗として「多様性」を言うのなら、フランス語圏内の「多様性」についても是非考えてほしい。

 

(最後に一言、選挙直前だったので、ちょっと強気な事を言っています。実は一番ウケた部分でした。ただ、落選してしまったので、今見ると気恥ずかしさすらあります。なので、最後の一言はご紹介するのを控えておきます。)