今年の通常国会で2回、アメリカによる鉄鋼アンチダンピングを取り上げました。私自身、父が新日鐵八幡製鐵所で勤務し、高校卒業まで製鐵所の社宅で育ちました。父の職場は「分析」でして、生産の最前線ではありませんでしたが、私の奥深い所に鉄鋼に対する強い思いがあります。これは自分自身のライフワークとして常に高い関心を持ち続けております。

 

 外務委員会での質疑は、新日鐵住金八幡製鐵所の主力製品である電磁鋼板に対するアンチダンピングを取り上げております(映像はココ)。鉄鋼新聞にも取り上げていただきました(記事はココ)。地元で色々な方から御好評でした。特に電磁鋼板のOBの皆様に質疑をご紹介した際は、プロの視点から非常に専門的なご指摘を頂くとともに「もっとやれ。色々教えてやるから。」と叱咤激励を頂きました。熱い思いをお持ちの諸先輩方に恐縮してしまいました。

 

 そんな中、このような記事がありました。私が指摘した通りです。今後、アメリカが主に使ってくるツールは「スーパー301条」と「アンチダンピング」なのです。これは通商問題を少しでも齧った事がある人ならすぐに分かる事です。トランプ政権はアンチダンピングを多用してくる事でしょう。まだ、国政のレベルではあまり注目されておりませんが、しっかりと注目していきます。

 

 アンチダンピングについて説明をすると、これは廉価販売に市場の攪乱を防止するためのツールです。したがって、「自由貿易」というよりは「公正貿易」を追及するためのものです。ただ、すぐに保護主義的ツールに転化してしまうものなので、WTO協定の中でルール決めをしています。

 

 ただ、WTO・AD協定はその解釈等に争いのある部分もあり、日本は幾度となくアメリカとの間で、WTO紛争解決手続きによる法廷闘争を行っています。結構、日本の経済産業省・外務省は頑張っておりまして、アメリカに勝訴しているケースはかなりあります。これまで戦ってきたものの中で「これはヒドい」と思うのは、損害の認定に際しての「ゼロイング」と言われるものです。これは何かと言うと、色々な鉄鋼の輸入の中で損害の出ている部分だけをカウントして、損害の出ていない部分(マイナスの損害部分)はカウントしないというアメリカの制度です。これだと調査が始まると必ず損害が認定されてしまい、アンチダンピング課税が行われてしまいます。これは日本はよく戦っていると思います。

 

 その他にも制度の本義としては「サンセット条項」というものがありまして、WTO・AD協定ではアンチダンピング課税については「5年。ただし、正当な理由がある時は延長可。」という事になっています。しかし、アメリカは全然止める気配もなく、もう40年近いものもあり、完全にアメリカの鉄鋼産業の既得権益化しています。また、技術的に細かい話をすれば、「同種の産品(何と何を比較して廉価販売と言っているのか)」とか、「ファクツ・アヴェイラブル(どのデータに基づいて調査するのか)」といった話もありまして、非常に細かい法律的議論があります。

 

 ただ、アメリカではこのアンチダンピングについては米国国内法で定められているので、通商代表部は議会から非常に厳しく言われておりガチガチのポジションです。よく米国との交渉をすると「いや、Congressとの関係があって。」と議会をエクスキューズに使います。都合が悪くなると「Congress」の言葉を使ってきます。我々、日本の国会もそれに負けてはならないと思っています。どんどん我々側からも行政に対して、このアンチダンピングについては「ダメなものはダメだ。」と言い続けていく必要があります。

 

 さて、このアンチダンピング、実は最近はアジア諸国の多用が目立ちます。中国の過剰生産問題+投げ売りもあり、東南アジアやインド等の各国ともアンチダンピング課税をよく使います。現在、日本企業にとっては(輸出がそれ程多くない)アメリカよりも、アジア諸国によるアンチダンピング課税の方が深刻な問題となりつつあります。これは日本企業にとって実に奇妙な結果となっており、「輸出先でシェアが増えるとアンチダンピング課税をすぐに打たれるので、シェアが増え始めると輸出量を調整する。」という実態があると聞いています。ここまで来ると「公正貿易」ですらなく、完全に「管理貿易」の世界になってきています。

 

 現在は個々のケースに対応するしかないのですが、本来であればWTO・AD協定の改正が筋です。というのも、こういうルールものはマルチの交渉でやらないと意味が無いのです。例えば、アメリカが日本に対するアンチダンピング課税についてのみ制度を変える事は無理なのです。だから、世界全体でルールを改正する動きにしか乗れないはずなのです。今、二国間の自由貿易が百花繚乱ですが、実はそれでは対応出来ない事があるのです。こういうAD協定のようなルールであったり、農業の補助金削減のような話であったり、これらは何処まで行っても二国間やTPPのような協定ではやれない(やろうと思わない)のです。

 

 冒頭引用した外務委員会での質疑で、ちょっと外務省は腰が引け気味でした。トランプ大統領との関係を忖度して、今はあまり強いポジションを出しにくいのでしょう。だからこそ、国会側から厳しく本件は指摘していきたいと思います。日本の交渉官に「うちのDiet(国会)がうるさくて。」と言わせるためにも。