【以下はFBに書いたものに加筆、修正したものです。】

 

 フランス大統領選挙については、マクロン元経済相とルペン国民戦線党首の決選投票になります。まずは第一回投票のおさらいからです。


マクロン(独立系中道)24.01%
ルペン(国民戦線)21.30%
フィヨン(共和党)20.01%
メランション(急進左派)19.58%
アモン(社会党)6.36%

 

(時折、何故ルペンは極右と書かれて、メランションは極左ではないのか、と問われるのですけど、これはルペンより右はいないけど、メランションより左の勢力がまだあるという事が、少なくとも私の深層心理的に影響しています。)

 

 陳腐な言い回しですが、これは「激震」です。理由は以下の通りです。いずれもこれまでのフランス政界にはなかった事です。

 

① いわゆる2大政党(社会党、共和党)が決選投票に残らない。
② 既存のフランス政界アウトサイダーの得票が、マイナー候補も加えると7割に迫る。
③ 反EUを謳う候補の得票が、マイナー候補も加えると半数に迫る。

 

 地理的に見てみると、ルペン候補の勝った地域は北部、東部、南東部です。北部はアメリカで言う所の「ラスト・ベルト(錆びたベルト)」に近いです。北部最大の都市リール(私が1年住みました)は、常に社会党の大物が市長をやっており、元々は社会党の金城湯池とでも言える地方でした。しかし、国民戦線支持として典型的なパ・ドゥ・カレ県などルペン候補は、今回、他候補にダブルスコアです。同県のエナン・ボーモンという町(国民戦線が市長)でルペン候補は祝勝会的な事ををやってましたが爆発的な盛り上がりでした。

 

 そういう中、私は第二回投票はマクロン候補60%、ルペン候補40%くらいの数字を軸とした数字になると見ています。いずれにせよ、決選投票ではマクロン候補が勝つ事は動かないと思います。私は先のブログで、第一回投票では「おしおき票」、「隠れルペン票」が出ると踏んでいましたが、事前の世論調査と実際の結果を比較する限り、意外にそれはあまり出なかったようです。直前のシャン・ゼリゼでのテロもルペン候補にプラスに働いていません。そこも踏まえれば、爆発的にルペン候補が過半数超えという事はちょっと想定し難いです。

 

 さて、ここから若干の未来予想になります。マクロン大統領が誕生した時、何がポイントかと言うと「誰を首相にするか?」です。マクロン大統領の支持母体である「En Marche!(前へ)」は議会に足場がありません。フランスの制度は、議会多数派から大統領が首相を任命する仕組みです。なので、首相を誰にするかで、今後のマクロン大統領が「何をバックに政権運営をするのか?」が見えてきます。

 

 普通に考えれば、まず、親和性が高そうに見えるのは左派社会党です。以前、マクロン候補は社会党員だったこともあります(今は違います)。マクロン候補は、オランド大統領時代の大統領府ナンバー2→ヴァルス第二次内閣の経済相でしたので知己は多いでしょう。それに加えて、(最近のフランス政治で寂しそうにしている)中道各派はマクロン大統領に乗って、息を吹き替えそうとするでしょう。右派共和党からも一部乗ってくるかもしれません。

 

 では、社会党内部を見てみると、右派はマクロン大統領に乗るでしょう。実際、党内最右派のヴァルス前首相は第一回投票から自党のアモン候補(党内最左派)を応援せず、マクロン大統領に乗っていました。逆に社会党左派はマクロン大統領には乗らない可能性があります。その意味で、場合によっては、社会党は分裂の危機に面するような気がします。

 

 マクロン大統領側から見ると、既存の政党を割って「En Marche!」を中心とする新政党を作れなければ、多党連立みたいなハイブリッド政権になってしまいます。これでは政権が安定しません。そもそも、首相が、議会多数を占める単一の勢力から支えられていないという状況になってしまうと政権は常に不安定化します。なので、マクロン大統領は既存の政党に手を突っ込んでぶっ潰し、単一の大統領与党を作れるかが最初の課題になります。

 

 なお、今後の日程感ですが、通常、大統領選挙後すぐに首相指名→組閣します。その内閣は、1ケ月後に来る国民議会選挙向けの内閣です。そして、選挙結果を踏まえて、選挙後に内閣改造をします。これまでもずっとそうでした。そういう意味で、最初の内閣は選挙向けの暫定政権、本格的なのは(きっと6月辺りに来る)内閣改造後てす。

 

 では、「首相が誰がいいか」という視点から見ると、個人的には、ヴァルス前首相を首相とした内閣が実務的な継続性が担保されて綺麗なんだけどな、と思います。ヴァルス前首相とは、首相と経済相との関係であり気心も分かっているでしょうし、ヴァルス前首相は社会党の大統領候補党内選考で負けているので、大統領選挙でマクロン候補と戦うことなく、しかも、支持に回っています。しかも、思想的には社会党最右派のため、右派とも理解しあえる素地もあります。首相時代は一生懸命、党内左派に気を使いながら苦労していましたが、もし今回首相再登板になれば好きなように思う存分やれるでしょう。

 

 ただ、それだと手垢感がするかもしれませんね。最近まで社会党政権で首相をやっていた人間を、再度、首相に据えるというのは国民受けしない可能性大です。

 

 大体、私が思うのはこういう所です。フランス政治については、歴史的な経緯等分かりにくいので、テレビを見ていてもピンと来ない方が多いでしょう。何かの参考にしていただければと思います。