安全保障法制については今日採決がありました。2ヶ月弱、平和安全特別委員会のメンバーとして審議に臨んできました。色々と思いはたくさんあるので、私が問題だと思うことについては、もう少しクールヘッドになってきたら書きたいと思います。

 ところで、TPPでコメの議論が盛んになっております。今、どういう議論になっているかは分からないのですが、日本農業新聞等で得られる情報をベースに法的な論点を書いていきたいと思います。かなりテクニカルですけども、お付き合いください。なお、誤解の無いように予め言っておきますが、私はアメリカの主張を是としているわけではありません。あくまでも、こういうやり取りになっているであろうという推察だけです。

 まず、アメリカは一定量の主食用米を購入するよう要求しています。そして、アメリカの数量の一定量の枠をオーストラリアも求めています。それに何らかの対応をしようとしているようです。これは本当に可能なのかということです。

 今のコメの輸入は国家貿易で行われています。そして、本来アクセス機会だけを提供すればいいものを国家貿易だからということで全量輸入しています(ただし、国家貿易だから全量輸入しなくてはならないという国際法上の根拠はありません。)。

 国家貿易については、GATT17条において「商業的考慮のみ」に基づいて行われることになっています。これまでずっと、日本は76.7万トン(玄米ベース)の概ね半分をアメリカから輸入しています。しかし、商業的考慮のみに基づいて購入しているわけですから、76.7万トンの概ね半分という数字はあくまでも「(商業的考慮のみに基づいた)結果」であって、「アメリカ枠」があるわけではないというのが、国際法に沿った日本の現在の立場です。

 さて、ここまでの前提をベースにして、今回アメリカが要求してきている新規輸入についてですが、この輸入にどう対応すべきかというのは結構難しいのです。

 まず、国家貿易枠を拡大して、拡大した分をアメリカ輸入枠とするということが考えられます。これは先のGATT17条との関係で無理でしょう。今の76.7万トンの概ね半分というのも、公的にはアメリカ枠ではないのです。あくまでも商業的考慮のみに基づいて輸入した「結果」です。国家貿易枠の中に、特定の国からの輸入枠を設けること自体、商業的考慮のみに基づいた輸入が行われていないと判断されるでしょう。

 次に考えられるのは、国家貿易を一般的に拡大しつつも、拡大した分は「事実上」アメリカからの輸入に充てるというアイデアですが、これを論理的に説明することは極めて困難です。「何故、拡大した分がアメリカのみに行くのか。」ということを論理的に説明することは無理でしょう。

 恐らく、今回のアメリカからの新規輸入分は国家貿易枠で処理することが非常に困難です。となると、民間貿易としての扱いで処理することを考えなくてはなりません。一定数量の低関税枠を設定した上で、マーケットメカニズムの中で需要が生じたら購入するし、需要が無ければ購入しない、これが一番スタンダードなやり方です。

 ただ、この場合に幾つか問題が生じます。まず、新規枠分全量輸入してほしいアメリカからするとその確約が無いことになります。交渉で「確約しろ」と相当に押し込んできているはずです。逆に日本側からすると、低関税枠のその関税の水準をどう設定するかということが悩ましいです。あまり低関税でやってしまうと、低価格のアメリカ産米がそのまま市場に流れ込んできます。かといって、関税の水準を高めに設定してしまうと、殆ど輸入が生じず、アメリカは激昂するでしょう。恐らく政権が悩んでいるのは、この民間貿易でのコメの輸入の関税水準ではないかと思います(勿論、どの程度の数量なのかというのが最大の問題ですが)。微妙なさじ加減です。

 しかも、民間貿易にしてしまうと、現在、国家貿易でやっている内外価格差を詰めるためのマークアップという課徴金を中抜きすることが出来ませんので、価格調整することが難しいです。

 さて、民間貿易でやると仮定した上で、(1) アメリカの求める輸入数量を全量輸入する、(2) 国内市場への影響を排除する、この2つの要件を満たすことがどの程度可能かということですが、上手い知恵は無いのです。(1)を満たそうとすれば、関税水準を下げる必要がありますが、それをやると(2)の条件が満たしにくくなります。

 ここから先は結構選択肢のバラエティが多くなります。ただ一つ確実に言えるのは「カネで解決する」という方針です。アメリカ産米を国内に入れるけど、事実上マーケットに出さず、例えば数年後に飼料米に回すというやり方にせよ、アメリカ産米をマーケットに出すけども、それと同量の国産米を国が買い上げて、数年後に飼料米に回すというやり方にせよ、相当な国費が掛かります。どういう選択肢を採るかはまだ分かりませんが、一つ言えることは「カネで解決する」という部分です。ここは間違いないでしょう。

 最近、我が党の農政猛者とこの話をしていた際、「そこまで行くと、どこに自由貿易の要素があるのだ。完全に対アメリカ食管会計じゃないか。」という指摘がありました。私もその通りだと思います。ただ、上記のような仕組みを禁ずるGATT/WTO上のルールは無いのです。そもそも、(加盟国間の貿易の完全自由化を前提とする)自由貿易協定において関税割当(輸入枠)を設定することが想定されていないのです。想定されていないからルールが無い、だから、どんどん醜悪な構図が出来上がっていく、そんなイメージでいいのかなと思います。

 コメの将来について、とてもとても重要な話を書いたつもりなのですが、どう読んでも小難しいですね。反省します。