トマ・ピケティの「21世紀の資本」が日本で盛り上がりましたね。歴史的に一時期の例外を除き、資本収益率は経済成長率より高いという、結論が分かりやすかったので、取っ付きやすかったというのもあるでしょう。

 日本で見ていて「?」と思ったことがありました。ピケティは左派フランス社会党のイデオローグでして、彼が話しているのを見るととても左派ワードのオンパレードですし、政策的な帰結は「累進課税の強化」です。そういう視点抜きに手放しで礼賛する傾向があるというのは、何処かに「(悪しき)欧米信仰」みたいなものが背景にないかなという気もします。

 あと、「21世紀の資本」は本国フランスではそこまでのベストセラーでもありません。何故かというと「それに類する分析はこれまでもたくさん見た。」からだろうと思います。ある意味「何を今更」感すらあるかもしれません。格差の原因、固定化についての分析については、フランスはかなり先を行っています。

 「21世紀の資本」よりも、今の日本の現状について参考になると思うのは、私は(既にお亡くなりですが)ピエール・ブルデューという学者の「再生産(Reproduction)」という本だと思っています。こちらの方が日本でよりウケるし、リアリティがあると思うんだけどな、と常々思っています。

 これはとても簡単に言うと、お金持ちの子どもが進学で有利というのみならず、教養・習慣等の文化資本が学歴に影響することを証明しています。そして、子供も親の文化資本を相続し、同じく高学歴→高収入になるという感じです。ブルデューが「文化的再生産」と呼ぶものです。

 今、日本にこういう文化的再生産が出ていることをとても強く懸念しています。親の学歴、収入がそのまま継承されていくことの背景には、文化的、教育的な要素があり、教育システムが知らず知らずの内にその手助けをしているとすら言えるかもしれません。文化的再生産は数値化出来ないので見えにくいのですが、ブルデューはそれを上手く説明していると思います。

 私個人の経験ですと、大学に入った時、(東京出身の)友人から「家にメシ食いに来いよ」と言われてノコノコ行ったのですが、その家庭環境の違いのみならず、会話で使う用語(+当たり前ですが出てきた食事)、すべてが別世界でした。「オードブル」といわれて、プラスチックのサークルトレーに入った唐揚げを連想した自分はこの場では異邦人だなと思いました。

 多分、そういう数字に表れない文化資本とその再生産というのが、おカネの話を超えて、格差社会の根本のところにあると思います。マルクスとも、ピケティとも、ちょっと違ったスタイルの分析ですけども、実は日本の現状に一番沿っているのはブルデューではないかと思います。

 既に鬼籍に入った方なので、御本人の話を聞くことは出来ませんが、経済学的に難しいピケティの議論に飛びつくくらいなら、こちらの結論の方がリアリティがあるように思います。ただし、ブルデューの本も無茶苦茶難しくて、読みこなすことをお勧めできませんけど。