金正恩体制については様子見以上のものを言う人はいませんでしたけど、その将来については比較的悲観的な見方が強かったかなというところです。


 北朝鮮の核保有については(1)安全保障、(2)国内引き締め、(3)国の威信といった要素があるため放棄することはないものの、現時点での核兵器の能力は低く、抑止力たるまでは開発が進んでいないというご意見を伺いました。私も似たような意見で意を得たりというところです。しかし、ある関係者は高濃縮ウラン核兵器について、今年か来年に何か動きがあるかも、と何の根拠も言わずに示唆だけしていました。あえて深追いしませんでしたけど気持ちが悪かったです。


 拉致問題については、勿論、一般的な同情と関心を示してはくれますが、あくまでも「日本の問題」だという姿勢です。そこは過剰な期待感を抱いてはいけないのだということを再認識しました。であるが故に、私からは何人かの方に「国際社会は核開発について関心があるだろうし、核問題が解決したらそこでディールをしようとするだろう。しかし、日本は違う。核問題と拉致問題を天秤にかけて、どちらかが解決すれば、それで良しということにはならない。仮に核問題の前進で何らかの合意に至ろうとする時、日本の拉致問題の前進がないのであれば、日本は六者協議でも拒否権を投じるだろう。仮に1対5になっても合意に拒否権を投じると思う。そこは理解しておいてもらいたい。」と強めの姿勢を強調しました。これくらい言っておかないと、また、ズルズル行ってしまうのです。ポイントは「1対5になっても」です。核問題で合意ができそうになると、中国あたりは日本に「いい加減に合意に加われ。」と強い圧力をかけてくるでしょう。アメリカもそういう方向に動くかもしれませんし、韓国からは「うちにも拉致被害者がいるのに我慢しているのだ。」くらいのことは言いかねません。その時でも「ダメ」と突っぱねる胆力は常に日本の指導者には求められます。


 核問題について、私から(若干の挑発も込めて)何人かの人に「北朝鮮は中国、ロシアに核兵器を使うことはないだろう。同胞に撃つ可能性も相対的には低い。アメリカには届かない。そうすると、一番具体的に脅威を感じるのは日本である。逆にアメリカにとっては不拡散の視点のほうが大きいのではないかと思えることがある。その違いについてどう思うか。」と聞いてみました。まあ、答えは「そんなことはない。在韓米軍、在日米軍、これまでの同盟関係等、北朝鮮がどこに核兵器を使おうとも、アメリカはそれを自国への具体的な脅威、攻撃とみなす。そもそも、技術革新でテポドンがアメリカ西海岸まで来る可能性を否定した想定には立たない。」ということでした。


 中国との関係はとても気を使っているようで、「潜在的敵対関係にあるとは思わないか」とどんなに聞いても、「いや、実は・・・」と語る人は皆無でした。どう形容するか、とても慎重な印象を受けました。むしろ、私が「ステークホルダー」という表現を使ったら「そうそう、その通りだ」と言ってきたくらいです。「containmentでも、naïve appeasementでもなく・・・」という間を狙うと、ステークホルダーくらいの表現が良いのだと思います。中国との関係ではコミュニケーションを重視しているところがあり、中央政府が制御できない小規模紛争がout of controlになることへの懸念とか、中国が今何を目指しているのかについての研究とか、アメリカが軍事予算を削減することが中国側にどう映っているかとか、いわゆるゲームの理論的なところからのアプローチを現実に当てはめながら話を聞かされると、「うーん、こういうアプローチって日本にも必要だよな」と思いました。ただ、ある研究者の方が「中国は基本的にはリスク回避型の国。だけど、新興国は既存の国際関係にチャレンジしたくなるもの。アメリカの軍事予算削減がその誘因を作るのではないかと懸念している。」と話しているのを聞いた時は、ちょっと違うんじゃないかなと思いましたが。