今年は5年に一度の欧州議会選挙があります。本来、諮問的な役割が強い議会でしたが、次第に立法的な機能を強めつつあります(欧州委員会、欧州理事会との権限の区分けはとても複雑なので避けます。)。


 まあ、欧州議会というからには、欧州に関する政策を議論しているのかと思いきや、大体そうはならないのが常です。逆説的ではありますが、選挙結果が日々の生活に関係がないので、選挙民が結構好き勝手に自分の思いをダイレクトにぶつける場になっているというのが正しいと思います。そういう意味で、「欧州」議会の選挙ですが、論点が非常に内政と密接にリンクしていることが多いです。特に、その時々の政権に対する「お仕置き」的な意味合いを持つようになります。


 2004年の欧州議会選挙において、フランスでは当時のラファラン政権への批判がそのまま出ました。社会党が大躍進をして、直前に地方議会選挙で負けていた与党は更に窮地に追い込まれました。1999年の欧州議会選挙では、当時の与党幹事長だったニコラ・サルコジがボロボロに負けてしまい、サルコジは与党幹事長を退かざるを得ませんでした。1994年の欧州議会選挙では、当時の与党社会党の第一書記だったミシェル・ロカールが敗北して、結局、ロカールは1995年の大統領選挙候補から名前が消えてしまいました。一般論として言えば、政権へのお仕置き的な意味合いが強く、今回、フランスで言えばサルコジ大統領・フィヨン首相は厳しい試練に立たされるでしょう。


 逆に、この欧州議会選挙は比例代表が基本となっているので、フランスの国民議会選挙(小選挙区制)では絶対に上がってこない政党が議席を確保することができます。1994年の選挙では、ベルナール・タピ(という実業家兼怪しげなおじさん)やフィリップ・ドゥ・ヴィリエ(という右翼愛国系のおじさん)の党が大躍進したことがありましたし、1999年の選挙ではドゥ・ヴィリエとシャルル・パスクワ(という元内相)が共同で作った党は、サルコジ率いる政権与党を上回る票を確保しました。


 そして、一番特徴的なのが極右国民戦線が一定の議席を確保していることです。党首ジャン・マリー・ルペンは1984年以来ずっと欧州議会議員を務めています。まあ、かつてルペンは第4共和制の頃、1956年の国民議会選挙に、当時フランスを席捲していた「プジャーディズム」というポピュリズム運動(と言っていいでしょう)に乗って当選しています。まあ、その後国民議会とは御縁がありませんけど、1956年に国会議員になった後、今でも国政で活動しているというのは驚きではあります。


(注:プジャーディズムというのはよく説明しにくいのですが、あの国には国難が訪れると排外的なポピュリスト的運動が流行る傾向があり、インドシナ半島での戦争が泥沼化した際に生まれたその種の運動の一種かなと思っています。ナポレオン3世、20世紀当初の反ユダヤ色の強いブーランジズム等々。そういう国なんだろうなと思っています。)


 このジャン・マリー・ルペン、今年82歳になります。まあ、今年の欧州議会選挙でも当選できるでしょう。これが少し問題になっています。どうも、欧州議会では選挙後最初の議会で開会宣言をして、議長選出までの議事運営の役割は最年長の議員に割り当てられるらしいのですね。このまま行けば、ルペンにその役割が与えられそうなので、欧州議会が困惑しているということのようです。


 これを何とか阻止するためには、ルペンよりも年上の人を欧州議会に送り込まなくてはなりませんね。報道を見ていると、可能性がある人として挙げられているのは、ドイツのシュミット元首相(90歳)、ポルトガルのマリオ・ソアレス元大統領(84歳)、フランスのジスカール・デスタン元大統領(83歳)、ジャック・ドロール元欧州委員長(83歳)・・・、こんな感じです。時代を30年くらい遡った気分ですよね。日本で言うと中曽根元総理に再登板を願うイメージです。


 まあ、別に具体的に日本に影響があるわけでなし、ルペンを選出するのはフランス人で自業自得ですし、単なる興味本位で見ています。ルペンが欧州議会後の最初の議事の仕切りをしていたら、(不謹慎ではありますが)大笑いです。それにしても欧州では総じて極右が強いですね、本当に。日本はそこまでは行っていないのは、まだ、そこまで社会が疲弊、退廃していないからなのか、それとも既存政党が極右的なものを取り込んでいるからなのか、いや、もしかしたらもっと外国人が日本に住むようになったら極右的な訴えが根差す素地があるのか・・・、そんなことを考えます。