先日、テレビを見ていたら、ニジェールのことが取り上げられていました。ニジェールで、子供の頃予防接種を受けることができずポリオに罹患し、結果として肢体が不自由になってしまった人の話でした。


 アフリカ勤務の際、本当に多くのポリオ罹患者に出会いました。脊髄性小児麻痺とも呼ばれます。罹ると肢体が麻痺してしまったり、変形して通常歩行が完全に不可能になったりします。這って歩く、スケボーに乗って移動する、少し収入が入った方は手漕ぎ自転車で移動する、そんな姿を非常に多く目にしました。ちょっとイメージできないかもしれませんが、本当に「これは何とかしなくてはならない」と強く思いたくなる病気です。このポリオは予防接種によってほぼ確実に予防できるのですね。南アジアとアフリカ中西部がポリオが残る地域です。WHOは根絶に向けて動いています。是非、皆様もご関心をお持ちください。


 このニジェールという国なんですが、大半が砂漠です。首都ニアメは上から見ると、赤茶けた大地が広がります。あの赤茶けた大地はボーキサイトなんかな、と思いましたが、正直なところよく分かりません。北東部に行くとテネレ砂漠という砂漠が広がっていて、その中心地アガデズ周辺は世界遺産になっています。ニジェール人曰く、世界で最も美しい砂漠が広がっているということなので、死ぬ前には一度行ってみたい場所であります。


 大統領はママドゥ・タンジャ。1999年にクーデターで当時のイブライム・バレ・マイナサーラ大統領が銃殺された後、民政移管で選ばれた大統領です。タンジャ大統領については、軍との関係がうまくいっていなかったりすることはありますが、クーデター→民政移管という流れの後、なんだかんだで10年間きちんと統治していることを私はとても評価しています。民主主義で選ばれた大統領が10年大丈夫なのですから、後は次に大統領選挙がある際に政権移譲が上手くいけばもうパーフェクトです。「アフリカの民主主義のモデル」と呼ばれる国は少しずつ増えてきていますが、その一つに入り得る直前まで来ていると言っていいでしょう。お近くの比較的裕福な(はずの)コートジボワールが1999年のクーデター以来全くうだつが上がらないのとはとても対照的です。


 ただ、この国をめぐって、ちょっとゴタゴタしています。北部の砂漠地域にトゥアレグ族と言われる民族がいて、ずっと独立運動をやっています。1990年代後半から2000年代前半くらいの10年は比較的落ち着いていたのですが、また、最近反乱が続いています。トゥアレグ族についてはかつて思いを書きました(ココ )。落ち着いていた時期は、トゥアレグ族から必ず一人政権に大臣が入っていたのですが、今はニジェールの政府にトゥアレグ族の大臣の名前は見当たりません。この一点を持ってしても、「ああ、今は没交渉なんだろうな」ということが分かります。


 ただ、今回のトゥアレグ族の反乱が気になるのは、マスメディアで「アル・カーイダとの繋がり」というのが喧伝されているからです。日本ではまず報道されませんが、昨年12月以来、ニジェールでは国連特使でカナダ人のロバート・ファウラーという人が同僚や運転手と誘拐されたままです。その他、欧州の旅行者がたしか5人くらい誘拐されています。どれもこれも犯人はよく分からないのですが、2月にはアル・カーイダの北アフリカ支部みたいなところから犯行声明と誘拐者の写真(ボケてるらしいですけど)が送付されてきています。アル・カーイダ北アフリカ支部のトップはアフガニスタン経験者だということです。まあ、私はあまりアル・カーイダの存在を過大評価すべきでないという人間ですので、何処まで、この誘拐犯が「アル・カーイダ」と具体的な関係を有しているかは少し留保を置きたいと思っています。それにしても、こんなアフリカの砂漠のど真ん中にまで、「アル・カーイダ」を喧伝するような勢力が出てきており(それが本当に関係を有しているかどうかはともかくとして)、しかも、それが土着の反乱勢力と関係していることには不気味なものを感じます。


 しかも、このファウラー特使達はもはやニジェール国内ではなく、隣国のマリにいるらしいということで事態を複雑にしています。こういう国を持たない民族は国境を越えて動くのでこの国民国家制度の中ではなかなか対応が難しいのです。国を持たない民族については、クルド人、ウィグル人、チベット人と色々思いがありますがここではこれ以上深めません(なお、国を持たない民族が反乱ばかり起こしてけしからんといった趣旨では決してありません。)。


 アメリカや欧州が「アル・カーイダ」に関心があって、その動向に注目している割には、ニジェールみたいな国で、土着の反乱勢力とアル・カーイダが結びついているかもしれない・・・という動きには注目が集まりませんね。アフガニスタンはアフガニスタンで対処しなくてはなりませんが、今、世界各地でアル・カーイダのフロントが広がりつつあります(それが本当に関係を有しているかどうかはともかくとして)。少なくともこういう動きを潰して、アル・カーイダに厳しく対処すると共に、アル・カーイダの名を騙って犯罪を犯す輩に示しを付けることは、アフガニスタン・フロントへの対処同様に必要なことだと思います。


 しかも、アメリカのイラク戦争の発端となった(インチキ)情報というのは、ニジェールの北部で採取されるウランにサッダーム・フセインが触手を伸ばしたというものでした。ここから核兵器開発の疑いが出てきて、それを根拠の一つとしてイラク戦争がはじまったのです。今となっては、その情報が誤りであったことは証明されていますが、ニジェールというのは北東部にウランの世界的な産地があって、しかも、そこはトゥアレグ族が反乱を起こしている地域で脆弱性があるということは記憶に留め置いてよいでしょう。


 別に何ら結論もないのですが、色々な国際情勢の中でもうちょい注目を浴びてもいいんじゃないかなと思う国の一つです、ニジェール。