返してきなさい。

沙良を引き取った直後、何人もの友達から言われた。

何から何まで状態が悪かった。
過去1番大変だった。
訓練所ではほとんどゲージ暮らしで、トイレの時しか外に出してもらえなかったのだと推測される。
ずっとゲージを齧っていたであろう犬歯はすり減って尖ってない。
どこでも脱糞する。
フードを知らないため食べない。
極度の怖がりで散歩中の私の足音にさえ震えて歩けない。
10センチの段差が登れない。
目が澱んでいて顔に生気が無い。

書き挙げたらキリがない。

外にいる時にリードを離したら一巻の終わり、パニック状態でどこまでも走って最悪車に轢かれるだろう。

だからといって沙良に合わせた生活はできない。
凛、黎と築いてきた我が家のルールに則ってもらう。
凛の洗礼で頭から喰らいつかれた。
それでも凛に依存してる黎を見習って、群れの一員になるしかなかった。

そんな生活をして1年経たずして、化けた。

返してきなさいと言った友達は、沙良が欲しいと口々に言うようになった。

現在のシェパードには少なくなったアーモンドアイの瞳はキラキラと意欲的に輝いてた。
車のハッチを開けると喜んで飛び乗った。
走るのも泳ぐのも大好きで、歴代で1番アクティブだった。
常に私を見つめていて側から離れず、人語を理解し初の室内犬として暮らした。
穏やかで優しく、明るく元気な娘になった。

10歳で完全に耳が聞こえなくなったが、大嫌いな雷の音に怖がらなくて良くなった。

晩年、前庭障害を患ったが寝たきりになって介護が必要だったのはたった1ヶ月。
もっともっと介護がしたかった。

きっともう沙良の様な「良い犬」に巡り会う事は無いだろう。
それほどの犬だった。

沙良を送る時に言った。
「次は最初から私のところに来なさい」
間違えることのないように。