エントラスで彼の部屋を呼び出すと
すんなりとドアが開く


エレベーターの中
乱れた髪を直し
慌ててリップを塗り直す




嬉しい…
素直に嬉しい
どんな理由でも
彼が呼んでくれた事が嬉しい






彼の部屋の前
ドアホンを鳴らすと
少しして彼が現れた

リラックスした様子の彼は
私の大好物だ
顔がニヤけそうになるのを必死で堪える





「なに?
こんな時間に呼び出すなんて」

「は?
たまにはいいだろ?
まだ
電車も動いんてんだし」

「まぁそうだけど
あ!
はい
これ」

「ん?
なに?」

「バレンタインでしょ?」

「お?
作ってくれたんだ?」

「そ
今日会えなかったら
ひとりで食べるとこだった」

「ははは」


紙袋から取り出した彼が吹き出す

「おい
何だよ
これ?」

「だって…
まさか
呼び出されるなんて」

「ははは
お前らしいな
ははは」

「ねぇ?
中に…入れてくれないの?」

「あ、
わりぃわりぃ
どうぞ」






驚いた…


綺麗にセッティングされたテーブルコーディネート…

…なに?
今日って…記念日?



「ふふふ
逆バレンタインってやつ」

「え?
だって
あれは…」

「お前はあんなチョコ
嫌いだろ?」

「え?
わかってたの?」

「ああ
お前は質より量…だもんな
ほら
座れよ」




ダウンライトだけになった部屋
ろうそくの灯りがゆらゆらと揺れる



「美味いかわかんねーけど」



そう言って彼がサーブする料理


「太輔が作ったの?」

「ああ
わたるに聞いてさ」

「そう…」

「さ
食おう」










男にこんな事をしてもらうのは初めてだ

美味しいのかどうかなんてわからなかった
でも
綺麗に食べたのだから
きっとおいしかったのだ



「じゃ
デザート」


そう言って私の作ったガトーショコラを
切り分ける彼
無理やり押し込んだせいで
形が崩れていた


「ったくお前は…」

「…ごめん」

「ふっ…
素直じゃん」

「え
ああ…」

「滅多に謝ったりなんてしねーのにな」

「…」



優しい彼の眼差しに
私は勘違いをしてしまいそうになる









私は…特別だって
だけど
そんなの…
あり得ない







「私
帰る」

「は?
なに?
急に」

「帰る」

「ちょっ…待てよ」