結婚して…
夫以外の男と関わる事など
もう無いと思っていた。
手を繋ぎ歩くカップルを
微笑ましく思うことはあっても
幼い息子と手を繋ぎ
少し背を丸めて歩く夫の背中を
見つめていると
これ以上の幸福感は無いと
そう信じて疑う事が無かったのだ






なのに
その時は突然やって来た。




今でもその時の事は
昨日の事のように思い出せる。

幼稚園の仲良しのママ達と予定を立て
園の延長保育を申し込み
ホテルのバイキングへと出掛ける日だった

自宅を出る際にかかってきた姑からの電話…
いつもそうだ
楽しい事の前には
まるで計ったかのように姑は電話を寄越してくる
その日も姑のお小言に耳を傾けていると
約束の時間を少し過ぎてしまった。
片手でママ友へ遅れる旨のLINEを送信し
ようやく姑から解放され
慌ててホテルへと向かった
ひとりの男が乗る閉まりかけたエレベーターに乗り込み
指定階のボタンを押そうと手を伸ばした


そのサングラスをかけた背の高い男が
私に問いかけた

「何階ですか?」

「あ…
すいません
一番…上…で」



その言葉にクスリと笑われた気がした
一瞬
不快に思いながらも
慌てたせいで乱れた髪を直す事へと
気持ちを切り替えた


「ねぇ?
バイキングでしょ?」

「え?」


その男が私に問いかけた


不躾な男…
そう思いながらも
その男の声音は私の耳へと心地良く流れこむのだった
そして
滑らかな彼の頬を見つめ直した
この人…
もしかして…


「ランチか…
いいね」

「え…まぁ…そうね」

「いつも来るの?」

「いいえ
月に一度の贅沢…かな
子供がまだ小さいから」

「ふぅーん」

「…」




沈黙が広がる小さな箱の中

流れていく数字を見上げながら
早くつかないかと思った
そして
彼をちらりと見やる

やっぱり…そうよね
あの…アイドルの…







途中で一度開いたドア…

彼は…降りる事なくそのまま閉ボタンを押した




程無く…最上階へと着いた




















※途中になっている紅い月…
一度お休みしますm( _ _ )m