軽く振り返る彼の瞳が
優しく微笑む

「送るよ」
「でも…」
「酒は飲んでないから」
そんな事を心配しているのではない
互いの名前も知らないのに
いいのかという事だ
でも
彼の中には戸惑いなどないのだろう
慣れた様子で
私を助手席へとエスコートすると
夜の街へと車を走りださせた
「俺…藤ヶ谷太輔
あんたは?」
「え…
あ…
…りん」
「へぇ
りん…か…
可愛い名前してんだ」
「可愛い…?
ふふふ
若い頃は好きだったけど
今は…」
「なんで?
いいじゃん」
「…」
○○ちゃんのママ…
もう何年も
名前で呼ばれることなど無かった
夫だって…ママと呼ぶのだ
りん…
そう自分の名前を口にし
出逢ったばかりの男が
私の名前を呼んでいることに
違和感を感じた
私は本当にりんなのだろうか?
出逢ったばかりの男の車に乗る私は
本当に…りん…なのだろうか?
「どっか行きたいとこある?」
「…」
行きたいところ…
そんな事を考えた事…なかった
“行きたい”ではなく
“行かなければならない”ところへ行く
それが私の日常で
それが私にとっての当たり前だから…
長期休暇に
家族で出掛ける“行きたいところ”ならある
でも
私ひとりで…行きたいところ…
そんな事…考えたこと…ないのだ
「…ん?
ない?」
「…ええ
特には…」
「そっか
じゃ…どうすっかな」
「…」
運転する彼の横顔を見つめた

綺麗な…ひと
その頬に触れたい衝動にかられた
普段ならそんな事思いもしない
けれど
彼が私にしたキスのせいか
私は思わず手を伸ばしその頬に触れた
「はは
なに?
なんかついてた?」
「あ…ごめんなさい
綺麗だなって」
「綺麗?
そーでもないよ
ははは」
「ううん」
「なぁ?」
「ん?」
そういうと
私の手を強く握った
「おれんち…行こっか?」
彼の手から逃れようと手を引く
その私の手を彼がさらに強く握りしめた
求められている…
その事が嬉しくもあり
怖くもあった
私はただの平凡な主婦で
そして…彼よりも歳上で
こんな風に強く求められる事に
慣れていない
「まだ…帰んなくてもいいだろ?」
「ん…
子供が…待ってるの
帰らないと」
そう
私は平凡な…
でも
幸せな主婦
だから
もう…帰らなければ
「そっ…か
子供か…
じゃ
しかた…ねーな」
あっさりと離された手に
ひどく落胆する自分がいた
そうよね…
彼の周りにはきっと若くて美しい女が
履いて捨てるほどいる
なにもこんな子持ちの女を
無理に相手にしなくてもいいのだ
彼のような男が私にキスをしたという
優越感は微塵もなく消え去り
そんな優越感を感じた身の程知らずな己に
羞恥心で頬が火照るのを感じた
優しく微笑む

「送るよ」
「でも…」
「酒は飲んでないから」
そんな事を心配しているのではない
互いの名前も知らないのに
いいのかという事だ
でも
彼の中には戸惑いなどないのだろう
慣れた様子で
私を助手席へとエスコートすると
夜の街へと車を走りださせた
「俺…藤ヶ谷太輔
あんたは?」
「え…
あ…
…りん」
「へぇ
りん…か…
可愛い名前してんだ」
「可愛い…?
ふふふ
若い頃は好きだったけど
今は…」
「なんで?
いいじゃん」
「…」
○○ちゃんのママ…
もう何年も
名前で呼ばれることなど無かった
夫だって…ママと呼ぶのだ
りん…
そう自分の名前を口にし
出逢ったばかりの男が
私の名前を呼んでいることに
違和感を感じた
私は本当にりんなのだろうか?
出逢ったばかりの男の車に乗る私は
本当に…りん…なのだろうか?
「どっか行きたいとこある?」
「…」
行きたいところ…
そんな事を考えた事…なかった
“行きたい”ではなく
“行かなければならない”ところへ行く
それが私の日常で
それが私にとっての当たり前だから…
長期休暇に
家族で出掛ける“行きたいところ”ならある
でも
私ひとりで…行きたいところ…
そんな事…考えたこと…ないのだ
「…ん?
ない?」
「…ええ
特には…」
「そっか
じゃ…どうすっかな」
「…」
運転する彼の横顔を見つめた

綺麗な…ひと
その頬に触れたい衝動にかられた
普段ならそんな事思いもしない
けれど
彼が私にしたキスのせいか
私は思わず手を伸ばしその頬に触れた
「はは
なに?
なんかついてた?」
「あ…ごめんなさい
綺麗だなって」
「綺麗?
そーでもないよ
ははは」
「ううん」
「なぁ?」
「ん?」
そういうと
私の手を強く握った
「おれんち…行こっか?」
彼の手から逃れようと手を引く
その私の手を彼がさらに強く握りしめた
求められている…
その事が嬉しくもあり
怖くもあった
私はただの平凡な主婦で
そして…彼よりも歳上で
こんな風に強く求められる事に
慣れていない
「まだ…帰んなくてもいいだろ?」
「ん…
子供が…待ってるの
帰らないと」
そう
私は平凡な…
でも
幸せな主婦
だから
もう…帰らなければ
「そっ…か
子供か…
じゃ
しかた…ねーな」
あっさりと離された手に
ひどく落胆する自分がいた
そうよね…
彼の周りにはきっと若くて美しい女が
履いて捨てるほどいる
なにもこんな子持ちの女を
無理に相手にしなくてもいいのだ
彼のような男が私にキスをしたという
優越感は微塵もなく消え去り
そんな優越感を感じた身の程知らずな己に
羞恥心で頬が火照るのを感じた