ははは


私の顔を見て彼が笑う









「嘘だよ
冗談
くくくっ」

「えっ?…もう…」


「でも…」

「え?」

「いや
なんでもねーよ」

「…」

「じゃ
早速明日
9時な」

「…はい」










そんな風に始まった
私の運転手生活

不規則な彼の時間に
私の予定も全て翻弄される
習い事もいくつか変更してもらわなきゃ
とにかく
この1ヶ月を乗り切ろう…


それに
あのキス以来
私に触れる事も無い…

気まぐれ…

きっと
そうだったのだ
そう思うと
ホッとすると同時に
得体のしれない胸の痛みが
私を襲うのだった




何度目かの送迎

彼の様子が変だった

TV局へ迎えに行く
いつもなら
軽口の一つも言うのに
無言のまま
固く目を閉じる


調子…悪いのかな…


いつものように
マンションの駐車場へと到着する



「藤ヶ谷さん?
着きましたよ」

「…ん?
ああ…」

「大丈夫…ですか?」

「…ああ」







車を降り
彼が降りて来るのを待つ


車から降りた彼がふらつく


「大丈夫?」


駆け寄り腕をとる



「体調…悪いの?」



熱で潤んだ瞳で
ただ
私を見た


「歩ける?
荷物貸して」


少し先を歩き
エレベーターのボタンを押す


壁によりかかる彼のオデコに手をやると
やっぱり熱で熱い…



「風邪かしらね…」






部屋へと入り
彼の上着を脱がす

えっと…

「パジャマか部屋着…ありますか?」



ソファに横になる彼


「ダメ
そんなとこで寝ちゃ
ベッドで寝なきゃ
ほら
立って…」


腕をとり

立ち上がらせる


寝室のドアを開ける
月明かりが部屋を照らし
照明をつけずとも部屋の間取りがわかった


掛け布団をめくり
彼を座らせる

身につけていたアクセサリーを
ひとつづつ外してやり
ベッドサイドのチェストに置く

「ベルト…緩めた方が…楽よ」

「出来ねー
してくれよ…」

「え?
あ…うん」




ベルトに手をかける

その行為に…ドキドキとする自分に
腹が立った


彼は病気なのよ
なのに
私は…何を考えてるの
もう…


「はい
じゃ横になって
私…
水…持って来るから」


立ち上がった私の腕を彼が引く


「一緒に…いて…」







えっ…



引かれた拍子で
私は彼の胸の上に倒れ込んだ