「逢いたいの」

「わかった」





わかった…



その一言だけで
もう充分だ



いつ?
どこで?


それすらも
聞けないほど
君は遠い存在に
なってしまったのだから







出逢った頃は
まるで子犬が戯れるように
私の身体を弄んでいた君
30をまえにして
男の色香を身に纏った今の君には
もう私の身体など
使い古しの
毛布のようなものだろう
新しいそれは沢山あり
だけれど
慣れ親しんだその肌触りは
忘れないでいてくれた…
そんなところだろうか…











仕事を終え
帰宅する




シンとした部屋…



わかっている
来るはずなど無いと
それでも
どこかで期待していた









ベッドに寝っ転がって
私の読みかけの本を読んで

「これ
すげー面白い」
なんて言って…
挟んであったしおりが床に落ちてて
私が怒ると
ごめんごめん
なんて軽く言いながら
キスをしてきたっけ…



私の機嫌が直ったのを知ると

「腹減った…」

って
私を呆れさせて…








自分の進む道がわからず
もがいていた君…
その渦中にいた君には
わからないだろうが
苦しむ君は
とても魅力的なのだ



心の痛みがフェロモンとなり君を包む
そのオーラに
周りの女達が魅了される



気づけば
君の周りには
女だけでなく
人が集まるようになっていた


そして
君が自分の進む道を決めた





私のような女は邪魔になるだけ



だから
身を引いた
捨てられるくらいなら
こちらから捨てる
歳上の女の意地…


顔を歪めながら
けれど
どこかホッとした様子の君に
胸が掻きむしられた…


「今まで
ありがとう
幸せになれよ」


「ええ」



そう言って
君に背中を向けた
歳上の女の涙など
決して綺麗なものではないから…










君無しで
幸せになれと?
どうやって…


あの時…
溢れる涙を
私はどうやって
止めたのだろう…