ヒストリーボーイズ(ヘクターの最後の台詞) | Theatre

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観劇の備忘録。独り言。

日本版のヘクターに魅力を感じることが出来なかったことを告白しておく。
浅野さんは大好きなのだが、今回の役は全く心に響かなかった。

私の耳が悪いのか台詞が聞き取れない箇所が多く(文学作品、地名を語るシーン)、ボーイズへの憧憬の気持ちも感じられなかった。偏屈な自分の理想を貫く教師としては完璧だったが。
このヘクター像が日本版ヒストリーボーイズの特徴だったのかもとは今は思う。

テーマの一つである最後のヘクターの決め台詞。これも日本版だと全く感動出来なかったのだが、英語を読んだ瞬間に全てが分かって落涙した。英語だとこう始まる

Pass the parcel. That's sometimes all that you can do.


parcel(小包)って単語。これがすごく効いている。parcelと聞いて浮かぶのは小包、箱に詰められたクリスマスギフト、遠方の親戚から届いた贈り物、ワクワクしながら開けるもの、取り出して喜ぶもの(あるいはがっかりしたり)。これがparcelだからこの後に続く台詞の情景が浮かんで来る。

Take it, feel it, and pass it on.

箱詰めされた中に入っているのは知識や教養だけでなくガラクタかもしれない、誰かの思い出なのかもしれない。でもそれを取り出して感じる。会った事のない誰かの思いを共有する。そしてまた箱詰めして送り出す。

Not for me, not for you, but for someone, somewhere, one day.

私のためでなく、君のためでもない。いつか受け取る、会う事のない誰かのために。
ここは一幕最後、ヘクターがポズナーにハーディの詩を語るシーンと対をなす台詞で、本当に感動的。

Pass it on, boys.
That's the game I wanted you to learn.

ここもgameって単語が素晴らしい。 ヘクターの授業はこれから世の中に巣立って行くボーイズの少年として最後のそして最高の遊びの時間だった。
そして最後にもう一度

Pass it on.

作り過ぎてるけど、泣ける。胸を打つ。
これが日本語だともちろん同じ構成にはできない。それは仕方がないのだけれど、メインのフレーズが日本語だと

「自分が受け取った荷物を次の人に渡せ」

「parcel」を「荷物」にしたのが日本版の最大の特徴だと思う。
荷物になるとparcelのもつ箱詰めされたもののイメージがなくなる。ギフトのイメージも、開けた時のワクワク感も消える。代わりにもっと重たいもの、どちらかと言うと運ばなくてはならないもの、「重荷」のニュアンスが出て来る。
これは意図して「荷物」にしたんだろうな。ナショナルシアターのヘクターはただただ文学を愛し、大好きでたまらないものを生徒たちに分け与えた。そういう子供っぽいひたむきさが前面に出ていた、が、浅野ヘクターはもっと使命感を持って教育にあたっている。文学・芸術の愛好家というよりもまさしく教育者だった(彼が心から文学を愛していたのかもちょっと疑問なくらい)。日本で上演するにはこのタイプの教師にした方が観客の共感を得易かったのかも。非常に日本らしいヘクターであった。

と、なんとなく浅野ヘクター像が分かった気もするんだが、一幕最後の「鼓手ホッジ」の浅野ヘクターの演技は未だによく分からない。
あのシーン、映画だとヘクターの詩歌のひいては過去の作家たちへの愛溢れるシーン。更にはポズナーに向かって手を伸ばして結果触れない。後半アーウィンに「(愛の対象に)触れてはいけない」と告げる台詞に繋がる重要なシーン。台本にも手を伸ばすと書かれているのに、浅野さん確か腕を組んだままだったと思う。私が見た回だけなのかもしれないが。なんで手を伸ばす動作を入れなかったんだろう。ただ悲しそうに達観した表情で語るだけなんだよね。ここも台詞の聞こえが悪くて私が入りきれなかっただけなのかもしれないが。

いずれにせよ、最後まで分からないヘクターでした。ベネットはヘクターのカウンターパートとしてアーウィンを作ったと書いていて、オリジナルはヘクターが主だと思うが、日本版は完全にアーウィンの方が勝ってしまっていました。そういう作りにしたんだろうな。なんたって中村倫也初主演なんだもんな。


<おまけ>
ヘクターの決め台詞を原作単語を落とさない方向で日本語にしたら、難しい。今のところこんな感じ。

次の人に渡していくんだ。時にそれは君たちに出来る全てのこと。
受け取ったモノの蓋を開け、取り出して、感じる。そしてまた次の人に渡す。
私のためではない、君のためでもない、いつか、どこかで受け取る誰かのために。
次の人に渡したまえ、諸君。
これが君たちに学んで欲しかったゲーム。
次の人に渡せ。

ああなんかしっくりこない。もっと良い訳ないかな。

ちなみに日本版はこんな感じだったと思う。gameも落ちてた。綺麗にまとまっててすごいんだけどね。

自分が受け取った荷物を次の人に渡せ
時にはそれだけが君たちに出来ることだ
それを受け取り 感じて 次の人に渡す
私のためでも 君のためでもなく 誰かのために
いつかどこかで 次の人に渡すんだ
それを君達に学んで欲しかった
次の人に 渡せ