精神科の緊急保護施設でのお医者様は、インド系アメリカ人の40代くらいの男性でした。




「看護師から聞きました。

あなたはどう見てもstable だからここで保護する必要がないと。」




「はい、その通りです。」




私はお医者様に全てを説明し、


「今日はハロウィンだから帰らせてください。

子供たちには私がいないといけません。」





「しかしこの緊急保護施設は最低3日間は保護する必要があります。その規則は変えられません。」





「その規則は自殺の恐れがある患者さんに対してですよね。

お医者様も見てわかるでしょう、

私はそれに該当しないと。」





「確かにわかります。

ただ3日以内で退院した事例がない。」





「子供には私が必要です。

私は見ての通り、自殺願望や精神疾患は全くありません。

退院させてください。」





「でも…。」





「お願いします。」



私は冷静に交渉を続けました。


精神疾患があると疑われて入院したので、ここで冷静に交渉をしないと危ないと思いました。



お医者さんは決心したかのように、


「わかりました、異例ですがあなたを今日退院させます。

しかしもし次回、似たようなことが起こり警察官があなたを自殺の恐れがあると保護した場合、次回は数ヶ月入院もありえます。

気をつけてください。」




「ありがとうございます。」




病棟のロビーに戻り、看護師長さんにお礼を言いました。

そこからは友達のように世間話をしました。


すると「あなたの退院手続きが完了し、夫と子供が迎えにきている。」と、他のスタッフが迎えにきました。





すると看護師長さんが、

「私が見送るわ。任せて。」


と私と肩を組んで歩き出しました。




「私の夫を見ていってくださいよ。」


 


看護師長さんは笑いながら、

「そうそう、どんな男か見たいのよ!」



2人で笑いました。



そして廊下を並んで歩きながら、看護師長さんは

「あなたの夫は治らない。

私は沢山の依存性患者を見てきた。

回復している人はほとんどいない。」





「…。」





「私はあなたの夫と同様、

あなたにも助けが必要だと思う。」






「確かに何人にもそれを言われました。


しかし私に対する助けって何ですか?


看護師長さんのことは大好きですが、

正直、精神科はコリゴリですよ(笑)


私は病気ではないので、精神科にかかる必要はないと思っています。


カウンセリングにはまた行きたいけど、

夫が米軍なので、米軍基地の病院の精神科ではこの話もできないし…。」






「精神科ではなくて、ナラノン(家族会)には通ってる?」






「家族会?


家族会で、同じ境遇のよく知らない人達と泣いて、傷を舐め合って、意味があるのかなと思ってしまうんです。


私は看護師長さんにはこの話ができましたが、

基本的にはこの話を誰にもしたくないんですよ。」





そんな会話をしているうちに出口へ。




夫がいました。


夫は制服を着ており、看護師長さんにお詫びとお礼を言っていました。


ふと夫の意識がそれた時、看護師長さんが私に目で何か合図をしました。


そしてうなづく素振りをしました。





私は…




決心をしました。


そして覚悟をしました。




ここに保護されていた患者さんたちは、おそらく市販薬や処方薬の乱用者たちです。



覚醒剤やヘロインの違法ドラッグではないからこそ、

メチャクチャに、そしてボロボロになっていました。



違法ドラッグだったら、こんな薬物依存症の末期になる前に逮捕されて、刑務所へ入れてもらえるからです。




このままだと…

夫はどんどん進行します。



夫が薬物乱用を始めて2年、


私がそれに気づいてから

1年半も経っていました。


夫は廃人の一歩手前でした。



だから私も、

決心しました。


覚悟を決めました。