夫は日本の米軍基地勤務でしたが、転勤シーズンを前に、必死で日本在留を延長しようとしていました。



そんな中、次の勤務地は、夫の期待通りではなく、生まれ故郷のアメリカの州に決まりました。


日本からアメリカへの引っ越しは、米軍がすべてを手配してくれた為、ラクでした。


米軍に「引っ越し中に、子供がいては危ないので、奥さんと子供は1週間近くのホテルに待機してください」と言われましたが、転勤シーズンの当時、近くのホテルは満室。


スイートルームしか空いていなかったのですが、

米軍が「空いていないから仕方ない」と、私と子供をスイートルームに泊めてくれました。


スイートルームから見た、日本の朝焼けの海…

初めてのアメリカへの期待と、日本を離れる寂しさで、いつまでも眺めていました。



まさに

「行きは良い良い、帰りはこわい」になるとは。

…帰りは悲惨でした。





何もなくなった日本のマンションで、

夫は声を上げて泣きました。


夫が泣いたのは初めて。


男らしさにこだわる夫が、何もなくなった日本のマンションで声を上げて泣きました。



一緒にいた不動産屋の日本人の男性が

「日本で、子供2人産まれたもんね…。沢山の良い思い出があったんだね。また必ず日本に帰っておいで。」と夫の肩を優しく叩いていました。



夫は、故郷アメリカに帰りたくなかったんでしょう。


日本で故郷を忘れて、一生懸命、働いて、結婚して、子供を育てて、

アメリカにいた時の暗い過去とは違う、

新しく華々しい自分の人生に夢中になっていたんでしょう。


その華々しい自分が突如、暗闇の過去に引き戻される、おそれの涙だったかのような、今はそんな気がします。