不安が続いた私を見て、夫は突然、また休暇を取りました。
「僕には休暇が必要だ。
君がずっと行きたがっていたグランドキャニオンとモニュメントバレーに行こう。」
夫はやたらと休暇を取っているようですが、特殊任務の関係で、有給休暇を消化しなければいけなかったのです。
ちなみにまた当然、夫は「グランドキャニオンとモニュメントバレーに行こう。」と言い、そこから全く計画を立てず、お金を払う担当。
飛行機やホテル、旅のプランは私が決めなければなりません。
今になってわかりますが、
もう夫には、
「計画を立てること」が難しかったんだと思います。
薬物依存症の夫には、
先を読む、
計画を立てる
ができなくなりました。
グランドキャニオンの玄関口、ラスベガス空港でレンタカーを10日分を借りる時、チャイルドシートが1日5ドルでした。
10日分で、50ドル×3人分。
ちなみにアメリカはベビー用品がとても安く、チャイルドシートは、35ドルからあります。
「じゃあ買った方が安い。
私は空港で待つから、そこらへんのウォルマートで、チャイルドシート3つ買ってきて。
そしたら3割も安くなる。
45ドルも浮く。
帰りは持って帰って、ヤードセールで売るから。」
こういう計算、日本人は得意ですよね。
意外に苦手なアメリカ人が多いです。
夫もこういう計算が苦手でした。
ホテルは、私が大好きなイタリアのベネチアをモチーフにした素敵なホテルに泊まりましたが、
ラスベガス初日、夫はずっと寝ていました。
その後に行ったニューヨーク旅行もそうでした。
後になってわかりますが、
薬物依存症の症状、
電池切れでした。
トイレも行かない、
ただ横になり、
動かない、
呼びかけに反応しない。
これは本当に、
私が途方に暮れます。
いつ夫が起きれるのか、
わからないからです。
どんなに叩き起こそうとも
無駄です。
この後に行くニューヨーク旅行でもそうでしたが、
旅行初日に電池切れになられると、とても不安でした。
あんなに楽しみにしていた旅行、
もうどこにも行けないのかなと、
とてつもなく悲しく不安になります。
しかしまだこの時の私は
きっと
疲れているだけだろう、
と思おうとしていました。
私たちはギャンブルはしないのですが、夫は過去に一度、友人とラスベガスに行き、
50ドルを賭けて、5000ドルになったそうです。
だいたい日本円で、5千円が50万円になった感じです。
しかし今回、夫はカジノに100ドルだけを持って行き、30分ほどであっさり帰ってきました。
「僕が賭けていたら、お金だけが取られて、機械に文句を言っていたら、あっさりセキュリティに『ご退場ください。』と追い出された。」
この頃の夫は、だんだんおかしくなっていたのでしょう。
グランドキャニオンは美しく、夫は高額なヘリコプターツアーに乗せてくれました。
米軍のIDを見せれば、入場料無料などが多くて嬉しかったです。
ヘリコプターも5人で30分間、7万円でしたが、米軍IDを見せれば3割引でした。
しかし私はヘリコプターに酔い、
ずっと30分間吐き続けて、ひたすら地獄でした。
喜んだのは3歳の一番上の子だけで、
2歳はずっと耳あてで遊んでいて、
1歳はずっと寝ていました。
グランドキャニオンの次は、
モニュメントバレーへ。
モニュメントバレーの見どころは、なんといっても朝日です。
しかしわざわざ朝日の見えるモニュメントバレー内のホテルに宿泊したのにも関わらず、
グランドキャニオンから1時間、時差が早くなることを知らずに、朝日を見過ごしてしまいました。
それで夫に苦情を言いました。
確かに夫が毎日働いて、休暇を取ってくれたおかげで旅行に行けましたが、英語圏なのに何をするにも日本人の私まかせで、
「時差のことなど、日本人の私にはわからないことがある。
ネットでも私はすべて英語で調べていて、本当に大変だから、もう少しあなたも旅行について調べてほしい。」
しかし夫には届いていないようでした。
モニュメントバレー内のホテルにわざわざ泊まり、絶景のレストランで朝食をしましたが、
夫はまた何故かそこにいませんでした。
子供3人、特に上の子2人はヤンチャで、レストランで食べさせるのは大変なので、夫婦で協力しなければ不可能なのに、
夫はずっといませんでした。
どこかに行っていました。
薬物依存症が進行すると、だんだん、
「気づいたら、
ひとりでどこかに行ってしまい、
ずっと戻ってこなくなる行動」
が増えていきました。
このホテルのレストランで、広大なモニュメントバレーを目の前に、子供たちが一生懸命パンケーキを食べている写真があります。
子供たちにとって行きたい場所は、おそらくディズニーワールドや、地元のチャッキーチーズです。
私たち大人の希望で、無理矢理連れてこられた大自然。
一生懸命、旅行についてきてくれて、ごめんね。
モニュメントバレーでは、先住民ナバホ族のジープ・ツアーに申し込みました。
2時間で2万円ほどと高額でしたが、
「車で行けないところへ、ジープで行ける!」
と喜んで申し込んだら、
ジープツアーの周り…
みんな普通に、自分の普通車で観光をしていました
しかし
「先住民ナバホ族の方は貧困層が多く、観光業が大きな収入源」とおっしゃっていたので、
「少しでも先住民の方々にお金を払えて良かったと思おう。」と夫は優しく言っていました。
先住民ナバホ族のジープツアーで、忘れられない場所があります。
先住民ナバホ族の自治区は、
アルコールが違法でした。
その為、先住民ナバホ自治区のコンビニにやスーパーにはお酒は販売されていません。
観光客にも販売されません。
しかし当然、パレスチナ自治区のような検問所があるわけではないので、車で2時間ほど離れた自治区の外まで行けば、アルコールは買えます。
そして違法にも関わらず、
先住民ナバホ族の方は、
深刻なアルコール依存性の方が多いそうです。
ジープツアーの途中で、先住民ナバホ族の方が隠れてお皿を飲んでいる場所へ連れて行かれました。
広大な美しいモニュメントバレーの一角にある
大量のビールの缶の山。
物悲しかったです。
何より悲しかったことは、
1缶1ドル程度の
ジュースよりも安い、
みじめでおいしくない、
コレを飲んでいると恥ずかしい
貧乏人専用ビール
とアメリカで呼ばれている
悲しいビール缶のみで、
積まれた山でした。
※写真のビールの銘柄は違うものです。