秋斗から出てきた言葉は、明るく受け止めていいのか、暗い表情になるべきか、一瞬のためらいを要した。
「そ、そうですか…」
「そんな暗い顔しないでよ彼女ちゃん!俺全然平気だし!」
秋斗はヘラヘラと笑っているが、まるで笑い面をつけた人間をみているようだった。
「なあ、秋斗、それにしてもいつそこまで発展したんだよ」
沢口くんは不思議そうな顔をしていた。
それもそうだ。親友であるはずの沢口くんでさえ、告白していたことが伝わっていなかったのだから。
これは沢口くんにとっても、すんなり納得が行く話ではないといえる。
その上、常日頃犬猿の仲のはずの康太には打ち明けている。
様子を見るからにして全て事情を知っているのだろう。
「もういいだろこんな話」
康太が話を遮った。
「は?まだ話は終わってない」
沢口くんは、いつもなら自分の肩を持つはずの康太に話を遮られ動揺したのだろうか。
いつもより声が荒かった。
そしてその言葉は、これ以上、この話に触れるなという意味を孕んでいた。
秋斗はといえば困った表情で、沢口くんと康太の顔色を伺うだけだった。
馬鹿らしい。3人でずっと一緒にいて、1人だけに言えない事情なんて、あるはずがない。
勝手な持論だったが私は心にモヤを抱えた。
私には友情だとか、絆とかよく分からないけれど
こればかりは私でも腹が立ってしまったのだ。
秋斗と康太の不可解な行動に。
沢口くんにも知る権利はあるはずなのではない
かと、ただ私は思っていて、それと同時に
私は何故か腹を立てていた。
「バカみたいです。なぜ言わないのですか」
気まずく重たい空気を取り払うように私は言った。
「なぜ沢口くんには言えなくて、こんなアホみたいな男にいえるんですか秋斗さん
沢口くんになにか恨みでもあるなら直接言いなさいよ。言えないなら友達なんて呼ぶのやめなさいよ。康太も秋斗も沢口くんの友達ヅラしないてくださいよ。馬鹿らしい」
畳み掛けるように、早口で言った。口調はきっと冷静ではなかったと思う。
康太と秋斗は私を見て大きく目を見開き少しの間沈黙した。
けどすぐさま、ふ、と落ち着いた顔になった。
「今回は彼女ちゃんが正解なのかも」
「そうだな」
どこか納得したような表情を浮かべた2人。
「それで、何があったんですか」
私はそれを察してこれ以上踏み込んでいい、といっていると解釈し、秋斗にさらに問う。
秋斗はゆっくりと話し始めた。
秋斗は、先日下校を共にした日から毎日北山なおと下校をしていたそうだ。だが、
いつも気になるのは、一緒に下校する沢口くんと私の姿をこちらの存在など忘れるほど凝視していることだった。
その二人の姿を目にすると北山なおの機嫌は著しく悪くなる。それは、もう別人のように。
急に帰ると言い出すこともあったのだとか。
秋斗はこの時は何も気にかけてはいなかった。
下校を一緒にする日々が続き、しばらくして北山なおは突然こう言ったのだ
「ねえ、沢口くんと広瀬さんって付き合ってるの?」
その時の北山なおの表情は氷のように冷ややかな雰囲気を醸し出し、
言葉は氷柱のようにとがっていた。
吐息さえも、雪女のように凍らされそうな冷たさを纏っていた。
秋斗は、なぜそんなことを急に聞くのか、と疑問に思った。
つい、突然のことに
「いや、どうだろうね」
曖昧な返事、それに否定に近い返事をしてしまったそうだ。
それから北山なおの機嫌が悪くなることはなかった。
ほどなくして、今日の放課後
いつものように一緒に帰ろうと誘うと
「ごめんね、好きな人がいるの」
と断られてしまった。
「ま、そういうことだ」
すべて話し終わると秋斗は、道中にある
公共ベンチに腰をかけた。
康太も無言でドカリ、と座り
3人ベンチ…3人しか座れないことを察して
沢口くんは私に席を譲った。
沢口くんは秋斗の目の前に立ち、
「それで、なんで俺にだけ言わなかったんだよ」
沢口くんはまだ納得がいかないようすで、
仁王立ちして秋斗を見下ろした。
「えー、あおくんここまで言ってもわからないのー?」
秋斗は、めんどくさい、と言わんばかりの言い回しをする。
「は?なんだよそれ。」
「彼女ちゃんは?わかる?」
秋斗は首をこちらに向け、沢口くんを無視した。
まさか自分に質問が来るだなんて思ってもいなくて私は目線を下に向けて答える。
「い、いえ…」
うげっ、というような顔を一瞬見せた秋斗。
「ダメダメだなこのカップル~
鈍感カップルだ!」
秋斗1人が楽しそうに笑った。
苦し紛れの笑いだろうか。
すると康太が
「北山なおが、青志のことが好きかもしれないってことだよ。」
口から唾を吐き出すかのように、
簡単に口にされた言葉は
その場を凍らせた。
「北山さんが…俺の…こと?」
訳が分からないというような状況で
沢口くんは康太の顔を見つめるだけだった。
康太は誰とも目を合わせないためか、自分のつま先ばかり見ていた。
そしてしばらく沈黙が流れ
各々で言葉を選んでいるかのような
そんな時間だった。
「ね、動揺しちゃうでしょ。だから言わないことにしてた」
秋斗はヘラヘラと言った。
今度は私の方を見ずに、
「彼女ちゃんは?動揺した?」
急に話しかけられ、私は頭が真っ白になった。
なんでこんなに動揺しているのか分からないけれど、また、視界がグラグラと揺らいでいる。
「私は…私は…」
言葉が出なかった。
さっき選んだ言葉は、ピースの型にに合わなかったかのように、選んでは消え、選んでは消えていた。
「ま、安心してよ!ただの憶測だし。」
秋斗は沢口くんに笑いかけた。
「おい、なんかあいつ様子がおかしいぞ」
康太は私のことを顎で指した
「彼女ちゃん?どうかした?」
「い、いえ私は平気です…」
「待って広瀬さん、すごい汗…っ」
「平気ですから…そっとしておいてください」
北山なおの危険という言葉
北山なおが沢口くんに好意を寄せている
そしてそれを聞いた私は動揺している…?
なぜ、整理できない。
ただのモルモットなのに…
この胸の奥にある嫌悪感
私はその嫌悪感を
心の中にある箱に南京錠をつけてしまい込んだ。
「っはあ、平気です」
やっと初めて空気に触れたかのような気持ちになった。
「大丈夫だった?広瀬さん」
沢口くんは心配したようすで顔を覗き込んだ。
「はい。大丈夫です」
下手くそに微笑んでみた。
「ははっ、青志顔真っ赤だ」
「ほんとだ、あおくん顔あか!」
「う、うるせえ!」
いつもの3人に戻った。
なぜだかそれが、嬉しくてたまらなくて
自然に笑ってしまった。
秋斗と康太は立ち上がり、歩き始めた。
沢口くんもそれについていく。
そんな3人の姿を見ながら私も歩みを進めた。