自分のデスクに戻ると、誰が置いたのか2つに折りたたまれた真っ白な紙が置かれていた。
「…なにこれ」
カサコソと軽い音を立てて、開いてみる。乾いた紙の音がやけに耳に残った。
「明日、空いてる?
いつも通りだよ。
知ってると思うけど、僕はいつだって逢いたいよ。
手紙は大事にね。
ルームメイトより。」
「…はぁ?意味わからん」
意味は分からなかったけど、差出人はピンときた。
「手紙読んだ?」
手紙を書いた張本人は、何故だか嬉しそうにテーブルの向こうで笑った。
久々の夜景とおシャレなレストランは、うん、そう悪くない。
だけど、なんとなく機嫌が悪いふりをした。
「なにあれ」
「ん?誕生日プレゼント」
「なんであの紙がプレゼントなのよ。そりゃぁ、もう付き合って3年ですけどね」
「違うよ、付き合って3年だから、あの手紙なわけ」
隼人は、その質問は予想済みだというようにスラスラと答えた。
なんだよ、一人でにこにこしちゃって。
気に入らないけど、隼人の笑顔につられてつい口元が緩む。
「だったら、もっとこう、いい感じのやつにしてよ。あれじゃ、小学生の作文じゃない」
「失礼なやつだなぁ。あの手紙、さやがほしがってたんだろ?」
「私、あんなの頼んでないもん」
「じゃぁ、ヒント」
隼人がニヤリ、と笑った。
「さやの名前とさやの口癖」
…ますますわけがわからない。
誕生日まで、あと2日に迫っても、まだあの手紙の意味はわからなかった。
もし、分からなかったら、あの手紙をどうすべきか悩んだ。
隼人からもらったものだから、捨てる気はさらさらないけれど、意味の分からない手紙を
飾っておくのも何だか間抜けな気がする。
一応、誕生日プレゼントと言われたから、可愛い写真立てを用意してみたけど、
それも使わずに他の写真行きになったりして。
なんて考えていたら、ナリコが寄って来て、隼人の手紙をのぞきこんだ。
「何ボーっと眺めてんのかと思ったら、ラブレターかぁ」
「確かにこれは隼人からもらったけど、意味不明な手紙だから。そんなあまあまじゃございません」
「なーに、こんな甘い手紙もらっといて、ラブレターじゃないってか?
さすが3年経ってもラブラブカップルは言うことが違うねぇ」
「だーかーらー、この手紙のどこがラブラブなのよっ」
「あら、もしかしてまだ気がついてなかったか!失敬失敬。」
「え?何、気がついてないって、どういうこと?」
「あぁ、いいのいいの。気にしないで。気がついてないなら、こういのって言うべきじゃないと思うし」
「いいから言って!これ、意味がわかんなくて気持ち悪いのよ」
「でも、他人に教えられたんじゃ意味ないと思うよ、これ」
「いいから教えなさい」
「隼人に何か言われなかったの?」
「そう言えば…ヒントとか言ってたような」
「それだよ、それ」
「私の名前と口癖とかなんとか」
「おぉ、上手なヒントの出し方だなぁ、隼人」
「だから、何なのよ」
ナリコは、隼人と同じようにニヤリと笑った。自分だけ分かっちゃって、感じ悪い。
「まずは、ひらがなにしてみることだね。
あとは、あんたがいつも私にグチってることがあるでしょうが。それをよく考えるんだね」
明日、空いてる?
いつも通りだよ。
知ってると思うけど、僕はいつだって逢いたいよ。
手紙は大事にね。
ルームメイトより。
これを平仮名に直せばいいんでしょ。
あした、あいてる?
いつもどおりだよ。
しってるとおもうけど、ぼくはいつだってあいたいよ。
てがみはだいじにね。
るーむめいとより。
相変わらず意味不明な文章なんだけど……あっ!
一瞬にして、その手紙がかなり恥ずかしいものに変わった。
これは、人に見せる手紙じゃなかったな。くそぉ、ナリコに見られた。
額に飾るのは、うちの中にしよう、そうしよう。
顔が急に熱くなるのを感じた。
隼人のやつ、なかなかやるではないか。
「ねぇ、私のこと好き?」
「なんだよ、いつもいつも」
「好きって言ってくれなきゃ不安なの」
「好きだから、付き合ってるんだろ」
「女ってたまにそういうことを確認したい生き物なのよ」
「ふーん。めんどくさいな、女って」
面倒くさい、って言ってたくせに。
ばーか。
誰にも見られないように、そっと隼人からのラブレターに口付けた。
あした、あいてる?
いつもどおりだよ。
しってるとおもうけど、ぼくはいつだってあいたいよ。
てがみはだいじにね。
るーむめいとより。