人から好意を持たれた場合、どういう感情を抱くかというのは、


人によってかなり違うと思う。


友人は「引く」のだそうだが、私の場合は違う。


もちろん、生理的嫌悪感を感じる方は問答無用で


お断りなのだが、それ以外の可もなく不可もなくの


第一のフィルターをクリアした男の子は、


無条件に「好き」になってしまう。


とても不思議だ。



別に好きになりたいわけでも何でもないのに、


好意を持たれているんだ、というそれだけで


おかしなことに


「大好き」 へと変貌するのだ。


ただの「好き」なんかじゃない。


それは、一気に加熱して、大火事になってしまうのである。


自分では、情けないことにどうすることもできない。



相手の方はというと、ほんの少し好意を持ってくれているだけの段階なので


どうってことない、という感じのことが多い。


なので、とてもおかしなことになる。



私の方は、恋焦がれ、あっという間にその人色。


彼は、自分のペースを保ったまま。


私は、携帯を見つめ、メールが来ないと嘆き、


彼は、自分のペースでメールを送らない日々が続いたりする。



それにイライラする自分、そんな自分に頭に来てどうでもいいフリをする自分。


それもなんだか滑稽な気がしている自分。


結局、あっという間に恋のとりこになっていて、ちっとも面白くない。



というわけで、今日もメールの来ない日々にしょぼくれながら


彼の不誠実さを嘆く頭の悪い私なのであった。


こんなに夢中になるなんて、何かがおかしすぎる。


好きの速度は、理屈じゃないのだ。



それがまた悔しくもある。


これじゃ私が大好きみたいじゃないか。くそぉ。

男の中には、

「どんな男がタイプ?」

などと聞いてくる輩がいるけれど、それって女の子攻略の上では、はっきり言って間違ってると思う。


なんで?って思うかもしれないけれど、じゃあ聞こう。


めあての女の子の好みのタイプを聞いたところで、あなたがそれになれるのか。

まぁ、それっぽくはなれても、そのままにはなれないよね。


第一、女が

「イケメンでぇ、背が高くてぇ、デートの下調べとかも毎回ちゃんとしてくれてぇ、

お金も持っててぇ、でも嫌味じゃなくてぇ、

モテモテなんだけどぉ、私だけを愛してくれる人がいいな♡」

とかいう無茶なことを言ってきたら、どうするつもりなのだ。てか、そんなの無理じゃん。


というわけで、タイプなんて聞くだけ無駄なんである。

ジョニー・デップが好みとか言われたら終わってるじゃん。


女が挙げるキーワードなんて「やさしい」とか「背が高い」とか「浮気しない」とか

あやふやか、自分ではどうにもできないことか、無茶な要求ばかりなので、無視無視。


最後には「自分が好きになった人がタイプ」とか言い出すんだから、手に負えない。

君らは、どれだけバラエティーに飛んだタイプが好きなのかね。


というわけで、タイプなんか気にしないで、むしろ

「めあての女の子が嫌いなタイプ」にならないよう、努力しよう。

その方がずっとずっと理想的なのだ。


現実的な女という生き物は、たいてい妥協する賢さを持ってるもの。

だから、「うーん、まぁ、嫌いなタイプではないかな?」をキープしておけば、まずさよならされることはない。


まずは、そこからスタートして、それから少しずつ自分のいいところなんかを

見せていけば、「ふーん、悪くないかも」に変わり、うまくいけばやがて

「何気にいい人かな」に変化し、それ以上悪くならなければ、または何かうまいきっかけさえあれば、

「俺と付き合って」と言われた時も「いいよー(まぁ、試しに付き合ってみるかな)」まで持っていける。


付き合い始めるまでが、まず勝負なのだから、いきなり負け戦をしてはいけない。

男性諸君が覚えるべきなのは、愛しいあの娘に嫌われない努力をすることなのだ。

旅に出ます。


探してください。



という書置きがあったら、探しますか?誰も探しませんよね。


というわけで、探さないと思いますが、探してください。

いや、探さないでください。(どっちだ


何はともあれ、旅に出てきます。(喜

Yシャツを着る圭介の後ろ姿が嫌いだ。


眠るのも、ご飯を食べるのも、向かい合っていたい。

背中を向けるその時は、心もそっぽを向いている証拠だから。


圭介のYシャツのしわをじっと見上げていると、


「ん?」


どうしたの、と不思議そうに私を見つめる圭介。


「ううん」


なんでもないの、と微笑んでみせる。見つめていたかっただけなのよ、と。

いつものやり取りに安心して、圭介はネクタイに取りかかる。


なんでこんなにネクタイを結ぶのが上手なんだろう。


「器用だねぇ」

「なんだよ、急に。いつも見てるだろ」

「そうだけど、上手だなぁって」

「1人暮らしが長かったからね」


そっか、と微笑んでみせる。


アイロンのかかっていないYシャツ。

ネクタイを結ぶのが上手な圭介。


「俺ってほんとにおシャレにうといんだよなぁ」


照れたように笑って、シンプルで嫌味のないおシャレなタイピンを取り出す圭介。


「待って。やってあげる」

「いいよ、1人ででき…んっ」


素早く伸び上がって、先を続けようとした圭介の口を塞ぐ。


「そんなこと言わずに、私にやらせて?」

こんな時は、にっこり笑顔が大事。男ってこういうお願いに弱いのだ。


「わかった、いいよ」

「ありがとう」


すぐに満面の笑みで、お礼を言うのも可愛い女の条件。


タイピンなんて、不器用な私でもすぐに留められてしまう。

だけど、私は。


「…祥子?」

「ごめんね、もう少しだけこのまま」


圭介が横目で時計を見たのが、分かる。

圭介の胸に顔をうずめたままだって、圭介が何をしてどう考えているか、分かってしまう。


この人は、まっすぐすぎるのだ。


きっと今は、頭の中で計算をしているだろう。

電車の発車時刻まで、あと十分。次の電車ではゲームオーバー。


今の彼にとっては、私を抱きしめるのも、ぬいぐるみを抱きしめているのも同じようなことに違いない。


あと九分。


「祥子」

「お願い」


圭介の体温を感じながら、私は決心を固めた。

そう、圭介に委ねよう。


あと八分。


「しょ」

「圭介さん」


「な、なに」


怪訝そうな顔で見つめる圭介。


「もう少しだけ一緒にいてもいいですか?」


泣いちゃダメ。

Yシャツのしわなんて、見ちゃダメ。タイピンなんて、どうってことないじゃない。


ふいに緩んだ腕の力が涙を助長した。








息が、止まりそうになった。







「俺がダメって言うと思ったの?」


骨が折れそうなくらい抱きしめる圭介の力強さに、心臓がキュッと音を立てた気がした。


「急ごう」

「え?」

「電車!間に合わないよ!」


突然、私の手を取って走り出す圭介。


「え?なんで?私も走るの?」

「当たり前だろ」


圭介が突然立ち止まったせいで、背中に思い切りぶつかってしまった。

圭介は、鼻を押さえる私の顔をのぞきこんで、


「言ったでしょ、もう少し一緒にいるって」


そう言い、ちゅっと素早くキスをすると、悪戯をする少年のようにニヤと笑った。


「バカ」


そういう意味じゃないわよ、と言ってやりたかったけれど、

圭介の笑顔があんまり可愛かったから、黙って口だけ尖らせてみせた。


「ほら、止まってないで早く!走って!」

「うわ、待てよ!」


もう少しだけ、一緒にいようかな。

ネクタイをゆがませて全力で走る圭介の楽しそうな顔を見つめながら、私は走り続けた。

自分のデスクに戻ると、誰が置いたのか2つに折りたたまれた真っ白な紙が置かれていた。


「…なにこれ」


カサコソと軽い音を立てて、開いてみる。乾いた紙の音がやけに耳に残った。


「明日、空いてる?

いつも通りだよ。

知ってると思うけど、僕はいつだって逢いたいよ。

手紙は大事にね。

ルームメイトより。」


「…はぁ?意味わからん」


意味は分からなかったけど、差出人はピンときた。


「手紙読んだ?」


手紙を書いた張本人は、何故だか嬉しそうにテーブルの向こうで笑った。

久々の夜景とおシャレなレストランは、うん、そう悪くない。

だけど、なんとなく機嫌が悪いふりをした。


「なにあれ」

「ん?誕生日プレゼント」

「なんであの紙がプレゼントなのよ。そりゃぁ、もう付き合って3年ですけどね」

「違うよ、付き合って3年だから、あの手紙なわけ」


隼人は、その質問は予想済みだというようにスラスラと答えた。

なんだよ、一人でにこにこしちゃって。

気に入らないけど、隼人の笑顔につられてつい口元が緩む。


「だったら、もっとこう、いい感じのやつにしてよ。あれじゃ、小学生の作文じゃない」

「失礼なやつだなぁ。あの手紙、さやがほしがってたんだろ?」

「私、あんなの頼んでないもん」


「じゃぁ、ヒント」


隼人がニヤリ、と笑った。


「さやの名前とさやの口癖」


…ますますわけがわからない。


誕生日まで、あと2日に迫っても、まだあの手紙の意味はわからなかった。

もし、分からなかったら、あの手紙をどうすべきか悩んだ。

隼人からもらったものだから、捨てる気はさらさらないけれど、意味の分からない手紙を

飾っておくのも何だか間抜けな気がする。


一応、誕生日プレゼントと言われたから、可愛い写真立てを用意してみたけど、

それも使わずに他の写真行きになったりして。


なんて考えていたら、ナリコが寄って来て、隼人の手紙をのぞきこんだ。


「何ボーっと眺めてんのかと思ったら、ラブレターかぁ」

「確かにこれは隼人からもらったけど、意味不明な手紙だから。そんなあまあまじゃございません」

「なーに、こんな甘い手紙もらっといて、ラブレターじゃないってか?

さすが3年経ってもラブラブカップルは言うことが違うねぇ」

「だーかーらー、この手紙のどこがラブラブなのよっ」


「あら、もしかしてまだ気がついてなかったか!失敬失敬。」

「え?何、気がついてないって、どういうこと?」

「あぁ、いいのいいの。気にしないで。気がついてないなら、こういのって言うべきじゃないと思うし」

「いいから言って!これ、意味がわかんなくて気持ち悪いのよ」

「でも、他人に教えられたんじゃ意味ないと思うよ、これ」

「いいから教えなさい」


「隼人に何か言われなかったの?」

「そう言えば…ヒントとか言ってたような」

「それだよ、それ」

「私の名前と口癖とかなんとか」

「おぉ、上手なヒントの出し方だなぁ、隼人」

「だから、何なのよ」


ナリコは、隼人と同じようにニヤリと笑った。自分だけ分かっちゃって、感じ悪い。


「まずは、ひらがなにしてみることだね。

あとは、あんたがいつも私にグチってることがあるでしょうが。それをよく考えるんだね」


明日、空いてる?

いつも通りだよ。

知ってると思うけど、僕はいつだって逢いたいよ。

手紙は大事にね。

ルームメイトより。


これを平仮名に直せばいいんでしょ。


あした、あいてる?

いつもどおりだよ。

しってるとおもうけど、ぼくはいつだってあいたいよ。

てがみはだいじにね。

るーむめいとより。


相変わらず意味不明な文章なんだけど……あっ!


一瞬にして、その手紙がかなり恥ずかしいものに変わった。


これは、人に見せる手紙じゃなかったな。くそぉ、ナリコに見られた。

額に飾るのは、うちの中にしよう、そうしよう。

顔が急に熱くなるのを感じた。


隼人のやつ、なかなかやるではないか。


「ねぇ、私のこと好き?」

「なんだよ、いつもいつも」

「好きって言ってくれなきゃ不安なの」

「好きだから、付き合ってるんだろ」

「女ってたまにそういうことを確認したい生き物なのよ」

「ふーん。めんどくさいな、女って」


面倒くさい、って言ってたくせに。


ばーか。


誰にも見られないように、そっと隼人からのラブレターに口付けた。


した、あいてる?

つもどおりだよ。

ってるとおもうけど、ぼくはいつだってあいたいよ。

がみはだいじにね。

ーむめいとより。

中学時代は、図書委員長を2年務めましたリンです。

高校入学する前は、「文学部に入るぞ!」って思って、その高校を選んだのですが


が。


いざ高校に入ってみたら、文学部は入学した年に消滅したよ。いざ鎌倉。


というわけで、高校で物書きデヴューもできず。

小説家になろうという夢も破れ、いきおい余って東京の出版社に乗りこんで、編集者に怒られて、

体育館のガラスを金属バットで割って、盗んだバイクで走り出したりなんてこともなく。

(そんなことしたら、人間失格ですよ、お嬢さん)


ごくごく平凡なサラリーウーマンをいたしているわけです。

わが暮らし、働けど働けど小説家になれるわけもなく。

じっと手を見て、生命線の短さに驚いたり、結婚線の長さに驚いたりする日々なのです。


というわけで、ろくでもないリンの手慰みを置いておきます。

何もすることがなかったら、暇つぶしに読むといいと思う。

何も得られるものはないけどね。


携帯メールの返事待ちとか、寝れないけど面白い本は全部読んじゃって手持ちぶさたな夜とかにね。


要は、いざって時に読めばいいのよ。いざ鎌倉。

(しつこい