次の日の朝、目が覚めると昨夜は感じられた背中のぬくもりが消えていることに気がついた
早起きだなぁ
階段を降りてリビングへ向かう
まだ眠たくて、目を擦りながらゆっくりと降りていく
志田「京子~?」
リビングにつくと、キッチンで朝食を作っている京子の背中が目に入った
私がその姿をぼーっと見ていたら、振り向いた京子と目が合う
齊藤「わっ! 居るんなら声くらいかけてよ」
志田「リビング入る前にかけたよ」
齊藤「え、全然気づかなかった」
二人で目を細めて笑い合う
こういう時間が好きだ
なんの気兼ねもなく、ダラ~っと会話ができる時間
齊藤「朝ごはん、お米にしたけどよかった?」
京子は私と自分の朝食をテーブルの上に並べる
志田「うん、大丈夫」
いただきます、と同時に手を合わせて食べ始める
京子の事なら朝からカップ麺、なんてことも有り得るって思ってたけど
親が忙しい分、自分で毎日料理してるんだな、と思わせるような出来だ
志田「美味しすぎ…!京子、私の奥さんになってよー」
齊藤「ん〜、そうしようかな」
志田「いやそこは冗談なんだから、無理!とか言ってよ〜!らしくないな〜」
齊藤「そう、だね」
いつもだったらこんな冗談、笑い飛ばしてくれるのに
変なやつ
<渡辺side>
スタスタスタ…
コンコン
ガララッ
渡辺「失礼します」
ドアを開けると、暖房で暖まったのであろう空気が飛び出てきた
「お、渡辺か。おはよう、いつも早いな~」
入って目の前にあるデスクの教師に声をかけられた
渡辺「おはようございます…」
なんとなく目は合わせないようお辞儀をしながら、体育館の鍵を取る
渡辺「失礼しました」
ガララッ
体育館の鍵を握り、小走りで向かう
すると京子ちゃんが来ているのが見えた
近づいていくと、京子ちゃんが私に気づいてはっとした顔をする
私が手を振ると、京子ちゃんも遅れて手を振る
齋藤「梨加ちゃん…おはよ」
京子ちゃんはニコッと笑ったが、何だか元気がないように見える
渡辺「おはよ~、今日はいつもより遅かったね」
齋藤「今日は愛佳が…」
愛佳ちゃんが?
門の方から走ってくる音が聞こえる
志田「京子ー! 置いてくとか酷い~」
あ、愛佳ちゃん
私が心の中で呟くのと同じタイミングで、京子ちゃんの口からも愛佳ちゃんの名前が出る
志田「はぁ~、疲れた」
走ってきた愛佳ちゃんは、脱力していくように京子ちゃんの肩に顎を乗せた
渡辺「愛佳ちゃん、おはよ〜」
私はにこっと笑顔を作り、手をひらひらとさせる
志田「あ、うん、おはよ…!」
さっきまでの気の抜けた表情はどこかへ行き、なんだかぎこちない笑顔を作る愛佳ちゃん
やっぱり可愛いな〜
齊藤「…そろそろ準備始めよ!」
渡辺「そうだね」
私は目線を南京錠の鍵穴へ移し、鍵を差し込んで回す
三人で体育館へと入っていった
<齊藤side>
「「「「ありがとうございました!!」」」」
部員全員で頭を下げると部活が終わった合図
さぁ、片付けだ
ふと、あたりを見渡すと愛佳が梨加ちゃんに喋りかけていた
私は近くの得点板を掴み、早足で体育倉庫に向かう
片付けをしていると、聞きたくないはずの二人の会話は自然と耳に入ってくる
志田「あの…さ、今週の土曜、遊びにでも行かない…?」
頭をかきながらド緊張した調子で話す愛佳
今までに聞いたことのない声に、なんともいえない感情をおぼえる
渡辺「うん、私も遊びたい…!」
志田「本当…?! あの、また連絡するね!」
OKの返事をもらって分かりやすく喜ぶ
そんな愛佳にイラつきさえ感じる
「齊藤さーん、体育館の鍵閉めお願いできるー?」
顧問の先生が少し遠くから私に声をかける
「…わかりましたー!」
―――――――――
梨加ちゃんもきっと愛佳のことが好きで、相思相愛なのだろう
二人の距離が縮まっていくのにそう時間は要らなかった
まだ正式に付き合ってはいないらしいが、傍から見たらカップルも同然にイチャイチャしている
お互いの気持ちも分かっていると思う
そして二人の仲が深まっていく程に、私の愛佳への気持ちも大きくなっていった
<志田side>
土曜日の今日
遊園地、水族館、ショッピングモール…
行く場所を決められないまま、近所の公園で待ち合わせると、梨加がこのまま公園で遊ぼうと言い出した
公園の遊具で遊ぶのなんて小学生ぶりだったが、案外楽しむことができた
それに、梨加のはつらつとした笑顔も存分に見ることが出来たので満足だ
少し疲れた私たちはブランコに座り、休憩がてら談笑をする
たわいもない会話を時間の許すまで続ける
そこで、私は一歩踏みだしてみた
志田「…ねぇ、梨加って好きな人いるの?」
渡辺「うん…いるよ、、」
志田「それって私かな〜?、、なんて」
自分から好きって言えないうえに、曖昧な言い方
ほんとかっこ悪い
そうは思っても言えないものは言えない
緊張しながら梨加の顔を見つめる
渡辺「うん、愛佳ちゃんのことが好き、付き合いたい」
志田「私もっ…! 付き合いたい、です…」
渡辺「…フフッ、私たち両想いだね」
ギュッ
梨加が私の指を指に絡ませて握る
そのまま、ゆっくりとまぶたを落とす
これは…そういうことなんだよね…?
戸惑いながらも意を決して顔を近づけていく
…チュッ
<齊藤side>
起きて携帯を見ると1件のメールが届いていた
あ〜久々に昼寝しちゃったな〜
梨加ちゃんと付き合うことになった
『親友』の京子おかげ
愛佳から送られてきたメールにはそのような内容が書かれていた
あぁ、あの二人昨日デートしてたんだっけ
二人の惚気話つきの長文が、愛佳の嬉々とした声で脳内再生される
最後の一行を見るまではまだ冷静でいられた
え、キス、したんだ…
心の奥から沸き上がってくる感情を抑えることはできなかった
「愛佳、今日会える?」
<志田side>
待ち合わせ場所に時間通り着くと、京子は既に私を待っていた
辺りは夕焼け色に染まっている
志田「京子、急にどうしたの?」
齊藤「…ねぇ、愛佳」
いつもの京子とは雰囲気が違う気がした
志田「…なに?」
齊藤「私のこと、好き?」
志田「もちろん、京子は私の大事な親友だから」
齊藤「そう…親友、ね」
苦笑する京子の目は光を失っているように思えた
志田「ねぇ京子、何かあったの? 京子、、なんか変だよ…?」
京子は私の質問には答えず、近くにあるベンチに座った
私もその隣に座る
齊藤「……私ね、好きな人がいるんだ、小学生の頃からずーっと好きな子が」
志田「そうだったんだ」
そんな話は初めて聞いた
長い間京子とずっと一緒に居たのに、少し、寂しいな
齊藤「その子は誰にでも優しくて、みんなに好かれてて、そんなところが私も好きでね、でも最近彼女ができて、その二人は本当にお似合いで、私なんか入る隙間もないくらいに、、でも、それでも諦められなくて、どんどん好きになっていっちゃって、そんな自分が嫌で、今、どうしようもないくらいに苦しいの」
京子の呼吸が乱れている
志田「そうだったんだね、苦しかったね…」
京子がそんな思いをしていたなんて…
知らなかったし、気づけなかった自分を恨む
齊藤「……気づけよ、ばか、、」
志田「…え?」
齊藤「これ全部、愛佳のことだから!」
志田「……え??」
齊藤「だから、私が好きなのは愛佳なんだって!」
え、、え、ちょっと待って
京子の好きな人って私だったの?
小学生の頃からずっと?
私は急速に入ってきた情報を整理出来ずにいた
齊藤「…急でごめんね、でもどうしても言いたくて」
志田「いや、うん、大丈夫、大丈夫だよ」
落ち着け、私
深呼吸で、一度心を落ち着かせる
志田「すー、、、はぁ…よし、もう大丈夫」
齊藤「愛佳…」
京子が私の目を見つめる
私もその真剣な眼差しに応えるように京子の目を見つめ返す
齊藤「好きです、付き合ってください」
〈齊藤side〉
少しの沈黙の後、愛佳が口を開いた
志田「京子、ごめん…私は梨加ちゃんが好きだから、京子とは付き合えない」
齊藤「そう、だよね…」
当たり前の結果だ、自分でもそう思う
私が涙を堪えていると、愛佳は私をそっと優しく包み込んでくれた
志田「ごめん、京子」
齊藤「大丈夫だよ、梨加ちゃんと付き合ってるんだし、当たり前、なんなら、ここで私と付き合うような酷い人だったら絶対好きにならないし」
頑張って、いつも通りになるように明るく振舞う
愛佳はそんな私を少しだけ強く抱きしめた
志田「ふふっ、そうだね、でもそれもだけどさ、京子の気持ちに気づけなかった、辛い思いをしていることに気づけなかった、、私、京子のことなら何でも分かってるつもりだったけど、全然だったね、本当にごめん」
いつの間にか愛佳は泣いていた
彼女の澄んだ綺麗な瞳から、温もりのある雫が滴り落ちていた
私はなにか夢でも見ているような気になった
あれ、私も泣いてる、なんでだろ
どのくらいの時間かは分からないが、私達は長いこと抱きしめ合って泣いていた
気づいたら空は真っ暗だった
志田「ねえ、京子」
齊藤「なに?」
志田「んーん、呼んだだけ〜」
齊藤「なにそれ〜」
二人で目を細めて笑い合う
愛佳とのそんな時間が好きだ
私の初恋は失恋に終わったけど、愛佳が私のことをどれだけ大切にしてくれていたのかが分かった
私もこれからは『親友』としての愛佳を大切にして、愛佳のことを支えていきたい
齊藤「ねえ、愛佳」
志田「んー? あ、呼んだだけとかやめてよー?」
齊藤「そうじゃなくて、これからもよろしく、、親友」
私は愛佳に拳を突き出す
愛佳はニヒッと笑って、そこに自分のをぶつける
志田「あったりまえじゃん、よろしく、親友」
この時の愛佳の輝いた笑顔を、私は絶対に忘れたくないと思った
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長い間お待ちして頂いて、申し訳ありませんでした!!
不定期更新だとはいえ、本当に申し訳ないです。
後編の文章をコピーしてペーストしようとしていたら、間違えて削除してしまい、書き直している間にそのまま受験シーズンに入ってしまい、書く時間が無くなってしまった
というのが言い訳です…
本当に私事でしかなく、なんの言い訳にもならないのですが、、
遅くなってしまい、本当にすみませんでした。
特にリクエストをくださった、 みや さんには申し訳ない気持ちでいっぱいです。
それでも、そんな私が書く小説を楽しんで頂けたら幸いです。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。