精神分析における心理療法では、

患者の無意識に潜在していた葛藤を治療場面のセラピストとクライアントとの関係に再現することで治療が進みます。

本来、精神的に健康な人の場合には、

潜在的葛藤が適度に抑圧されたり否認されたりと

様々な方法で防衛されているんだけれども、

それらがうまく行かなくなると、

精神病理として発症してしまうという考え方が根本にあり、

それを扱わないで治療を進めることは考えられないという考え方があります。



しかし、

それをセラピストとの間でクライアントと一緒に考えていくためには、

「今、ここで」の治療場面に再現されなければならないということになります。そのためには、これら潜在的葛藤が治療場面で再現するためのセッティングや仕掛けが必要になります。




その一つが「治療者の隠れ身」という考え方です。

 潜在的葛藤をセラピストとクライアント関係に現れるようにするためには、クライアントが持っているファンタジー(無意識的幻想←無意識的思考

っていうのが、一般的につかみやすいかもしれませんが、

思考は意識的なものを指すともいえ、

無意識といっていいのかどうか難しいので

精神分析ではあまりこのようには言いませんが、

要は無意識で考えていることですね)をセラピストが写してあげるスクリーンでなければなりません。




 性別なんかは隠せないから仕方がないけど、

たとえば、結婚しているかどうか・・・。



 実際セラピストは結婚しているかどうかもわからないのに、

「先生なんて子どもがいていいですよね」といった気持ちを

クライアントが持つとしたら、それはどうしてなのだろう?

と一緒に考えることで、治療を進めます。



「いくつなのですか?」と聞かれれば、


Th:「どうして今私の年齢が気になったのですか?」or「私の年齢が若く見えることで私が頼りないと思ったのかもしれませんね」

と言った様にクライアントの胸のうちを明らかにしていきます。



基本的にはクライアントの質問には答えません。

狭義の心理療法は、

具体的な解決手段をセラピストが出してあげるものではないですから。



「先生、就職と進学どっちにしよう?先生はどう思う?」なんて質問にもうっかり答えられません。

「あなたは私がどう思っていると思いますか?」

というのが常套手段であります。



 もちろん、心理療法もこれだけには限らず、

本人にそのような力がないと認められる場合には、


最初に診断面接というのを34回行って、その間に治療方針を決めます。


支持的なもの(Supportという要素の強いもの)や指示的なもの(ある程度こちらで道筋を見せる)などで、とにかく自我の強化といったものよりも、現実適応をあげさせるためのものもあります。

でも、これらは本来、精神分析で言う心理療法ではなかったのです。

どちらかというとこういうのを「カウンセリング」といいます。






 少し本題から離れましたが、

とにかくクライアントがいろんな幻想(考え)を自由に写しこむには、

スクリーンに色がついていてはだめなのです。

そうすると写しこめるものが限られてしまうので、

それを解釈するチャンスを失うことになります。



結婚してるってわかっちゃったら、

結婚してないことを前提とする想像とかは制限されてしまって、

それをめぐる考えとかが出てこなくなったりしてしまうわけだから。



無意識のレベルでもそうだし、

意識的にも「先生は結婚してないから、主婦の悩みはわからないわ」とかね。





自分とそのクライアントの関係は

個別の非現実の世界で展開されているものなのに、

いつものセラピストが現実の姿を見せたりしてはいけないのです。



「隠れ身」というのは、

自分のプライベートな部分はクライアントから隠しておかなければならない、ということだと思います。




 ああ、でもどうなんだろう、占いの場合には?

タロットには「色」がついているわけだよね。

タロットやその他の声を代弁する占い師としては真っ白でないと、

タロットの色が反映されない・・・と考えられるかもしれないね。



占い師っていうのは、プロのキャラクターっていうものの裏に

プライベートを隠しておけばいいのかもしれないと思いましたが。