「隣人さん」です。

前回の「中華包丁のおばあちゃん」は
サスペンス映画のようなホラー体験でしたが、
今回は、田舎町ならではの超のんびり&シュールなお話です。



* * *



私の住む町には、ある「名物」とも言えるおばあちゃんがいました。



腰がぐっと曲がっていて、足腰もかなり弱そうなおばあちゃん。
愛車は、前後に大きなカゴがついた大人用の三輪車です。



昼間、買い物に出かける姿をよく見かけていたのですが、
そのスピードがとにかく凄まじい。



……亀の歩みレベルで遅い。
おそらく時速3〜4km。普通に大人が歩く方が断然早いです。



特にハラハラするのが、道路を横断するとき。
あまりの遅さに、遠くから走ってきた車が
 

「……え? 渡り切れる?」

 

と手前でブレーキを踏んで止まってしまうほど。

見かねて「おばあちゃん、押してあげるね!」と
後ろから声をかけて三輪車を押そうとすると……



ピタッ。



なぜかペダルを漕ぐ足を完全に止めてしまうおばあちゃん。




「いやいやいや!車止まって待ってくれてるから!
おばあちゃんも漕いで!お願いだから漕ぎ続けてーーー!!」



道路の真ん中で車を待たせながら、
私ひとりで必死に三輪車を押す羽目になるという、
冷や汗もののトラップ付きでした。



* * *



そんな「マイペースすぎる三輪車のおばあちゃん」。
ある日、地元の友達とお茶をしていた時に、
ふとおばあちゃんの話に。

「あの三輪車のおばあちゃん、最近よく見かけるんだよね〜」

すると、友達が真顔でこう言ったのです。



「あのおばあちゃん、いま朝の通勤時間帯で伝説になってるよ」



……え? 伝説?
あんなにのんびりしたおばあちゃんが、一体なぜ?



田舎町とはいえ、朝の通勤時間帯はそれなりに車が走ります。
それでも「まあ、予定通りの時間には会社に着くはず」と
みんな普通に車を走らせているわけです。



ところが、ある朝。



「……ん? 今日はやたら混んでるな?」
「事故か? それともどこかで道路工事でもやってるのか……?」



車列がピタリと止まり、まったく前に進まない。
数百メートルにわたって続く、田舎道にはあり得ない大渋滞。



ようやく見えてきた「先頭」。
なんと、車列の先頭で道路全体を支配していたのは……
 

 

 

あの、三輪車のおばあちゃん。



道路にはみ出して堂々と車道を走行。
しかも運の悪いことに、そこは緩やかな坂道。
ただでさえ遅いのに、上り坂でのスピードは……
推定、時速1km。



歩くより圧倒的に遅い。
対向車線も朝の通勤車がびっしり走っていて、追い越すにも追い越せない。



朝の殺気立つ通勤ロードに君臨した、平和すぎる絶対王者。



……ですが、このお話には続きがあります。



のちに私は、この「道路の支配者」であるおばあちゃんと、
ひょんなことから玄関先で言葉を交わす仲になるのです。



▶︎ 後編へ続く!