フロイトは死の本能と言ったが、

すべての生きものに、死の本能はない、と、私は思う。

 

生きものは、生き続けるために生きる。

生存本能、自己保存の本能(エネルギー)があるだけ。

しかし、いのちは今、この瞬間にあるだけなのだが。

いのちには未来も過去もないと、私は思う。

 

全ての個体は、その個体固有の特性(個性)がある。

その社会や環境に適した特性ならいいが、

社会の中で生き続けるためには障害となる特性もある。

精神的病や、色々な障害など。

 

たとえ病や障害があっても、

多くの人は、社会の中で生き続けようとする。

何とか頑張って、受け入れてもらおうと努力する。

 

しかし、中には、どんなに努力しても、報われない人がいる。

そして、最後の試みとして自殺する。

 

先進国では、だいたい、自殺者の率は決まっているらしい。

10万人中で約20人だという。

日本の人口から云うと、年に約2万人となる。

例えば、こころの病のために社会適応が難しい人たち。

この数は、19世紀から大きく変わらないという。

 

それ以外にも、過労やストレスで抑うつや不眠となり、

希死念慮や活動意欲低下や注意散漫。

組織への忠誠心や帰属意識が強い人では、

仕事のミスや、仲間に迷惑をかける自分が許せない。

自分を責めて、行き場がなくなる。

最後に自死に至る人たち。

 

自殺の実例を詳しく調べた本がある。

「人はなぜ死に急ぐか」高柳功著2020年6月。

 

この本によれば、

1999年から2012年の14年間は自殺死亡率が25を超えている。

異常な時期だという。

就職氷河期と重なる。

この時期だけでも、毎年7500名以上の自殺者増加があり、

普段のときよりも、余分に死んだ人が14年間で10万5千人以上になるという。

統計に現れていない自殺者もいるから、

本当はもっと多いはず。

 

現在、自殺率は普通になっているという。

経済状況が少し改善したお陰らしい。

コロナによる不況が来れば、また増えるかもしれないが。

 

自殺は、周囲がどんなに注意しても防げない場合がある。

ほんの10分、目を離したすきに、ということもあるようだ。

 

人はいずれ死ぬ。

遅かれ早かれ。

しかし、自殺者が死を急ぐには理由がある。

少しでも早く楽になりたいのだろう。

 

私は、死によって、やっと、

自分・私・自我という牢獄から解放されるという、

死がほっとできる理屈をもっている。

 

だから、自殺者が早く楽になりたいと思う気持ちの

いくらかは、同感できるのだが。

 

どんな社会でも、自殺率が一定というのは、

おもしろい統計だ。

人であることの限界を示している証拠かもしれない。