我が家の天使(娘)は、発病して7年になる。

脳内出血の後遺症で、身体障害1級。

日常生活で自立できる行為は、ほぼない。

 

最初の病院で、

自分の口で食べられることは、期待できないと言われた。

4ケ月後、次ぎの病院で、気管切開も閉じ、鼻腔栄養から

口で食べられるようになった。

自分の口で食べられるというのは、

人の生きがいの中で最大な要素。

 

しかし、スプーンを使って、他人に食べらせてもらう、

というのは、食べる楽しみを半分以下する。

また、介助する親も疲れる。3食で合計1時間以上の労働となる。

 

病院で、リハビリ箸使用を練習したが、

どうしてもできない。

退院して自宅に帰り、

リハビリ箸の持ちかたを変えてみた。

 

普通の持ち方ではなく、

剣を握るような持ち方。

そうすると箸が使えるようになった。

驚き。

 

これで自分で食べれるようになった。

この自信は大きい。

もちろん、こぼれることも多いが。

しかし、だんだんと上達し、

その後、普通の持ち方もできるようになった。

 

後遺症の一つは失語。

最初の1年は、全失語(読む、聞く、話す、書く、全部ダメ)。

笑顔もなく、ひとことの単語も出ない。

 

やっと親の顔が識別できるようになったのが、

発病して半年後だった。

 

天使の場合、

左脳がほぼ死んでいる。

言語脳は全滅。

 

天使は左利きだった。

右脳にも言語中枢があったのか、

聞くことはいくらかできるようになった。

今では、テレビドラマを楽しんでいる。

ただし、内容の理解度は不明。

 

天使相手の会話は、

毎日、同じ冗談で喜んでくれる。

テレビドラマも同じものを飽きもせず繰り返し見て、楽しんでいる。

普通の人の楽しみ方とはとても違う。

 

しかし、親にとっては、楽な面もある。

同じ話題を毎日しても、喜んでくれるのは、とても楽。

天使の日常、毎日同じような日課で満足しているようだ。

 

天使は、病気前、理屈っぽい性格。

独善的で独りよがり。

法律事務所で勤務。

親の私と似ている。

左脳に偏った人間。

 

ところが、

左脳が死んで、右脳人間となり、

とても穏やかな、明るい性格になった。

人が変わってしまった。

 

天使の一番の趣味は、音楽。

音楽は右脳なので、幸運だった。

ただし、演奏や楽譜を読むのは左脳なのか、ダメになった。

 

右脳は感情。

生きる喜びは右脳から。

人生で大事なのは、理屈よりも感情。

 

天使は、いつも、にこにこ、楽天的。

待たされても、不平はない。

現状で満足。

「なに不自由ない幸せ」といつも口にする。

 

せめてトイレくらいは自力でできれば、

というのが親の願い。

 

洗顔や着替えなどはできなくても生きていける。

しかし、トイレに行けないと、寝たきり扱いにされる。

 

そこで、リハビリが重要。

発病1年後に自宅に帰るとき、

「リハビリの効果は期待できない」という医師の宣告。

 

まさに、リハビリは、現状維持だけになっている。

進歩はほぼない。

 

右側麻痺で、右は手足共に、ダメ。

だが、感覚はいくらか戻っている。

右足は少しなら動かせる。

 

もし、天使の前頭葉が健常なら、

意思を働かせて、右側のリハビリが可能なのだが、

天使の場合、意思の働きが不完全。

例えば、感覚がない右足に体重をかけることができない。

 

普通の人間でも、

目を閉じて「歩け」と言われて、

平気で歩ける人はいない。

先が見えなくても、乗り出せるのは、脳の高度な働きのお陰。

天使はこれができないので、

リハビリができない。

 

なんとかしたいのだが、

いいアイデアが浮かんでこない。

私の限界か。