ひきこもりはひとり一人違います。
下記の事例は、感動的です。
リブログします。
・・・ここからコピーです。
関東自立就労支援センターの相談室に一組のご夫婦が見られました。話を聞くと、息子が部屋に閉じこもったまま出てこないといいます。
「小学校、中学校を通じて、本当にやさしくていつも笑顔で誰からも好かれるとてもいい子だったが、中学1年になると突然人間が変ってしまった。豹変してしまった」と夫婦は口をそろえます。
何が原因なのか、少年は 中1の夏から2年間、自宅でひきこもり状態にあるといいます。
少年の父親は、山の手で病院を経営しています。家族構成は、両親、商社勤務の姉、私立の有名女子校に通う 2歳違いの次女との 5人家族です。
父親は名門の大学の出身で、母親は優しい笑顔を絶やさず誰からも愛されそうな人柄に見えます。
はた目にもうらやむようなこの家族に今、何が起こっているのでしょうか。「とにかくお子さんにお会いしましょう」私は夜間訪問を決めました。
翌日の夜7時、夕食を終えてから訪ねる約束をしました。夜間訪問にあたっては、あらかじめ本人がどんな食べ物が好きかを家族に聞いておくのが私のやり方でした。
本人が好きだというポテトチップスとジュースを手に少年の家をたずねました。
「本当に、よく来ていただきました」居間に通してもらい、母親とあいさつを交わしました。「本人はどこですか?」階段を上がった左側の部屋にいるといいます。
一呼吸おいて、父親の知り合いという設定で少年の部屋のドアををコンコンとノックしました。返事はありませんでした。
「開けるよ」何度か声を出しても応答がないので、できるだけ親しみを込めた声を出しながら勝手に引き戸を開けました。
六畳と思われる部屋の窓側にベッドが置かれ、その手前に最新のパソコンとプリンターがデスクに置かれていました。少年はキーボードを操作している最中でした。
無機質というネーミングがぴったりの無表情な顔をしていました。
部屋にはテレビもなく、ひたすらパソコンと向き合っていました。パソコンを背にして、戸棚と本棚が置かれてありましたが、驚いたことにベッドやそれらの家具のすき間というすき間はティッシュと本とノート類が散乱して足の踏み場もない状態でした。
「この人は一体誰なんだろう?」突然、引き戸を開けて現れた私を少年は恐怖心と、「何がどうなっているんだろう?」というような混乱した目で見ました。
「こんばんは。最近お父さんと知り合いになったんで、寄らしてもらいました。君がお部屋にいるというんでどうしても話をしたくて来たんだけれど、入ってもいいかな?」少年は怪訝そうな顔をしました。
「ちょっと入るよ」承諾もしないが拒否もしなかったのでそのまま入りました。「突然でごめんね」戸を閉めます。散乱するティッシュのあいだを縫って、何とか足の置き場を探しながらようやくベッドの上に座りました。
「何なの、それ。すごいね。それにしてもいいパソコンだね」相手に考える隙を与えずに、突然パソコンの質問に入ります。相手の警戒心よりも早く、こちらのペースにもっていきます。
それがひきこもりの少年と接触する経験から学んだ私のやり方です。少年はパソコンで新車の情報をリサーチしていました。「なにこれ、新しく出る車なの?」
私がどういう職業で、何者なのか。そんなことはいっさい言わないでただ話題をパソコンの話にもっていきました。少年は思わず口を開きました。
「いや、これは新しい車ではなくてモデルチェンジされた車です。一部改良された車なんです」語尾は聞こえませんでしたが、口ごもるように少年は言葉を発しました。
何しろひきこもりで、家の中には誰一人彼の話し相手はいません。自分が今、興味を持っていることについて聞かれれば、心の奥で誰かに自分のことをわかってほしいと願っている少年なら、つい、聞かれるままに自分の方から話してしまいます。
そんなわけで、数分前までは顔も見たこともない男を気がつけば部屋への侵入を許し、自分が最も関心のあるテーマについて説明までしているのです。
「あっ、すごいな。俺、何も知らなかったのにそういうこともわかるんだ」私は大げさに言葉をつづけました。一瞬、少年の顔の緊張が緩みました。それを見逃さずにたたみこみました。
「もっと違うところもちょっと見せてよ!」話の流れで、やむなく少年はパソコンで別の部分をリサーチして私に見せました。
ぶっきらぼうにただ見せているだけですが、明らかに少年は嬉しそうでした。私は少年の心をくすぐる反応を示します。
「そうか、これはそうなってるんだ。知らなかったな。じゃあ、ほかの車もわかるの?」少年は無言のうちに素早くキーボードを操作しました。そして私に提示して見せました。
「俺の車はね、こういう名前なんだ」私は自分の車の名前と車種を告げました。「それはすごくいい車です」ロボットが発するような声で少年は言いました。
「知ってるの?」「それは、日本でいいと言われている車の一つです」
「へエー、そうなんだ。どこがいいんだろうね」「エンジンはこういうものでできていて、こうなって、つまり世界で一番いいと言われているベンツと同じ仕様になっています。ただ、ベンツと違うのは対安全性で、それはベンツと同じ仕様にはしているけれど、わずかにベンツよりも落ちるところです・・・・・・・」
なんて私の車について、よくもこんなに知ってるものだなあと感心するほど多くの言葉で説明してくれました。
「ああ、そうなんだ。じゃあいい車に乗っててよかったよ」
「いい車です・・・・・・」
「そうか、じゃあ、車のことならあなたに全部聞けばいいかな・・・・・」と言いながらあちこちに目をやると、棚にゲームのソフトが並んでいます。
その中の車のゲームに目がいきました。「それもやるの?」「うん」彼はすぐに車のゲームに換えてくれました。
「おもしろそうじゃない。ちょっとやってみせてよ」彼は少しエキサイトしているように見えました。
「わあ、面白そうじゃない。俺にもちょっとやらせてよ」
彼は席を譲ってくれて、私にゲームをやらせてくれました。私が失敗して車をひっくり返すのを見て、彼をちらりと笑顔を見せました。
「また、今度来たいんだけどいい?」「いいよ」
そして、「たまたまその辺で買ってきたんだけど」と言って、ジュースとポテトチップスを置いて帰りました。30分程度の少年との初めての出会いでした。
不登校、ひきこもりの少年との接触は、「短期間」が鉄則です。「あの人は誰?何しに来たんだろう?」私がいなくなったドアの向うで、きょとんとした彼の顔を想像しました。
内心、安堵しました。彼にしてみれば訳がわかりません。最初の時は、あえてそういうことを向こうに考えさせるようなやり方を私はすることがあります。
二十数年間にわたって、不登校やひきこもりの子供たちと接してきた私が、経験則として無意識のうちに学んだテクニックであり、戦略でもあります。
初回の出合いはこれで一応の成果を見ました。外に出ると、火照った体が夜気に気持ち良かったです。少しだけ、少年の心に触れることのできた喜びがわき起こりました。
「相手はひきこもりの子供でしょ。なかには暴力的な子供だっているだろうし、凶器だって持っているかもしれない。何の約束もなく、見たことも会ったこともない子供の部屋にいきなり押し入って行くなんて、無謀と違いますか?
第一、怖くないんですか?何かあったらどうするつもりですか?」しばしばされる質問です。「怖くないのか」と聞かれれば、私は、「全然怖くない」と答えます。
私が訪ねる子供たちは全員がひきこもりなどののっぴきならない状況にある子供たちです。ですが、私という人間はどういう状況の子供であれ、子供が大好きなのです。
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