Aと付き合うようになったのは、

Aの目だ。

 

世界中を敵にしている、

周りの全てを恨んでいる目つき。

とても異常な眼差し。

精神異常者に特有な暗い光。

 

誰もがAを避けて通る。

皆に嫌われている。

それも当たり前。

 

行き当たるあらゆる場所で、

もめ事を起こす。

 

犬に見られても、

俺を馬鹿にしていると腹を立てる。

常時、気が立ち、いらいら。

 

道を歩いても、

車とぶつかる。

 

Aの友人は一人もいない。

 

だから、付き合おうと決めた。

 

最初の2年は、危険だから、

外では会わなかった。

付近に誰かいる場所でのみ。

 

少しづつ、外で会うようになった。

Aの自宅も訪問。

 

Aはしゃべるのが得意。

ほとんどは作り事や虚言。

人の関心を自分に引き付ける術が天才的。

同情を得るすべを身に付けている。

巧みに相手の行動を誘導して、

自分の利益を図る。

 

相手がボロを出すように、

わなを仕掛ける。

 

付き合う相手を試す。

 

私は言動に

特別な注意を払わなくてはならなかった。

 

アムネスティの例会にも、

時々連れて行った。

 

アムネスティに参加する人は、

善意にあふれ、気位の高い人が多い。

Aの粗暴な言葉使いを聞くと、

あまりに礼儀に反しているので、

腹を立てる人もいる。

 

相手が怒れば、Aの術中にはまったも同然。

あとの出来事が大変。

 

Aのおしゃべりは、最初は馬鹿丁寧。

そして、暴力団ふうの恫喝、脅しに変わる。

人間関係は、やるかやられるのどちらか。

騙すか騙されるかのどちらか。

信頼とか許しとか寛容には、まったく無縁。

 

Aは救急車の常連。

しかし、自分から呼ぶことはない。

必ず近くの誰かが呼ぶ。

自分で行動を起こす責任から逃れるためだ。

 

Aと友人になろうと、

私は思っていたが、

不可能を感じた。

 

しかし、付き合いはやめなかった。

一度、決心したことだから。

付き合う前に半年ほど、熟慮した上の決断だった。

行きつくところまで行こうと思っていた。

 

Aが次第に、わずかではあるが、

私をたよりにするようになった。

まだ、利用しようとする方が多いけど。

 

刃物をふところに隠すことも止めた。

 

私の妻も、

最近、穏やかになったねと、言うようになった。

50を過ぎて、Aの体力も衰えてきた。

Aは若い頃からずっと、

精神科の強い薬を多種類飲んでいた。

 

私は、Aと会う回数を減らしていった。

最初の頃は、ほぼ毎日会っていたのだ。

 

Aが自立するように向けて、

手伝うのが最初からの方針。

 

Aのようなタイプの人の支援を、

独力でするのは不可能だと悟らざるを得なかった。

 

警察、保健所、市役所、民生委員、保護司、自治会長、ボランティアの

多数がチームをつくり連携しなくては、

到底できない難問。

 

独りでやると、

相手の罠にはまって、

大けがをする結末になる。

 

池田小事件のタクマ氏に似ているなと感じる。

 

私の挑戦は無謀だった。

 

たった一人も救えないという思いが残った。

 

つづく