吃音治療は難しい・・続き

 

20年もかかって、少しづつ良くなっていった。と

前回書いた。

 

吃音を意識しなくなって、

一番の驚きは、

考えながら、話せるということ。

話すのがとても楽になった。

 

吃音は、

発声に全エネルギーを使うので、

同時並行して、考えることはできなかった。

 

普通の人は、

発声するとき、

呼吸や声帯や腹筋や喉など

発声器官を意識しない。

 

吃音者は発声器官に意識が集まり、

喉の動きさえもコントロールしようとする。が、

当然できない。不可能。

 

普通の人は

話すとき、呼吸のことまで意識しない。

息継ぎが必要になったらするだけ。

全て無意識にやっている。

 

歩くとき、足を交互に出そうと意識しなくても、

足が勝手に動くように。

 

人の意識は、

リアルタイムではないと、

最近の研究で分かっている。

 

無意識の領域で、

右か左かが、まず決められ、

意識は後追いで理由づけていく。

 

睡眠による暗示を使った実験がおもしろい。

暗示により、左右どちらを選ぶかがインプットされた

被験者は、

その通りに実行する。

 

なぜ選んだのか、

理由を問われた、被験者は、

まさにそれらしい理屈づけをする。

理屈は好きなように作れる。

 

被験者は暗示された事実を知らない。

しかし、選択は自分が行っている。

理由が必要になり、

後から意識化がされるのだ。

 

野球もサッカーも選手たちは、訓練によって

球や状況に即座に対応できるように

筋肉と運動機能の敏捷性を作り上げる。

意識の領域よりも

無意識で動く領域の方が

圧倒的に深く、広い。

意識は運動の一部をカバーするだけ。

 

人が発声するときも同じ。

無意識が主で、意識はわずか。

歌手が歌う時、アップになる画面を見ていると、よくわかる。

口の動きは、次ぎの発声に備えている。

 

ところが吃音者は、今、まさに口から出すべき言葉に

全力で集中している。

これでは話せない。

無意識レベルで、口は次に出す言葉を準備しなくてはいけないのだ。

今、口から出す言葉に集中しては話せなくなる。

 

「おはよう」と発声したいときは、

「お」を発音する瞬間に、発声器官では

次ぎの「は」が準備段階に入り、すでに進行中。

 

「は」が進行中なのに、「お」を意識すると、

発声器官は混乱し、前に進めなくなる。

 

人の意識は、

生活の、ほんの一部の物語りを作るが、

生活の大部分は無意識の領域。

だから、人は

自分のことが、自分でさえも理解できないのだが。

 

つづく