- 無言の旅人/仙川 環
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愛する人が望む死を受け入れられますか?
交通事故で意識不明になった婚約者の自宅から
「尊厳死」の要望書が見つかった……。
元医学ジャーナリスト、ベストセラー『感染』の著者による慟哭のミステリー
人は誰のために生き、誰のために死ぬのか――。
交通事故で意識不明になった三島耕一の自宅から見つかった尊厳死の要望書。
希望を叶えるべきか否か、婚約者、家族、医者は激しく動揺する。
しかし、苦渋の選択を強いられた周囲の思いもむなしく、
耕一は突然息を引き取った。
殺人か、医療ミスか?
原因究明に乗り出した婚約者が掴んだ不可解は事実とは。
――――― 帯より
個人的評価 : ★★★★☆
仙川さんはこれで6冊目なんだけど、
その中で一番面白かった。
「殺人か、医療ミスか」というミステリ部分も面白くなかったわけではない。
あからさまに怪しげな人が登場するものだから、その人たちが担う役割だとか、
耕一の真意だとか。
なんだけど、それよりもそもそも「尊厳死」というテーマがとても興味深くて。
幸いにも実際にそういう決断を迫られる状況になったことは未だないし、
医者でも看護師でもないからどれも想像でしかないけど、
出てくる人の考え方のほとんどが(全て、100パーセントではないにせよ)
納得も共感もできるから。
ちゃんとした大人がきちんと考えた結果である最後の願い、
それを自分の都合で握りつぶしていいものだろうか、
聞き入れて叶えてやるべきではないだろうかという気持ち。
それでも大切な人に死んで欲しくない、
まだ生きている(体温も感じれば反射とはいえ動きもする)人を殺すなんて、
できないししたくないという気持ち。
尊厳死という重大な問題について聞かされていなかったことで
相手の自分に対する信頼を疑って傷ついたり悲しんだりするのも。
大切な人の尊厳死を受け入れるかどうかを考える中で
家族の間で感情が行き違って苦しいと思うのも。
患者本人が望んでいないことがはっきり示されている場合に限って
尊厳死は認められていいはずだ、
自身がそういう状況になったなら尊厳死を認めて欲しいという気持ち。
それでも最後まで患者を、命を救うためにできることをやるべきだ、
それが医師の仕事だという気持ち。
どれもこれもが一理あると思えてしまう。
意識不明になったのが私自身なら、
その上回復の見込みがない(打てる手がない)のなら
延命治療はせずに尊厳死させて欲しいと思う。
その反面、意識不明になったのが大切な誰かなら、
その人を死なせることを受け入れる決断をする自信はない。
「もしかしたら」と奇跡を願うことをやめられないのではないかと。
家族にとっても医師にとっても難しくて厳しい問題だな。
ドナーカードは随分前に持ったし、母にサインもしてもらったけど、
それっきりそんな話を家族できちんとしたことないな……。