体をいためない 古武術介護
理学療法士 介護福祉士 岡田慎一郎
一人ではベッドから起きにくい方を無理なく起こす技術です。
実際の介護現場でベッドからの起こし方を見ると、手伝い過ぎてしまうことが多いように思います。例えば、起きるのが大変そうだからと、最初から最後まで起こしてしまい、介護を受ける方は何もしないで、身を任せてしまう介護も珍しくありません。
一見、優しい介護に思えますが、本人が出来ることも手伝うと、動く機会を奪うことになり、かえって意欲の低下を招いてしまう可能性があります。介護者の動きは、最小限にすることが大切です。
まず、介護を受ける方の動きをよく見てみましょう。介護者の方を見たり、ベッドの柵をつかんだり、足を動かしたりと、部分的な動きは出せていますが、起きる動きをしようとすると、どうもうまくいきません。
起きる動きは全身のバランスが取れて初めて行える、実はかなり高度な動きなのです。
しかし、バランスが取れれば、あとは動ける要素がそろっているので、介護者は力ずくで起こす必要はなく、バランスを補うだけになります。
具体的には、寝た状態から肘(ひじ)を見るようにして上体を起こす時、襟の下辺りに軽く手を添えます。上体を起こそうとする力は加えません。あくまで、相手の動きのペースに合わせ、バランスが取れて動きやすい状態を保つだけでいいのです。
手のひらが上の状態から手首を返し、肘を伸ばしながら上体が起きてくると、股関節(こかんせつ)と膝(ひざ)もしぜんとまがり、足をベッドの側面に下ろす動きが出てきます。
この時、介護者は膝に軽く手を添えますが、力で足を下ろすことはしません。手を添えながら相手の動きに合わせ、動かしにくい場合のみ誘導します。
すると、足の重さが活用され、自然と上体も起きてきます。全体的に見ると、襟の下と膝に手を添えてバランスを取り、頭が半円を描くような起き方です。両足が床についたら両手をベッドに付き、安定した姿勢をとってもらいます。
バランスだけ取っても、起きられないのではと思うかもしれません。しかし、実際に行うと想像以上に動きを引き出せることに、介護を受ける方と行う方、双方が驚くことも少なくありません。
ぜひ、試してみてください。