子どもが輝く ほのぼの育児
児童精神科医 佐々木 正美

 学校生活のいじめや不登校の状況は、世界のほかの国には類を見ないほど、わが国では深刻な問題です。その数や頻度や程度が、ひどいということです。
 この連載の第一回にも、関連することを少し書きましたが、わが国の青少年ひきこもり現象について、国際的な活動をしてきたアメリカのジャーナリスト、マイケル・ジーレンジガー氏は鋭く分析しました。入念な取材と調査によって著わした『ひきこもりの国』という本で、同氏は、日本の親子間には「愛着」の形成が弱いことを、明解に指摘しています。親子のきずながもろいということです。
 例えば、日本の子どもは幼い時から、親の顔色を伺いながら話をしていて、親子間に心から信頼しきった「本音の会話が乏しい」ことを挙げ、危惧しています。
 多くの子どもにとって、母親に抱く愛着は、その後すべての人間関係の、基本をなすものです。母親から「無条件に、十分に」愛されていることを実感することで、心が豊かに育っていくのです。
 わが国の子どもは、母親への愛着が弱い。そして、そのことが子どもの不登校や青年のひきこもりということに、根っこのところで深く結びついていると指摘しているのです。
 愛着の感情とは、人を信じることの原点ですから、大切に大切に育てられてこなければならないものです。
 過日、NHKのテレビ番組の中で、ひきこもりの特集をしていました。カメラの前で語った若者の何人もがそろって、人間関係が怖いという意味のことを、発言したことに、深刻な心配をしています。
 別の番組では、就職の面接を担当した、人事課の人たちが、卒業を前にした大学生の「顔が死んでいる」と表現していました。これには、驚きを通り越して、悲しみを感じました。
 これらの若者たちは、幼少期から無条件に十分に愛されてきた経験が大きく不足していたのでしょう。
 私たちはいつのころから、子どもたちに、あれこれできるようにと、大人の側からの希望や条件を大きくしてしまったのでしょうか。そうした子どもの心を無視した過剰な期待が、一部の子どもたちには大きな重荷になっているのです。