対人不安に襲われた大学生
若者のキモチ

教育・心理カウンセラー 玉永 公子

 相談に来たA君は青ざめていた。彼は大学入学後、アルバイトに力を入れすぎたため、学業が疎かになり、留年してしまったのだ。気が付いてみると、周囲の友人はみな卒業し、知人・友人は一人もいなくなっていた。
 こんな時、大学を辞めて社会人になる人もいるが、母子家庭で一人で育ててくれた母のことを思うと、「卒業できませんでした」とは言えなかった。新学期を迎え、学業中心の生活に向けて立て直しを図ろうと、授業に出席した。
 ところが、出会う人すべてに恐怖を感じる。不安と焦りで、何もかも、人生さえも投げ捨ててしまおうとまで考えたという。「対人不安」に襲われたのである。
 元来、真面目なA君だったことから、母親に経済的負担をかけまいと、働くことが中心の生活になった。「学業はなんとかなるだろう」との油断があった。来談した彼と一緒に、今しなければならないことは何かを考えた。それは「卒業して母を安心させること」であった。そこに向け、できることから始めるよう促した。そして、「周囲の人々によく見られたい」という欲求は捨てるように伝えた。
 心理学者リアリィは「対人不安の自己呈示理論」の中で、人は自分をよく見せたいという動機が強いのに、思い通りの印象を与えられないと予想する時、対人不安が生じる、と示唆している。
 その後、彼は見栄や外聞を捨て、学業に本気で取り組むようになった。
 多くの若者たちは、何らかの形で失敗体験を持つ。A君で言えば、彼は、学生の本分を忘れるという失敗を犯したけれど、勇気を出して、だれかにその状況を話してみたことで、自己を客観的に見つめ直すことができた。自身の歩むべき道は四方八方に開かれていて、すべてを諦める必要はないということに、彼は気付いたのだ。
 最悪の事態と思われる状況を話せる相手がいれば、最悪の選択をとることは避けられる。若者には、何でも話せる人の存在が必要である。